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現在
33※
しおりを挟む若葉、と彼が言う。ずっと、その呼び方は変わらない。
「……」
「怒ってんの?」
もしそう思うなら、その愉しそうな顔をやめるべきだと思う。
「何に、怒ってる?」
それには答えず、僕は逆に彼に問いかけた。
「四谷。なっちゃん……中村さんに、僕に恋人がいるって話したの?」
「ああ」
「何でそんなこと……」
「事実だろ」
事実、なのだろうか。四谷には、もしかしたら他にも同じような付き合いをしている相手がいるかもしれない。その場合にも、彼を恋人と呼ぶことはできるのだろうか。
「勝手に話したから怒ってるのか?」
「そういうわけじゃ、ないけど……」
「若葉が──分かってないから」
なぜか四谷が、不機嫌そうに言う。
「は?」
「他のやつに、俺の知らないところで手を出されたら困る」
それは単なる所有欲だろうか。それとも──僕が君に対して抱く感情と、同種のものだろうか?
「僕は、男だよ。手なんか出されるはずがない」
笑って言い返すと、四谷がまた機嫌の悪い顔で僕を見ていた。
この部屋で抱かれるのが、もう何度目になるのか。数え切れないほど逢瀬を重ねても、僕はどこかで恐れている。終わる日のことを考えている。
行為そのものには、随分慣れてきたと思う。四谷と関係を持って以来、痛みを感じたのは初めての夜だけだ。そう、痛みはない、のだけれど。
「四谷、もう、やだ……」
過剰な熱を与えられ、限界を訴える。達した直後に腰を動かされると、抑え切れない喘ぎが溢れた。口を塞ぐ余裕もなくて、あられもない声が寝室に響く。
分かっていたつもりだったが、四谷は本当に意地が悪い。僕が恥ずかしがるのを見て愉しんでいる。前に一度、自分だけ乱れさせられているのが悔しくて、口で奉仕しようとしたことがある。先輩と付き合っていたときに何度かしたことがあったので、おそらくできるだろうと思った。口内に含み、吸い上げると、四谷もよさそうにしていたのに。後で、もうしなくていいと言われてしまい、それきり自分からはしていない。
「四谷……」
「何?」
「触って」
「どこを?」
「───」
一度熱を放ってしまうと、理性が急速に失われていくのが分かる。直接的な言葉で欲しがったり、甘えたりと、後で思い出したら恥ずかしくて死にそうなことばかりしてしまう。四谷はそんな僕を見て、笑う。その微笑みがまた、僕をおかしくする。
「しばらく、四谷とはしない……」
「何で」
「だって、あんな」
「抜かずに連続でしたこと? 中に出したこと?」
どうして、そんなこと普通に口に出せるんだろう。浴槽の中、後ろから僕を抱き締めるような形で座る四谷。僕は彼の腕をぺしっとたたいた。
「どっちも。嫌だって言った……」
「若葉は、何しても嫌って言うだろ」
それは、そうかもしれないが。本当に言いたいことは、怖くて言えないから。身体の感覚と、それに伴う羞恥心だけ言葉にする。
「それより、四谷とは、って何」
「え?」
「俺以外の誰かとは、するって意味?」
四谷以外の誰かと。そんなこと、考えたこともない。四谷しか受け入れたことはないし、これから先も受け入れるつもりはない。しかしそう答えて、重いと思われるのが嫌だった。
「さあね」
僕が言葉を濁したことに対して、四谷は何も言わなかったのだが。
「や……、なに」
腰に緩く巻きついていたはずの手が、いつの間にか胸の先に移動している。散々弄られていた場所は、何もしなくても赤く色づいているというのに。
「待って」
僕は慌てて上半身を捻り彼を見た。
「お風呂では、その、しないって……」
「気が変わった」
「は……? ん、だめだってばっ」
弱いところを知り尽くした指が、下肢に行き着く。脚の間で上下するその手が、水面を波立たせた。気持ちよくて、苦しい。出したい、と思わず呟くと。四谷が戒めるように根本を指で締め付けた。熱が逆流し、中にわだかまる。
「何で……」
「続きは、寝室でする。若葉が、二度と他の男としようなんて思えなくなるくらい」
その言葉通り、この日は明け方まで繰り返し抱かれ、翌日も彼の部屋で過ごす羽目になった。
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