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第三部 冬晴(ふゆばれ)
第7話
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アリスの母親が借りているという駐車場に、加藤学の車は停めてあった。
おそらくだけれど彼の年収は億を軽く超えているはずなのに、そこに停められていた車は、外車でも高級車でもなく、わたしの両親のものとさして変わらないような軽自動車だった。
「意外ですね」
と言ったわたしに、
「外車とか高級車に乗ってると思った?」
と、彼は少し落胆したように言った。
わたしはその表情を見て、今自分が思っていることをそのまま口にしなければ、彼を勘違いさせてしまうと思った。
「正直、驚きました。
でも、学さんの今の顔を見て、きっとあなたに言い寄る女の人たちはそういう人が多いのだろうな、と思いました。
たぶんこれは、あなたが自分に言い寄ってくる女性にしかけている最初のテスト、なんですよね。
勝手に外車や高級車を期待して、勝手に落胆する。
そういう人は、あなたが好きなんじゃなくて、あなたの持っているお金が好きなだけ。
これは、わたしが勝手に思ったことなんですが、たぶんあなたにとって車はただの交通手段に過ぎなくて、家電と同じような感覚。
いつかは買い換えるものだから、最低限の機能があればいい。
そして、そういうあなたの価値観が理解できない女の人は、たぶんお金の使い方の根本が違うから、どんな美人であってもあなたはお付き合いしない」
わたしがそう言うと、彼はとても驚いていた。
「よくわかったね」
「あれ? もしかして、普通……じゃないですか? わたし」
と、わたしが返すと、彼はさらに驚きながら、助手席のドアを開けてくれた。
わたしは、お邪魔します、と言って、車に乗ろうとして、念のために、土足でも? と聞いた。
彼は、もちろん、と答えた。
運転席に座った彼に、わたしは続けた。
「わたしはまだ高校生だし、男の子と付き合ったこともないし、車のこともよくわからないんですが……
燃費が悪かったり、無駄に維持費がかかるだけの外車や高級車に乗る意味って、あまりないと思うんです。
もし、それに意味があるとしたら、自己顕示欲や承認欲求を満たすためだと思うんです。
高い車に乗ることでしか、それを満たせない人は、おそらくその人自身だけでは、一生その欲求を満たせない人。かわいそうな人だとすら思います。
おしゃれと同じです。安いものでいくらでもおしゃれはできるのに、ブランドにこだわる人がいるのと同じ。
あなたは、世界中の人々に作品を認められているから、自己顕示欲も承認欲求も満たされている。
だから、車や服にこだわる必要はないんだと思います」
わたしの言葉を、最後まで聞いた彼は、
「さすがに今日の格好はどうかとおもうけどね」
と、ルームミラーを見ながら言った。
「本当にひどい寝癖だ」
アリスに言われたことを気にしているようだった。
「隣を歩いてくれる女性が恥ずかしい思いをしなくていいくらいには、普段から身なりには気を遣っていたんだけどね」
最近はそれどころじゃなかったから、と彼は言った。
わたしは、構いませんよ、と答えた。
「ぼくが構うんだよ。だから、羽衣ちゃんをデートに誘うのはまたの機会にするよ」
そう言って、シートを倒して、大きく伸びをした。
「羽衣ちゃんに出会えてよかった」
そう言ってくれた。
「わたしも、ずっと憧れていたあなたに出会えてよかったです」
わたしもシートを倒して、彼の隣で並んで大きく伸びをした。
「羽衣ちゃんが聞きたいこと、なんでも聞いて。ぼくが知っている限りのことは、答えられる限りのことは全部話すよ」
おそらくだけれど彼の年収は億を軽く超えているはずなのに、そこに停められていた車は、外車でも高級車でもなく、わたしの両親のものとさして変わらないような軽自動車だった。
「意外ですね」
と言ったわたしに、
「外車とか高級車に乗ってると思った?」
と、彼は少し落胆したように言った。
わたしはその表情を見て、今自分が思っていることをそのまま口にしなければ、彼を勘違いさせてしまうと思った。
「正直、驚きました。
でも、学さんの今の顔を見て、きっとあなたに言い寄る女の人たちはそういう人が多いのだろうな、と思いました。
たぶんこれは、あなたが自分に言い寄ってくる女性にしかけている最初のテスト、なんですよね。
勝手に外車や高級車を期待して、勝手に落胆する。
そういう人は、あなたが好きなんじゃなくて、あなたの持っているお金が好きなだけ。
これは、わたしが勝手に思ったことなんですが、たぶんあなたにとって車はただの交通手段に過ぎなくて、家電と同じような感覚。
いつかは買い換えるものだから、最低限の機能があればいい。
そして、そういうあなたの価値観が理解できない女の人は、たぶんお金の使い方の根本が違うから、どんな美人であってもあなたはお付き合いしない」
わたしがそう言うと、彼はとても驚いていた。
「よくわかったね」
「あれ? もしかして、普通……じゃないですか? わたし」
と、わたしが返すと、彼はさらに驚きながら、助手席のドアを開けてくれた。
わたしは、お邪魔します、と言って、車に乗ろうとして、念のために、土足でも? と聞いた。
彼は、もちろん、と答えた。
運転席に座った彼に、わたしは続けた。
「わたしはまだ高校生だし、男の子と付き合ったこともないし、車のこともよくわからないんですが……
燃費が悪かったり、無駄に維持費がかかるだけの外車や高級車に乗る意味って、あまりないと思うんです。
もし、それに意味があるとしたら、自己顕示欲や承認欲求を満たすためだと思うんです。
高い車に乗ることでしか、それを満たせない人は、おそらくその人自身だけでは、一生その欲求を満たせない人。かわいそうな人だとすら思います。
おしゃれと同じです。安いものでいくらでもおしゃれはできるのに、ブランドにこだわる人がいるのと同じ。
あなたは、世界中の人々に作品を認められているから、自己顕示欲も承認欲求も満たされている。
だから、車や服にこだわる必要はないんだと思います」
わたしの言葉を、最後まで聞いた彼は、
「さすがに今日の格好はどうかとおもうけどね」
と、ルームミラーを見ながら言った。
「本当にひどい寝癖だ」
アリスに言われたことを気にしているようだった。
「隣を歩いてくれる女性が恥ずかしい思いをしなくていいくらいには、普段から身なりには気を遣っていたんだけどね」
最近はそれどころじゃなかったから、と彼は言った。
わたしは、構いませんよ、と答えた。
「ぼくが構うんだよ。だから、羽衣ちゃんをデートに誘うのはまたの機会にするよ」
そう言って、シートを倒して、大きく伸びをした。
「羽衣ちゃんに出会えてよかった」
そう言ってくれた。
「わたしも、ずっと憧れていたあなたに出会えてよかったです」
わたしもシートを倒して、彼の隣で並んで大きく伸びをした。
「羽衣ちゃんが聞きたいこと、なんでも聞いて。ぼくが知っている限りのことは、答えられる限りのことは全部話すよ」
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