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第45話

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「ほう。どれどれ、わしが…。」



「どん!!!!」



「うぎゃ!!!」



いつもより重い拳が津久見の腹を殴った。



一瞬にして目を覚ますも、悶絶する津久見を見て清正は大いに笑いながら



「おう。ほんとに気絶しておるだけでおったわ。はははは。」



「清…正…さ…ん…。」



今まで殴られた中で一番の痛さであった。



「許せ治部よ。お前への恨みはこれで無にしてやるわい。」



と、清正は笑顔で言う。



今思えば、この男の笑顔を初めて見た気がした。



『破顔一笑』大きく口を開き、目はつぶれ、手を叩いて笑っている。



「はあはあ。そうですか。清正さん…。」



津久見はゆっくりと、体を起こしながら言った。



「でも、黒田さんの説得が失敗したら?」



「殺す。」



即答であった。



しかも真顔。



「ですよね~…。」



「殿。準備ができました。」



「おう。では左近殿、治部を連れて黒田のおじきの所まで行って来てくだされ。」



と、清正は言った。



「かしこまりました。殿。では行きましょう…。ぷぷぷ。」



左近は今までの清正と、三成のやり取りを思い出して、含み笑いをしながら答えた。



そんな左近を横目で見ながら、津久見は寺を出た。



清正の兵、4.5人が外で待っていた。



そこに平岡がシップの手綱を引きやって来た。



「殿。」



「うん。ありがとうございます。よいしょ。」



シップにまたがる。



「すみません。清正さんの兵士さん…。宜しくお願い致します~。」



と、前を進む兵に言う。



清正の兵は少し動揺しながら、会釈をする。



「では、加藤さん。行って来ますね。」



と、津久見は後ろを振り返り、立っている清正に向かって言う。



「おう。楽しみに待っておるわ。はははっは。」



「また、笑ってる…。」



(失敗したら殺す気なのに…)



「パカパカ…」



島津隊と別れを告げ、少人数の行軍となった三成一行は、豊前を目指した。



しばらくすると、門前町の様な街に入った。



堺とまでは行かないが、賑やかである。



「ん?なんか…。」



「殿。どうなされました。」



左近が馬を寄せ、聞いてきた。



「いや…。大丈夫…。」



(なんか、懐かしい匂いがするなあ…)



津久見はそう思うと、馬の脚を少し早め、道案内の兵の元へ向かった。



「すみませ~ん。」



「は。治部殿いかがいたされましたか。」



「いや、ここはなんという街ですか?」



「はあ?ここは宇佐神宮の鳥居前町とい所にございまする。」



「宇佐ですか???やっぱり!!!」



「はあ。」



清正の兵は、首をかしげる。



「少し寄って行っても良いですか??」



「え?なんと???」



「少しだけ。ね。お願いします!」



「はあ。」



津久見の強い要望により、一行は門前町の茶屋に立ち寄った。



「宇佐神宮ですか。少し歩きましょう。」



と、津久見は瞳を輝かせ一人歩き始めてしまった。



「と、殿???」



喜内や左近は困惑しながら、津久見の後を追った。



(はあ。ここだよここ!!!俺の故郷!!大分県宇佐市!日本のUSA!!!!!!だから懐かしい匂いがしたんだ!!)



津久見は心の中で一人帰郷を喜んだ。



(俺の祖先とかいるのかなあ~?)



と、ニヤニヤしながら街を見回している。



(そう簡単には見つからない…か。)



と、少し落胆していると、街の奥から、一人の男が猛スピードでこっちに走ってきていた。



「ん?なんだ?」



「殿、危のうございます。」

と、喜内が、津久見の前に立ちはだかり様子を見ている。



男の後ろには、数人の男が、その男を追いかけている。



「ど、どいてくれ~」



男は叫びながらこちらに走って来る。



「泥棒じゃ~」



と、追いかけてくる男たちが叫ぶ。



街は騒然とする。



男は、芋を握りしめて走っていた。



どうやら、それを盗んだようだ。



「殿。少し離れていてくだされ。」



と、喜内は津久見を押し出す。



すると、



「狼藉ものめが!!!」



と、喜内は得意の前蹴りを男に見舞いした。



「ぐはっ。」



と、走って来た男はみぞおちを蹴られ、横たわる。



津久見は



「お見事!!!」



と、その横たわる男の側に駆け付け、握っている芋を取り上げようとした。



しかし、男はうずくまりながら



「こ、こ、これが無けりゃ、子供が食えねえんだ。許してくれ。」



と、芋から手を離さない。



「でも、盗んだらいけませんよ。」



津久見は、少し力を入れて男から芋を取り上げようとした。



その時。



男と目が合った。





(え!???)





津久見の手が止まった。



そこに、追いかけて来た男たちがやって来た。



「ふう。お侍さん。ありがとうごぜえやす。こいつめ、売りもんの芋、盗みやがってね…。」



と、男に近づく。



だがそこに津久見が立ちはだかった。



「芋はいくらですか?」



「は?」



「ですから。芋はいくらですか??」



「1文でやんすが…。」



「平岡ちゃん。お金持ってきてる?」



と、後ろに控えていた平岡に声を掛ける。



「は。大谷刑部様から『万が一の時に備え多めに』と、仰せつかりましたので…。」



「じゃあ、3文取って下さい。」



「え?」



「早く。」



「はあ。」



と、平岡は不思議そうに、旅袋から銭を取り出すと、津久見に渡した。



「ここに3文あります。この者の持っている芋の1文分と、迷惑代として計3文。これで許してくれますか?」



「え?お侍さんが肩代わりを?」



「はい。」



と、言いながら、津久見は強引に銭を男に渡した。



「では、一件落着ですね。どうもご迷惑をおかけしました。」



と、深々と礼をする。



「お侍さん…。お名前は…?」



「石田です。石田三成です。」



平然と答えた。



「石田…三成…。」



男たちは顔を見合わせると、街の者達も一同、急いで地面にひれ伏した。



「恐れ多くも、石田治部様とは!!!!」



「あああ。やめてください。そういうの。やめてください。」



津久見はおろおろしながらひれ伏す者達に声を掛ける。



「一件落着でいいですね??」



「はは~。」



男たちは答える。



「では、行きましょう。」



と、津久見は左近達へ振り向き言う。



そしてなんと、その芋泥棒の脇を抱えながら起こし、なんとか近くの河原へ連れてきていた。



「顔を洗ってきてください。泥だらけですよ。」



と、津久見は言うと男を川へ促す。



男は冷たい川の水で、顔を洗うと、また戻って来た。



その手には、ずっと芋が握りしめられていた。



第45話 日本のUSA 完
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