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過去
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しおりを挟む少しの沈黙を経て、新田君が口を開いた。
「若葉ちゃんは、俺のことどう思ってる?」
「え?」
「いいから、答えて」
「……少々騒がしい、クラスメイト」
何それ、と新田君が笑う。間違ってはいないと思う。
「じゃあ、琉聖のことは?」
「四谷、は」
以前にも、同じようなことを訊かれた。僕は、好きじゃないと答えた。もう、そんなふうに曖昧には答えられない。嫌いじゃない、でも足りない。足りなく、なってしまった。
「好き?」
そう問う新田君の声を、ひどく遠くに感じた。
「すき……?」
嫌いじゃないなら、それは、好きだということになるのだろうか?
「琉聖のこと、好きになった?」
「前、よりは。なってると思う」
「そういう、好きじゃなくて」
「じゃあ、どういう……」
「トモダチじゃなくて、恋愛の『好き』」
れんあいの、すき。れんあい……?
違う、と僕は反射的に立ち上がり叫んだ。周りの客が、何人かこちらを見る。
「すみません……」
消え入りそうな声で誰にともなく謝罪し、再度席に着く。
「違う、から。僕は」
「そんな顔して言っても、説得力ないよ」
自分の顔は見えないが、激しく動揺していることは、自覚せざるを得なかった。
「何で、違うって思うの? 琉聖が、男だから?」
同性間の恋愛も、知識としては知っている。フィクション、ノンフィクション問わず、本はよく読む方なので、同性愛の記述に接したことはあるが、そこに嫌悪感を感じたことはない。とはいえ、いつか自分が男を好きになるかもしれないだなんて、考えてもみなかった。
「たぶん若葉ちゃんが思ってるより、特別なことじゃないよ」
さらっと、新田君は言った。
「俺もそうだし」
「は、い?」
「好きになったら、相手が男でも構わないって意味」
頭の中が、真っ白になる。僕は一体、彼と何の話をしているのだろうか。目を回しそうな僕を見て、新田君が言う。
「今気になってる相手も男だし。好きなら好きでいんじゃね? って思う。別に、難しく考えなくても」
「そうかな……」
「気にしてほしいのは、前半の方だったんだけど」
「え?」
「何で俺が今日若葉ちゃんを誘ったか。分かってる?」
「何でって……」
「琉聖との間に何かあったのかなって思ったら、気になって仕方なかったから。だから、誘った」
普段の、チャラいとさえ思える明るさがない。いつになく真面目な瞳から目を離すことができず、僕は彼を見つめたまま口を開いた。
「それは、四谷のことが好きだから?」
きちんと考えて答えたのに、新田君は。
「何でそうなるかな」
困ったように、笑って。
「俺が好きなのは、若葉ちゃんだよ」
そう、僕にささやいた。
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