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第62話

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「おう、治部に刑部殿。お待ちしておりましたぞ。」







場内入り口に立つ増田長盛は、旧友に会った喜びを顔一面に広げ言った。







「増田さん…ですね。今日はありがとうございます。」







「さん?」







様子のおかしい三成を見ながら長盛は言った。







「それより治部よ。どうするつもりじゃ。大坂城に残った諸大名は、色々と手を回しておるぞ…。特に…。」







と、長盛は周りを気にしながら言う。







「毛利さんですね。」







「ん?う、ん。まあ。そうじゃ。くれぐれも…。」







「豊臣家の安泰ですね。分かってます。」







「ああ。お主がどう考えてるかは分からないが、我ら五奉行…いや、今は四奉行か。」



と、長盛は徳川秀忠に従軍した、浅野長政を思い浮かべた。







「まあ、何はともあれ、頼むぞ。」







「はい。増田さん。」







と、言うと左近と一緒に城内に入った。







入るや否や小姓が出て来た。







「お腰の物を。」







と、片膝を付きながら言う。







「ああ。これですね。どうぞどうぞ。」







津久見は何の抵抗も無く、刀を小姓に渡した。







「して、秀頼様は今日はおられるのか?」







左近が刀を小姓に渡しながら聞いた。







「我々小姓には分かりかねます。しかし、群様なら本日登城されておりまする。」







「群…群宗保(こおり むねやす)殿か。」







「は。では。」







と、小姓は預かった刀を持って奥の間に消えていった。







「左近ちゃん郡さんって誰…だっけ?」







津久見は廊下を歩きながら左近に聞いた。







「ん?殿ご存じないですか?」







「いや、あの~最近~物忘れが…。」







と、分が悪そうに言う。







「そうですな。最近の殿は…。ぷぷぷぷ」







「………。」







津久見は立ち止まり、振り返ろうとした。







「郡様は、今は秀頼様の養育係の一人になられたとか。殿も朝鮮の役にて肥前国名護屋で諸将の兵糧船調査をされてたので、お見受けされてたと思いまして…。」


真顔で左近は言う。


「そうですか…。」


(左近ちゃん、絶対俺で楽しんでる…)


「関ヶ原の戦では大津城を攻めておりましたな。」



「でしたら、生粋の『豊臣家家臣』って感じですね。」



「まあ、私の次に漢ですな。」



「はいはい。」


津久見は右手を上げて適当に応えながら、更に歩いた。



突き当りにある廊下を登り始める。







この上に、皆の集まる大広間がある。







すると







「殿!!!!」







と、階段の上から声がした。喜内だ。







「喜内さん。もう来られていたのですね。」







「はい。ちょっと目が早く醒めましてな。」







「そうですか…。」







と、喜内の目の下のクマを見ながら言った。







(さては寝てないな…。寝れなかったのかな…。)







「殿。少々厄介な事になっておりまする。」







階段を登り、大広間の横の人の目の届かない所に、津久見を連れて行き言った。







「どうしたんですか?」







「いやあ。私にはよく分からないんですが、毛利様…殊更吉川様が、夜な夜な動き回っておられました。各大名屋敷の元に多くの使者が人目を盗んで入って行ったと、忍びの報告がございまして…。」







(これを一晩中探って、徹夜してたんかな、喜内さん…。)







と、心で喜内に感謝した。







「まことか?」







左近が言う。







「はい。」







喜内は頷きながら続ける、







「小早川様、安国寺様、島津様、宇喜多様、長曾我部様…。本日の会議に出席なされる諸大名家でございます。」







「小賢しい…。」







左近は、口を尖らせながら言う。







「喜内さんの所には?」







「来ておりません。少し…残念ですが。」







「残念?」







左近が口を挟む。







「いえいえいえ、殿や我ら九州遠征組と、大谷刑部様、小西様の所には、使者は走っておりません。」







「殿と近しい大名家は蚊帳の外か…。」







「ですね…。」







津久見は小さな声で呟いた。







「毛利勢の派閥拡大が意図でしょうな…。」







「…。」







津久見は無言で頷く。







と、そこに一人の男が津久見達に気付き、近付いてきた。







「治部か?」







「ん?」







その男は、どんどん近づいて来る。







「治部ではないか!!!やっぱり帰って来ておったのじゃな。」







背は175cmくらいで、色白の肌。







髷まげが人一倍長く、真上に結っている。







「え~っと。」







津久見は誰だか分からない。







そこへ左近が言う。







「小西殿。」







(あっこの人が!!??)







「そうじゃ。アウグスティヌス(洗礼名)で~す。」







「アウグ…。」







と、津久見が言いかけると、小西は津久見にいきなり抱き着き、両頬に自分の頬を当てた。







「アウグ…。」









男に抱き着かれたことのない津久見は白目を剥いて倒れた。







第63話 完
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