天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志

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二つの咆哮

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「おら!もっと声を出せい」



義弘が叫ぶ。

薩摩兵は

「きえ~~~~!!!」

と、なお叫ぶ。

「違うわ!こうじゃ」

と、諸将の前へ出て両手を腰にやると、今にも後方に倒れるほど身を反らし叫ぶ。

「きえ~~~~~~~~~~~~!!!」

1500の兵を合わせても敵わぬ程の、芯のある声だった。

「ほれ豊久。おぬしも」

と、弟の島津豊久に笑いながら言う。

「殿…。何故、このような…?」

「ええからせえ」

「はあ」

と、訝しめな表情で、義弘の前に出る。

「ほれ太鼓!」

と、義弘が陣太鼓を促す。

「ドンドン!」

「きえ~~~~!!!」

「ドンドン!」

「きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!」

もう躍起である。

それを見て義弘は大声で笑う。

「それで良い。それで良い。ほれ続けよ。」

と、諸将に伝えると、視線を松尾山へ向ける。



「聞こえるか!治部よ!!そこにおるのじゃろ!?約束は守ったぞ!」



「はははははは。」

と、笑いながら椅子に座り、少将の声出しを見てニコニコしている。



(さあ、治部よ。次はどうする。)





そんな薩摩兵の陣を見ている小早川秀秋は震えた。

何故、彼らが叫んでいるのかは分からない。

だが先程の三成の『歴史が変わり始めておる』の言葉と、鬼気迫り、まるでこの戦を楽しんでいそうな義弘の笑い声…。



秀秋は自分の身体が熱いのを感じた。

「なんじゃ…。この想いは…。」



一度は太閤秀吉の跡継ぎとして、その前途を羨望のまなざしで見られいた時もあったが、秀吉に子ができ、小早川家に養子となった。

そして小早川家の大将として今ここにいる。

自分の意志で選んできた道ではない。

でも今は違う。自分の中に流れる熱き想いをぶちまけたいと思った。



「うお~~~~~~~~!!」

「うお~~~~~~~~~~~~~!!!」

と秀秋は叫んだ。叫んだ後の顔は、精悍な青年若大将の顔であった。



義弘は遠く松尾山の咆哮が聞こえた。いや、聞こえたというより感じた。

(ふっ。小早川のぼっちゃんかの。いっちょ前になりよった)

と、また笑った。



秀秋の咆哮を後方で聞いた津久見は振り返った。

秀次が近付く。

「治部殿!何か清々しいですぞ!」

「左様でございましたか!良かったです。」

「して、私は如何しましょう?徳川本陣を攻め込みまするか?」

秀秋の目はキラキラしている。

「…。いや、金吾殿。良いのですな。」

「うむ。」

「それでは松尾山からゆっくりゆっくり武装して、鬨の声を上げながら降りて行ってください。」

「ふむ。してどこを攻める?」

「どこも攻めません。」

「え?それはどういう…?」

津久見は少し黙り、秀秋の目を見て、

「私はここに来るまでに幾多の死体を見てきました。首は切られ、自分の飛び出した内臓を集める兵。その兵は『おっかあ』と、最期の言葉を発して息絶えてました。」

「…。しかしそれが戦と言う物でございませぬか?治部殿。」

「はい。でも私は戦の無い世を作りたいと、願うのです。亡き太閤と同じように。」

「…。左様でございますな。しかし、家康公は和議なぞ…。」

「はい。でも、全力を尽くします!金吾殿は松尾山から下りて、鬨の声を上げ、徳川の上空にでも発砲しちゃえばいいでしょう。高をくくった家康はさぞ驚くでしょう。」

「…。はあ。まあ。」

「そいう事でお願いします。」



と言うと、津久見は足早に左近たちの元に戻る。



程なくすると、左近と平岡と合流した。

「殿。お待ちしておりましたぞ!大事ございませぬか?

「うん!秀ちゃんも大丈夫。」

「秀ちゃん?」

「行くよ!」

「はあ。」

津久見はシップにまたがると、次の手を考えていた。



(戦を止めるには…。)

第13話 完
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