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第36話

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「あ、左近様じゃ。」

町人が、またひれ伏す。

遠くから左近が馬に乗り、やって来たのである。



「殿!!こんな所にいらしたのですか。」



「左近ちゃん、おはよう。」



「朝餉あさげ終わりに出発というのに…。」

と、左近は集まった町人達を見ながら言った。



「そうですか、では行きましょう。」



と、シップに跨る。



「はっ。」

と、左近が先に進む。



津久見は、ゆっくり進みながら、おもむろに止まると、振り返り



「皆さん!!!皆さんで平和な世の中を作って行きましょうね!!」

と、大声で言うとシップの脇を蹴り走り出した。

後ろからは、勝ち鬨のような声が聞こえた。



程なくすると、津久見達は伏見城に着いた。

京に置かれる、巨城である。

左近が、見張りの者と話すと、城門は開いた。

伏見城の広間に津久見達は案内された。



正座をして待っていると、尼の装いの老婆が入って来た。

一同ひれ伏す。

そんな中、その尼姿の老婆は

「おみゃあ、三成かえ!よう戻って来たにゃ。」

「は…。」

「聞いた所にゃ、戦を止めたそうじゃねいか。どうしてじゃ。」



(この人が北政所…。)



「あんな憎かった内府様を、倒すと息巻いておったのに急にどうしたのじゃ?」



「はい。もう、人の死ぬのを見るのが嫌になりまして。」



「なんて?そんな理由じゃてか?お主らしくないのう。」



「はい。死に行くものには家族がおりまする。そんな家族が泣く世の中をもう、終わりにしたいと思いまして。」



「にゃんと、そぎゃあ戦に勝った者が言うもんじゃて。お主は勝つところか、休戦しよって、そんなよう言うわい。」



「はい。あの戦、続けていれば、何万人もの兵が死にます。それを回避し、家康殿とこの日の本を収めるべく、話し合いました。」



「な、な、な、なんとね…!!!!」



「天竜川を境に東西に別れ統治していく事となりました。全ては豊臣家の存続のためにございます。」



「おみゃあ、一人でそんな事よう決めよって…。内府様も内府様じゃ。」



「恐れ多くも、政所様、一つ宜しいですか。」



「何じゃ?」



「政所様はこの三成に死んでもらいたかったのではございませんか?」



「なんと??」



「故に、家康からの調略を受け、尾張の者は家康に付き、我ら近江衆を討ちたかったのでは…。」



「なんを申す!!」



「故に、福島・小早川・加藤など尾張勢は悉ことごとく、家康側に着きました。それを貴方様が煽動したものかと…。」



「なんと??何故じゃ、わたしゃ、豊臣家の存続の為に…」



「いや、違います。豊臣家ではなく、尾張の豊臣勢の為にでござりませんか?」



「ぬ…。」



「豊臣家は今、淀君とその子秀頼様の者と、多くの者は見ます。それを、亡き太閤の正室の政所様がよく思うはずもございません。」



「…。」



「私はそんな、権力闘争の元で、人が死ぬのを見ていられなくなったのです。皆が幸せに暮らせる世を作るために、私は休戦したのです。」



北政所の目には涙が溢れていた。



「ゆ…許せ。三成…。」



「はい。亡き太閤様も戦の無き世を、北政所様と夢見た日々があったと思います。それを私は引き継ぎ、実行してまいります。」



「う…。」



「では、私は大阪城へ行き、今後について話してまいります。政所様におかれましては、何かご要望はございますか?」



「と…と…殿のお近くに…。」



泣きながら言う。



津久見は北政所の元に近づき片膝をつき、手を取り

「かしこまりました。長浜に太閤の菩提寺を建立し、お骨を収めた後、北政所様のお住まいをおつくりいたします。長浜は何かと、政所様も思い入れの多い地ですからね。」



津久見は立ち上がる。



「三成…。」



部屋を出ようとする三成を北政所は呼ぶ。



「はい。」



「ありがとうな…。」



「いえ、こちらこそ!何かすっきりしました。また、困ったときにはお力添え下さい。」



と言うと、部屋を出て行った。



(あれは三成か、人が変わった様じゃ…。)

北政所は涙を拭きながらそう思った。



第36話 伏見謁見 完
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