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第43話

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「ほれ!治部殿!!!」



「ぺチン!」



「殿、今は気絶している所ではございませんぞ!」



「ぺチン!」



「早く起きてくだされ!」



「ぺチン!」



(ん…。)



「じゃあ次は拙者が…殿…。」



(あっ!)



津久見は目を覚ました。



「え、今叩こうとしたよね?」



最後の声は平岡であった。周りを見渡すと、村上武吉と喜内がいた。



「あ、そこのお二人も叩きましたね?」



むくっと立ち上がりながら津久見は言った。



三人は責められている事より、この気絶白目男の対処法が楽しくて仕方ないようであった。



「あれ、左近ちゃんは?」



「は、加藤清正様、島津豊久様近くの寺に向かわれました。」



平岡が答える。



「あ、そうなの?どうして?」



「まあ清正殿も、少しは聞き分けがあったというもんでしょうかね。」



と、次は喜内が答えた。



「そうですか…。」



(それにしても、あんな怖い想いもうしたくないや…。)



津久見は、先程の小競り合いを思い出しながら思った。



「それじゃ…。私も行きますか…。」



と、スタスタ歩き出した。



「治部殿。わしはここで待っておるわ。帰ってきたら例の話しな!!!」



後ろから村上武吉が指で銭のマークをさせながら言って来た。



津久見は振り返ると、一礼。



「はい!待っててくださいね!」



と、津久見も銭のマークを返すと、港を後にしていった。





喜内と平岡に先導され、加藤清正と左近らが話しているという、シップに乗り、寺に向かった。



(なんか懐かしいな…大分県か…)



故郷の匂いを嗅ぎながら、津久見は目を閉じた。



(加藤清正…そう言えば、石田三成を凄い憎んでて、屋敷に乗り込んで来た事があったんだっけ…。一筋縄ではいきそうにないなあ…。)



程なくすると、島津隊の兵士たちが休憩していた。



話し合いが、行われいる寺に着いたのである。



シップから降りると、手綱を平岡に渡し、



「喜内さんと平岡ちゃんはここで待っていてください。」



と言い、奥へと入って行った。



三成を見送った喜内は、平岡に向かって



「のお。殿、最近様子が変じゃねえか?」



「は。確かに。しかし、私たかが、馬廻りの身分でございますので、殿と話したのは今朝が初めてでござりまする。」



「そうか。馬廻りの連中で殿の評判はどんなんじゃ?」



「は。まあ、あまり語らず、黙々と仕事をなされていると、お話を聞いたことが、ございまするが、実際はそのような方ではござりませんような…。」



「そうか、そうか。で、お主は殿が好きか?」



「好き?好きと言うよりも…。」



「惚れ込んでおる。か。」



「はあ。」



平岡は顔を赤らめながら言った。



「わしもじゃ。殿は変わられた。殿の見る先に平和な世が本当に見えそうじゃ。」



「喜内様…。」



「まあ、課題も山積みじゃが、お主は殿の側から離れるでないぞ。」



と、平岡の肩を叩くと、近くにある木に小便をし始めた。



「はっ。」



平岡の目が凛と光った。







「失礼します…。」



と、津久見はゆっくりと、戸を開いた。



そこには左近、豊久と対峙する様に、加藤清正がどしっと座っていた。



入って来た、三成をするどく睨みつける。



「おお、殿。起きられましたか。ささ、こちらへ。」



と、左近は自分の隣を指さし言う。



津久見は、清正の視線を避けるように、座った。



「治部殿。おおかた我々が来た理由、関ヶ原での戦い、内府(家康)殿との話し合いの結果もお伝えしておりまする。」



左近が言う。



「そうですか…。ありがとうございます。」



(ここは、もう正面突破するしかないか…。)



津久見はそう思うと、口を開いた。



「朝鮮出兵の際は何かすみませんでした!」



「ん?」



「加藤さんが、私を嫌いになった発端はそこでしょ!だから謝ります。私にも私なりの言い分はありそうですが、よく分かりません!」



「どういう事じゃ?」



「謝って済むのであれば、謝ります。」



と、津久見は額を畳にすりつけた。



「治、治部…?」



「殿?」



「治部殿?」



周りの三人が、訝しめに津久見を見る。



「私は、見ての通り、細身です。武では到底加藤さんには叶いません。だから、私はこの頭を持って、太閤様にお仕えしようと、その一点です。加藤さんは加藤さんで同じだと、思います。強いから、武をもって、太閤様にお仕えした。そうでしょ?」



「…。」



「人には得手不得手があって当然。だから、得手で貢献する。でも、私は、性格が少し極端すぎたようで、冷酷に見えたかもしれません。ですから、謝ります!」



清正は、驚いていた。



いや、驚くというより、拍子抜けしていた。



今まで、何度も殺してやろうと思っていた男が、性格が180度変わり、額を畳につけてまで謝ってきている。



それに、関ヶ原の合戦では、西軍が優勢だったとも、左近達から聞いている。

なのに、何故わざわざ、豊後に。



「戦の無い世」



本当に、この男は本当にそう考え、行動しているのかもしれないと、清正は思った。



津久見はこの状況を、自分の頭の中の日本史の教科書をめくり、当時の三成、清正の関係性を想像しながら、真っ向から謝罪したのであった。



清正の口角が上がった。



第43話 謝罪 完
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