64 / 102
第62話
しおりを挟む
「おう、治部に刑部殿。お待ちしておりましたぞ。」
場内入り口に立つ増田長盛は、旧友に会った喜びを顔一面に広げ言った。
「増田さん…ですね。今日はありがとうございます。」
「さん?」
様子のおかしい三成を見ながら長盛は言った。
「それより治部よ。どうするつもりじゃ。大坂城に残った諸大名は、色々と手を回しておるぞ…。特に…。」
と、長盛は周りを気にしながら言う。
「毛利さんですね。」
「ん?う、ん。まあ。そうじゃ。くれぐれも…。」
「豊臣家の安泰ですね。分かってます。」
「ああ。お主がどう考えてるかは分からないが、我ら五奉行…いや、今は四奉行か。」
と、長盛は徳川秀忠に従軍した、浅野長政を思い浮かべた。
「まあ、何はともあれ、頼むぞ。」
「はい。増田さん。」
と、言うと左近と一緒に城内に入った。
入るや否や小姓が出て来た。
「お腰の物を。」
と、片膝を付きながら言う。
「ああ。これですね。どうぞどうぞ。」
津久見は何の抵抗も無く、刀を小姓に渡した。
「して、秀頼様は今日はおられるのか?」
左近が刀を小姓に渡しながら聞いた。
「我々小姓には分かりかねます。しかし、群様なら本日登城されておりまする。」
「群…群宗保(こおり むねやす)殿か。」
「は。では。」
と、小姓は預かった刀を持って奥の間に消えていった。
「左近ちゃん郡さんって誰…だっけ?」
津久見は廊下を歩きながら左近に聞いた。
「ん?殿ご存じないですか?」
「いや、あの~最近~物忘れが…。」
と、分が悪そうに言う。
「そうですな。最近の殿は…。ぷぷぷぷ」
「………。」
津久見は立ち止まり、振り返ろうとした。
「郡様は、今は秀頼様の養育係の一人になられたとか。殿も朝鮮の役にて肥前国名護屋で諸将の兵糧船調査をされてたので、お見受けされてたと思いまして…。」
真顔で左近は言う。
「そうですか…。」
(左近ちゃん、絶対俺で楽しんでる…)
「関ヶ原の戦では大津城を攻めておりましたな。」
「でしたら、生粋の『豊臣家家臣』って感じですね。」
「まあ、私の次に漢ですな。」
「はいはい。」
津久見は右手を上げて適当に応えながら、更に歩いた。
突き当りにある廊下を登り始める。
この上に、皆の集まる大広間がある。
すると
「殿!!!!」
と、階段の上から声がした。喜内だ。
「喜内さん。もう来られていたのですね。」
「はい。ちょっと目が早く醒めましてな。」
「そうですか…。」
と、喜内の目の下のクマを見ながら言った。
(さては寝てないな…。寝れなかったのかな…。)
「殿。少々厄介な事になっておりまする。」
階段を登り、大広間の横の人の目の届かない所に、津久見を連れて行き言った。
「どうしたんですか?」
「いやあ。私にはよく分からないんですが、毛利様…殊更吉川様が、夜な夜な動き回っておられました。各大名屋敷の元に多くの使者が人目を盗んで入って行ったと、忍びの報告がございまして…。」
(これを一晩中探って、徹夜してたんかな、喜内さん…。)
と、心で喜内に感謝した。
「まことか?」
左近が言う。
「はい。」
喜内は頷きながら続ける、
「小早川様、安国寺様、島津様、宇喜多様、長曾我部様…。本日の会議に出席なされる諸大名家でございます。」
「小賢しい…。」
左近は、口を尖らせながら言う。
「喜内さんの所には?」
「来ておりません。少し…残念ですが。」
「残念?」
左近が口を挟む。
「いえいえいえ、殿や我ら九州遠征組と、大谷刑部様、小西様の所には、使者は走っておりません。」
「殿と近しい大名家は蚊帳の外か…。」
「ですね…。」
津久見は小さな声で呟いた。
「毛利勢の派閥拡大が意図でしょうな…。」
「…。」
津久見は無言で頷く。
と、そこに一人の男が津久見達に気付き、近付いてきた。
「治部か?」
「ん?」
その男は、どんどん近づいて来る。
「治部ではないか!!!やっぱり帰って来ておったのじゃな。」
背は175cmくらいで、色白の肌。
髷まげが人一倍長く、真上に結っている。
「え~っと。」
津久見は誰だか分からない。
そこへ左近が言う。
「小西殿。」
(あっこの人が!!??)
「そうじゃ。アウグスティヌス(洗礼名)で~す。」
「アウグ…。」
と、津久見が言いかけると、小西は津久見にいきなり抱き着き、両頬に自分の頬を当てた。
「アウグ…。」
男に抱き着かれたことのない津久見は白目を剥いて倒れた。
第63話 完
場内入り口に立つ増田長盛は、旧友に会った喜びを顔一面に広げ言った。
「増田さん…ですね。今日はありがとうございます。」
「さん?」
様子のおかしい三成を見ながら長盛は言った。
「それより治部よ。どうするつもりじゃ。大坂城に残った諸大名は、色々と手を回しておるぞ…。特に…。」
と、長盛は周りを気にしながら言う。
「毛利さんですね。」
「ん?う、ん。まあ。そうじゃ。くれぐれも…。」
「豊臣家の安泰ですね。分かってます。」
「ああ。お主がどう考えてるかは分からないが、我ら五奉行…いや、今は四奉行か。」
と、長盛は徳川秀忠に従軍した、浅野長政を思い浮かべた。
「まあ、何はともあれ、頼むぞ。」
「はい。増田さん。」
と、言うと左近と一緒に城内に入った。
入るや否や小姓が出て来た。
「お腰の物を。」
と、片膝を付きながら言う。
「ああ。これですね。どうぞどうぞ。」
津久見は何の抵抗も無く、刀を小姓に渡した。
「して、秀頼様は今日はおられるのか?」
左近が刀を小姓に渡しながら聞いた。
「我々小姓には分かりかねます。しかし、群様なら本日登城されておりまする。」
「群…群宗保(こおり むねやす)殿か。」
「は。では。」
と、小姓は預かった刀を持って奥の間に消えていった。
「左近ちゃん郡さんって誰…だっけ?」
津久見は廊下を歩きながら左近に聞いた。
「ん?殿ご存じないですか?」
「いや、あの~最近~物忘れが…。」
と、分が悪そうに言う。
「そうですな。最近の殿は…。ぷぷぷぷ」
「………。」
津久見は立ち止まり、振り返ろうとした。
「郡様は、今は秀頼様の養育係の一人になられたとか。殿も朝鮮の役にて肥前国名護屋で諸将の兵糧船調査をされてたので、お見受けされてたと思いまして…。」
真顔で左近は言う。
「そうですか…。」
(左近ちゃん、絶対俺で楽しんでる…)
「関ヶ原の戦では大津城を攻めておりましたな。」
「でしたら、生粋の『豊臣家家臣』って感じですね。」
「まあ、私の次に漢ですな。」
「はいはい。」
津久見は右手を上げて適当に応えながら、更に歩いた。
突き当りにある廊下を登り始める。
この上に、皆の集まる大広間がある。
すると
「殿!!!!」
と、階段の上から声がした。喜内だ。
「喜内さん。もう来られていたのですね。」
「はい。ちょっと目が早く醒めましてな。」
「そうですか…。」
と、喜内の目の下のクマを見ながら言った。
(さては寝てないな…。寝れなかったのかな…。)
「殿。少々厄介な事になっておりまする。」
階段を登り、大広間の横の人の目の届かない所に、津久見を連れて行き言った。
「どうしたんですか?」
「いやあ。私にはよく分からないんですが、毛利様…殊更吉川様が、夜な夜な動き回っておられました。各大名屋敷の元に多くの使者が人目を盗んで入って行ったと、忍びの報告がございまして…。」
(これを一晩中探って、徹夜してたんかな、喜内さん…。)
と、心で喜内に感謝した。
「まことか?」
左近が言う。
「はい。」
喜内は頷きながら続ける、
「小早川様、安国寺様、島津様、宇喜多様、長曾我部様…。本日の会議に出席なされる諸大名家でございます。」
「小賢しい…。」
左近は、口を尖らせながら言う。
「喜内さんの所には?」
「来ておりません。少し…残念ですが。」
「残念?」
左近が口を挟む。
「いえいえいえ、殿や我ら九州遠征組と、大谷刑部様、小西様の所には、使者は走っておりません。」
「殿と近しい大名家は蚊帳の外か…。」
「ですね…。」
津久見は小さな声で呟いた。
「毛利勢の派閥拡大が意図でしょうな…。」
「…。」
津久見は無言で頷く。
と、そこに一人の男が津久見達に気付き、近付いてきた。
「治部か?」
「ん?」
その男は、どんどん近づいて来る。
「治部ではないか!!!やっぱり帰って来ておったのじゃな。」
背は175cmくらいで、色白の肌。
髷まげが人一倍長く、真上に結っている。
「え~っと。」
津久見は誰だか分からない。
そこへ左近が言う。
「小西殿。」
(あっこの人が!!??)
「そうじゃ。アウグスティヌス(洗礼名)で~す。」
「アウグ…。」
と、津久見が言いかけると、小西は津久見にいきなり抱き着き、両頬に自分の頬を当てた。
「アウグ…。」
男に抱き着かれたことのない津久見は白目を剥いて倒れた。
第63話 完
1
あなたにおすすめの小説
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる