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小早川秀秋

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「おっと。治部殿。」

津久見の身体をその美青年が支える。



「うっ。」

津久見は何とか気を保つ。

「あ、ありがとうございます。」

と、改めてその男を見る。

高身長に鼻が高く、細く切れた目。

街を歩けば一瞬で人だかりができてしまいそうなイケメンである。



(こ、この人が小早川秀秋???)



意外な容姿に見惚れていると、

「治部殿?」

と、良い声でこの男は問いかけてきた。

「あ、はい。」

我を取り戻し、津久見は答える。



「少し歩きましょう。治部殿。」

「え。はい。」

と、二人は歩き出した。



道中無言のまま、二人は松尾山から関ヶ原全体が見渡せるような丘に着いた。



「ふう。歩きましたな。」

「そうですね。ここは全体が見えますね。金吾さん。」

「はい。ここはこの戦の要所も要所。東軍が本隊に深入りすればするほど、我が軍が横を突けば、袋の鼠でございますからな…。」

と、その秀秋は言う。

「そうですね…。」

津久見は複雑な面持ちで言う。



歴史ではこの青年の裏切りにより、大谷隊は敗走。

脇腹を突かれる形で石田本隊も打撃を受け、結局は敗走する事となる。



津久見の心境は複雑だった。

(この青年の葛藤は計り知れない。多分先程平岡ちゃんが言ってた、徳川の伝令は裏切りの催促…。そこに俺が来たんだから…。)



平野では今も激突が繰り返され、爆発音や叫び声が聞こえる。



その音を消すように秀秋は口を開いた。

「先程の伝言…。心に刺さりましたぞ。」

「そうですか。」

「知っておられるのですね?治部殿は。」

「はい。」

「でしたら何故、あのような伝言を?」

「…。」

「わたしはてっきり、早く家康公へ攻め入れ、との催促かと思っていましたので、伝言を聞いたとき、驚きました。そして、あの言葉は貴方が、全てをご存じで、何か優しささえも感じました…。」

「…。」

「重臣たちの意見はほとんど、家康公につくようにと進めてまいりました。」

「そうですか…。」

「治部様へ付くように進言して来た者もおりましたが、その者達は重臣たちに連れていかれました。多分殺されました。」

「それは、なんとも…。」

「そんな中治部殿のあの伝言。それまで私は自分の意志がありませんでした。あの時までは。」

と言うと、その精悍な顔を津久見に向ける。

「私は…」



と、その時である。

「パンパーン!」

と、銃声が聞こえた。

二人とも、銃声の方を見る。

「パンパーン!!」

また撃ってくる。



そこは、東軍・家康の部隊からのものであった。



(始まったか…。)

と、津久見は思った。

(秀ちゃん。どう出るかな…。)



しかし、その瞬間である。

その銃声をも遥かに超える声が西軍側から聞こえて来た。



「きえ~~~~!!!」

「きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!」

異常な程気合の入った声が、戦場に鳴り響く。



「おっちゃん…。」

津久見は笑顔になる。



小早川の目を優しく見る。

「金吾殿…歴史が変わり始めましたぞ。」

「ん?」

「誠実さは届くもののようです。」

津久見は歩き出した。



小早川はまだその声の方を見ている。

目を細め、遠くその部隊を見てみると、

丸坊主の髭男が大声で笑っているようだ。

その周りの約1500の兵が太鼓に合わせて、叫んでいる。

手には何も持っていないが、今にも突撃していきそうなほどな勢いである。





「あれは薩摩の…。」





第12話 完
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