上 下
47 / 102

第44話

しおりを挟む
「まるで人が変わったようじゃな。治部よ。」



清正が探るように言う。



「そうですか?今まで言った事はすべて本心です。」



津久見は清正の目を見つめながら言う。



「しかしな…。内府殿(家康)は、この戦の働きにおいて功労者には、領土を分け与えると、東軍大名に伝えておったそうじゃ。」



「はい。」



「わしは、ちょっといざこざがあってここから出陣は叶わんかったがな…。」



「はい。」



「そこらへんはどうするんじゃ。諸国は領土拡大を担保として、内府殿へついたわけじゃぞ。」



「そこは…。考え中です。」



「考え中???はははは。」



清正は膝を叩いて笑った。



「治部よ。戦後処理も考えずに、和議をしたか。何も考えもないのに。」



「考えてないはけではないです…。」



津久見は小声で言った。



「じゃあ、申してみよ。」



清正は見下すように津久見を見る。



津久見は頭をフル回転させながら一つの言葉が浮かんだ。



「直轄領…。」



「うん?」



「直轄領です!清正さん!」



「何じゃ?」



「今現在、豊臣家が管理する直轄領が各地にあります。それを、分け与えます。」



「なんと?豊臣家の?」



「はい。まだ詰めれてはいませんが…。」



「ふ~ん。それなら、ここ豊後近辺にも数か所あるがな…。それを分け与えると?」



「はい。今後は、戦では無く、商いと、教育で国を作って行こうと思います。」



「ぬぬぬ。それなら我ら武士はどうするのじゃ?」



「…。考え中です!」



「また、それか。」



「領土問題を解決したら、その後は、その領土経営に各大名家が心血を注ぎ、産業・商業で地域を盛り上げ、武士から百姓に至るまで、笑顔で暮らせる国を作って行く。これが、今私の考えている案です。」



津久見の頭は混乱し、自分が何を言っているのかも分からないが、

最後の『武士から百姓に至るまで、笑顔で暮らせる国』だけが、一番伝えたいことであった。



それを実現するための過程は後からでも良い。今はこの大願を持って、敵対心を持っている諸大名を説得するしかないと、津久見は思っていた。



「ふん。良く分からんが…面白いのか?」



清正は、津久見を見つめ言う。



「え?」



「その国作りは、楽しいのか?と、聞いておる。」



「…。」



「どうじゃ?」



「はい!!めちゃめちゃ楽しいはずです!だって、笑顔で溢れる国ですよ!!??」



「そうか…。」



清正は、ふと天井を見上げた。



「わしも、虎之助とらのすけと太閤様に呼ばれ、市松いちまつ(後の福島正則)らと、小姓としてせっせと働いておったときは、良く笑ったもんじゃ…。」



「そうでしたか。」



「お主はいつも、どこかツンとしておったがな。」



と、清正は津久見を見て笑った。



津久見は恥かしそうに、顔を赤らめた。



(いけるか?)

津久見は心でそう思った。



すると、清正は真顔になって津久見を見つめ直すと



「それではな。」



「え?」



「条件じゃ。」



「条件?」



「うむ。お前のさっきの言った国作りの件についてじゃ。」



「はい…。」



「豊前のおじきじゃ。」



「豊前のおじき???」



「そうじゃ、豊前のあのおっさんを説得出来たら、その話乗ってやろう。」



「豊前のおじき…。黒田官兵衛。ですか?」



「そうじゃ。」



「分かりました。私は元より、そのつもりで、ここまで来たのですから。」



「自信は?」



「五分五分。」



「よう言うわ。お前如きが、あのおじきを説得できると?」



「何となく、策はありますし、官兵衛さんも策を弄して来そうですが。」



「面白い。男に二言は無い。決まりじゃ。」



と、清正は言うと、立ち上がり人をよこした。



「ほれ、治部が豊前の黒田のおじきの所に行くそうじゃ。道案内に何人かついて行け。」



「清正さん…。ありがとうございます。」



「だがな、もし黒田のおじきを説得できなかったら…。」



「できなかったら?」



清正は睨むように津久見を見る。



「殺す。」







津久見は、左近を頼るように白目を剥きながら倒れた。



第44話 条件提示 完
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【復讐譚】お姉様に差し上げますわ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:49

【完結】±Days

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

最愛の人の子を姉が妊娠しました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:759pt お気に入り:808

前世の過ちを今世で反省してます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:42

放蕩娘は〝できそこない〟

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

横須賀線東京行

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

処理中です...