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第29話
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忙しなく退陣の準備が行われている、関ヶ原のド真ん中を、左近と津久見は馬を走らせていた。
(これで良かったのか…。)
日本史のターニングポイントでもある、この関ヶ原の戦いを、自身の保身で歪め、変えて行ってしまう責任・重圧をその背中に背負いながら走っていた。
「殿。」
左近が、並走しながら話しかけてきた。
「どうしたのですか?」
「まさかの展開でございますな。」
「そうですね…。」
「しかし、殿の言われる、戦の無い世の中…私目には到底想像のつかないものではございますぞ。」
「…。」
「しかし、私はこの命を殿に捧げると、あの時誓っておりますので、どこまでも殿に付いて行きまするぞ。」
と、その威厳ある顔、胴体からは想像もできない程の笑みを津久見に見せた。
「左近ちゃん…。」
島 清興しまきよあき 通称・左近。
三成に三顧の礼をもって迎えられ破格の高禄を食む側近として仕え、「治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり 島の左近と佐和山の城」と謳われるほどの逸材である。
左近に三成からの仕官の要請があった時、それまでも多くの要請を断ってきた左近はやはり断るが、三成の説得により仕官を受け入れ、2万石の俸禄で召し抱えられた。これは、当時の三成の禄高4万石のうちの半分を与えられるという破格の待遇であり、『君臣禄を分かつ』の逸話として伝えられている。
(心強いな、左近ちゃん…)
「それにかの者たちも、殿に惚れ込んでおるようでございまするな…。」
と、左近は前方を見つめる。
そこには、平岡と喜内の姿があった。
何か叫びながら、馬をこちらに走らせている。
二人が近付く。
「殿~!」
喜内が言う。
「ああ、喜内さん。」
「殿。御無事で何よりでございます。」
「ありがとう。」
「大谷刑部様に事の子細をお伝えした所、ぱっぱっと、指示を出されまして、各隊退陣の準備に入られましたぞ。さすがでございますな…。」
と、感心しながら言う。
「そうですか、ありがとうございます。大谷さんは何か言ってましたか?」
次は平岡が前に出て続けた。
「『治部め、何をするか分からんが、わしも治部に預けた命じゃ』と、笑っておられました。」
「はは。そうですか。」
津久見は少し笑うと、大谷吉継の顔を思い浮かべた。
「しかし…」
平岡が続ける。
「刑部様の陣幕で事の子細をお伝えしていた時、思いもよらぬ、停戦命令に、宇喜多隊の一部が、異議を唱え、その家臣が陣幕に押し寄せてまいりまして…。」
「何!?宇喜多隊が?」
左近が言う。
「はい。でも…。」
と、平岡は話を続けようとする。
すると、喜内が遮るように言った
「平岡!もう良いではないか。さあ行きましょう。」
と、少し顔を赤らめて言う。
「どうしたのですか?」
「あ、はい…。」
と、平岡は隣にいる顔を赤らめている、喜内を見ながら言う。
「喜内様が『殿の御意向でござる!戦の無い世を、作る。身命を賭して、この戦に駆け付けた志を、今後は民百姓の平和の世の為に尽力していくのじゃ!』と、言われ、その威に屈した宇喜多勢の家臣は渋々、陣に戻り、撤退の準備を始めましてございまする。」
「なんと…」
左近が驚く。
(ここまで、三成様に傾倒しておるとは)
と、少し驚きながらも、嬉しくなった。
「そうですか。喜内さん。ありがとうございます。」
津久見はニコッと笑い、喜内に言った。
喜内はもぞもぞしながら
「いや、わたくしはただ…。」
と、尚顔を赤らめた。
津久見一行は久しぶりの本陣に戻って来た。
「さて、準備をして、大垣城に向かいましょう。」
「はっ!」
津久見はまた馬上の人となった。
(天竜川を境に日本を二つに割り、戦の無い世の中を作って行く、か…)
関ヶ原を離れ、大軍が列をなし道を進む。
(領土問題が一番の要…。それに、九州にはあの人がいるし。西軍でない諸大名をどう扱うか…。)
空は夕焼けに染まる。
約400年後の世界で生きてきる津久見は、この時代の日本の綺麗さを知らない。
ビルも無ければ、街灯も無い。
川のせせらぎが心地よい。
そんな風靡な事にかまけながらも、津久見の頭はずっと回転していた。
(まずは、豊臣家を中心として、結束を固める。そして、各大名に今の領土と同じ規模の領土を安堵し…)
遠く彼方に大きな城が見えてきた。
大垣城である。
(俺はどう振舞えばいいんだ?あくまで俺は豊臣家の家臣に過ぎない。秀頼に全てを任す?いや、秀頼に会った事が無いから、その器も計り知れない…。本当はこの数年後、大阪の陣で、豊臣家は滅亡してしまうんだもん。)
津久見は頭から煙が出る位、思考を駆け巡らせたいた。
(それに、やっぱりあの女がどう出てくるか分からない…)
すると前から砂埃を上げ馬に乗って走って来る者がいた。
それに気づかず津久見は尚、考える。
(淀…。この女。この関ヶ原の戦でも、豊臣家の安穏の為に、色々策を巡らせていたっていう話も聞いたし…。う~ん、厄介だな…)
すると先程の馬の男が津久見の前で止まり、馬から降りた。
男は、喜内であった。
先に大垣城の様子を見るようにと、左近に頼まれて物見に出て行ったのである。
「殿!大垣城に、淀君様からの使者がお見えになられている様子でございます!何でも、勝手に休戦の令のを出した事を知り、たいそうお怒りになられているようでございまする。」
喜内は言う。
「ぐはっ。」
津久見は、確かにそう言うと、白目になり、シップの上に倒れかかった。
第29話 完
(これで良かったのか…。)
日本史のターニングポイントでもある、この関ヶ原の戦いを、自身の保身で歪め、変えて行ってしまう責任・重圧をその背中に背負いながら走っていた。
「殿。」
左近が、並走しながら話しかけてきた。
「どうしたのですか?」
「まさかの展開でございますな。」
「そうですね…。」
「しかし、殿の言われる、戦の無い世の中…私目には到底想像のつかないものではございますぞ。」
「…。」
「しかし、私はこの命を殿に捧げると、あの時誓っておりますので、どこまでも殿に付いて行きまするぞ。」
と、その威厳ある顔、胴体からは想像もできない程の笑みを津久見に見せた。
「左近ちゃん…。」
島 清興しまきよあき 通称・左近。
三成に三顧の礼をもって迎えられ破格の高禄を食む側近として仕え、「治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり 島の左近と佐和山の城」と謳われるほどの逸材である。
左近に三成からの仕官の要請があった時、それまでも多くの要請を断ってきた左近はやはり断るが、三成の説得により仕官を受け入れ、2万石の俸禄で召し抱えられた。これは、当時の三成の禄高4万石のうちの半分を与えられるという破格の待遇であり、『君臣禄を分かつ』の逸話として伝えられている。
(心強いな、左近ちゃん…)
「それにかの者たちも、殿に惚れ込んでおるようでございまするな…。」
と、左近は前方を見つめる。
そこには、平岡と喜内の姿があった。
何か叫びながら、馬をこちらに走らせている。
二人が近付く。
「殿~!」
喜内が言う。
「ああ、喜内さん。」
「殿。御無事で何よりでございます。」
「ありがとう。」
「大谷刑部様に事の子細をお伝えした所、ぱっぱっと、指示を出されまして、各隊退陣の準備に入られましたぞ。さすがでございますな…。」
と、感心しながら言う。
「そうですか、ありがとうございます。大谷さんは何か言ってましたか?」
次は平岡が前に出て続けた。
「『治部め、何をするか分からんが、わしも治部に預けた命じゃ』と、笑っておられました。」
「はは。そうですか。」
津久見は少し笑うと、大谷吉継の顔を思い浮かべた。
「しかし…」
平岡が続ける。
「刑部様の陣幕で事の子細をお伝えしていた時、思いもよらぬ、停戦命令に、宇喜多隊の一部が、異議を唱え、その家臣が陣幕に押し寄せてまいりまして…。」
「何!?宇喜多隊が?」
左近が言う。
「はい。でも…。」
と、平岡は話を続けようとする。
すると、喜内が遮るように言った
「平岡!もう良いではないか。さあ行きましょう。」
と、少し顔を赤らめて言う。
「どうしたのですか?」
「あ、はい…。」
と、平岡は隣にいる顔を赤らめている、喜内を見ながら言う。
「喜内様が『殿の御意向でござる!戦の無い世を、作る。身命を賭して、この戦に駆け付けた志を、今後は民百姓の平和の世の為に尽力していくのじゃ!』と、言われ、その威に屈した宇喜多勢の家臣は渋々、陣に戻り、撤退の準備を始めましてございまする。」
「なんと…」
左近が驚く。
(ここまで、三成様に傾倒しておるとは)
と、少し驚きながらも、嬉しくなった。
「そうですか。喜内さん。ありがとうございます。」
津久見はニコッと笑い、喜内に言った。
喜内はもぞもぞしながら
「いや、わたくしはただ…。」
と、尚顔を赤らめた。
津久見一行は久しぶりの本陣に戻って来た。
「さて、準備をして、大垣城に向かいましょう。」
「はっ!」
津久見はまた馬上の人となった。
(天竜川を境に日本を二つに割り、戦の無い世の中を作って行く、か…)
関ヶ原を離れ、大軍が列をなし道を進む。
(領土問題が一番の要…。それに、九州にはあの人がいるし。西軍でない諸大名をどう扱うか…。)
空は夕焼けに染まる。
約400年後の世界で生きてきる津久見は、この時代の日本の綺麗さを知らない。
ビルも無ければ、街灯も無い。
川のせせらぎが心地よい。
そんな風靡な事にかまけながらも、津久見の頭はずっと回転していた。
(まずは、豊臣家を中心として、結束を固める。そして、各大名に今の領土と同じ規模の領土を安堵し…)
遠く彼方に大きな城が見えてきた。
大垣城である。
(俺はどう振舞えばいいんだ?あくまで俺は豊臣家の家臣に過ぎない。秀頼に全てを任す?いや、秀頼に会った事が無いから、その器も計り知れない…。本当はこの数年後、大阪の陣で、豊臣家は滅亡してしまうんだもん。)
津久見は頭から煙が出る位、思考を駆け巡らせたいた。
(それに、やっぱりあの女がどう出てくるか分からない…)
すると前から砂埃を上げ馬に乗って走って来る者がいた。
それに気づかず津久見は尚、考える。
(淀…。この女。この関ヶ原の戦でも、豊臣家の安穏の為に、色々策を巡らせていたっていう話も聞いたし…。う~ん、厄介だな…)
すると先程の馬の男が津久見の前で止まり、馬から降りた。
男は、喜内であった。
先に大垣城の様子を見るようにと、左近に頼まれて物見に出て行ったのである。
「殿!大垣城に、淀君様からの使者がお見えになられている様子でございます!何でも、勝手に休戦の令のを出した事を知り、たいそうお怒りになられているようでございまする。」
喜内は言う。
「ぐはっ。」
津久見は、確かにそう言うと、白目になり、シップの上に倒れかかった。
第29話 完
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