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第三章:魔術師見習いの少女と周囲の人々
第43話 チョコレートと王子達
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翌朝、千花は朝食を済ませた後、エドアルドの部屋を訪ねた。
「やあ、ティカ。君がわたしを訪ねてきてくれるなんて嬉しいね」
相変わらず王子様オーラを発しながらエドアルドが嬉しそうに千花を出迎えた。
「あの……、昨日の人身売買組織がどうなったか伺いたくて今日は来ました」
すると、エドアルドは少し不満そうな顔になった。
「君はまだわたしに対してそんな他人行儀な口調なのかい? ルディア観光の時のように気安く話しかけてくれていいんだよ」
しかし、彼とでは身分差があるため、千花はためらってしまう。
「でも、わたしとエドアルド様では身分が違います」
「君は異世界人だろう? その理屈はここでは通用しないと思うが」
「そんなことはありません」
それに、元の世界でもやんごとなき身分の方はいらっしゃった。
それを異世界人と言うだけで、身分の垣根を無くすようなエドアルドの言葉には千花は素直に頷くことが出来ない。
「だが、わたしは君に少しでも近づきたいと思っている。言葉が障害になるのなら、それを排除したいんだ」
千花としてはいずれ元の世界に帰るので、あまり近づきすぎるのはどうかと思うのだが、エドアルドがあまりに真摯に見つめてくるので困ってしまった。
「……本当によろしいのですか?」
「心配しなくても、君はいずれ最強の魔術師と呼ばれるようになるだろう。それに、このわたし自身が認めているんだ。大丈夫、君が心配するようなことはないよ」
ここまで言ってくれているのだ。さすがに返す言葉がなくて、千花は溜息をついた。
「……分かりました。それで、人身売買組織の件だけど……」
千花が普段通りに話し始めた途端、エドアルドはにっこりしたが、話の内容が重い内容になると、顔を引き締めた。
「君があのごろつき達を捕まえてくれたおかげで、一網打尽にできたよ。魔術師団も出てくれたことだしね」
それを聞いて、千花はほっと息をつく。
「そうなんだ、良かった。昨日ルディア観光しているときもそれが気になって」
するとエドアルドがじっと千花を見た。
「え、な、なに?」
「……いや、優しいなと思ってね」
「優しいのとは違うと思う。たまたまあの事件にすれ違ったから気になっただけだし」
本当に優しかったらルディア観光なんてやめて街の警護所で一部始終を見守るはずだ。
「いや、優しいよ。こうやって気にかけてわたしを訪ねてくるくらいだからね。……だが、できればわたし自身に会いに来て欲しかったな」
「え、えっと……」
エドアルドに熱い視線で見つめられ、千花は戸惑う。
「ティカ……」
そんな千花にエドアルドは近づくと、抱きすくめた。
「ア、アルド駄目だよ」
千花がとっさに防御壁を張ると、自然とエドアルドの腕も離れていく。
そこで千花は防御壁を解除した。
「……君が魔法を使えるのはこういう時困るね」
「ずっと困ってて!」
すると、エドアルドが苦笑した。
「君はことこういうことに関してはつれないな。本当に難攻不落だ」
「いずれ帰ろうと思っている人間を口説こうっていうのが間違いだから」
千花はつんと横を向いた。
「まあ、気を悪くしないでくれないかな。ザクトアリアのチョコレートがあるからぜひ食べていってほしい」
「ザクトアリアのチョコ……。普通にこちらで売っているのとなにか違うの?」
「ザクトアリアはチョコレートの原料のカカオの産地なんだ。そのチョコレート作りにも力を入れているらしくて、とてもおいしいんだよ」
エドアルドがこうまでいうのならそうなのだろう。
千花が椅子に座り直すと、そのチョコレートが運ばれてきた。見るといかにも高級そうだ。
すると、そのタイミングでドアをノックされた。
聞くところによると、レイナルドとアラステアが訪ねてきたそうだ。
「せっかくティカと二人きりになれたというのに仕方ないね。……二人も通してほしい」
エドアルドが仕方なさそうに言うと、しばらくしてレイナルドとアラステアが部屋に入ってきた。
「ティカ、やっぱりいた。おはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
千花が二人に挨拶をすると、エドアルドは呆れたように言った。
「二人とも現金だな。わたしは無視か」
「いや、今挨拶しようと思っていた。エドアルド殿、おはよう」
「そうそう、アルド兄さんおはよう」
そうは言っても、とってつけたような感じは拭えない。
「ああ、おはよう」
エドアルドは苦笑すると、二人に挨拶を返した。
「二人ともザクトアリアのチョコレートはどうだい」
「もちろん、いただくよ」
レイナルドが目を輝かせると、アラステアも心なし嬉しそうに言った。
「ザクトアリアのチョコか。食べるのは久しぶりだな」
そして二人がテーブルにつくとすかさず侍女がカップに紅茶を注いだ。それにミルクを注ぎながら、レイナルドは「コーヒーでもよかったな」と言う。
確かにそうかもしれないと千花は思った。
「ティカ、ほら食べてみてほしい」
「うん」
エドアルドにチョコレートの乗った大皿を勧められ、千花はその中の一つを取って口に入れる。
すると、とてもなめらかでなんとも言えない甘さが口の中に広がった。
「……うそみたいにおいしい……」
日本の菓子もかなりなものだと千花は思っていたが、このチョコレートは今まで食べた中でもダントツにおいしい。
少し呆然としながら千花が呟くと、そうだろうと言うように皆が頷いてチョコレートを口にする。
「……相変わらずうまいな」
アラステアが褒めると、レイナルドも絶賛した。
「このなめらかさ、この国では出せないんだよなあ」
「まあ、ザクトアリアの国家秘密の一つだからね。まあ、チョコレート一つで一財産作っているんだから当たり前か」
「だが、あの国には他にも収入源はいくらでもあるだろう。茶葉やコーヒーはもちろん、香木や宝石も採れる。多彩な果物ももちろんだ。……住むには少し暑いがその点に関してはうらやましい国だな」
「そうなんですか。お金持ちの国なんですね」
二つ目を味わいつつ千花が言うと、なぜかレイナルドが焦ったように言ってくる。
「確かにそうだけど、この国が気候的にも一番住みやすいよ! 確か、あそこの国は王太子候補の王子がティカよりも三つも年下だし!」
「はあ……」
なぜそこでザクトアリアの王子の話題が出てくるのだろう。
お金持ちの国と言ったのが悪かったのだろうか。
「レイドは先走りすぎだ。ティカが驚いてるじゃないか」
そうして困惑する千花を見て、エドアルドとアラステアが笑った。
「やあ、ティカ。君がわたしを訪ねてきてくれるなんて嬉しいね」
相変わらず王子様オーラを発しながらエドアルドが嬉しそうに千花を出迎えた。
「あの……、昨日の人身売買組織がどうなったか伺いたくて今日は来ました」
すると、エドアルドは少し不満そうな顔になった。
「君はまだわたしに対してそんな他人行儀な口調なのかい? ルディア観光の時のように気安く話しかけてくれていいんだよ」
しかし、彼とでは身分差があるため、千花はためらってしまう。
「でも、わたしとエドアルド様では身分が違います」
「君は異世界人だろう? その理屈はここでは通用しないと思うが」
「そんなことはありません」
それに、元の世界でもやんごとなき身分の方はいらっしゃった。
それを異世界人と言うだけで、身分の垣根を無くすようなエドアルドの言葉には千花は素直に頷くことが出来ない。
「だが、わたしは君に少しでも近づきたいと思っている。言葉が障害になるのなら、それを排除したいんだ」
千花としてはいずれ元の世界に帰るので、あまり近づきすぎるのはどうかと思うのだが、エドアルドがあまりに真摯に見つめてくるので困ってしまった。
「……本当によろしいのですか?」
「心配しなくても、君はいずれ最強の魔術師と呼ばれるようになるだろう。それに、このわたし自身が認めているんだ。大丈夫、君が心配するようなことはないよ」
ここまで言ってくれているのだ。さすがに返す言葉がなくて、千花は溜息をついた。
「……分かりました。それで、人身売買組織の件だけど……」
千花が普段通りに話し始めた途端、エドアルドはにっこりしたが、話の内容が重い内容になると、顔を引き締めた。
「君があのごろつき達を捕まえてくれたおかげで、一網打尽にできたよ。魔術師団も出てくれたことだしね」
それを聞いて、千花はほっと息をつく。
「そうなんだ、良かった。昨日ルディア観光しているときもそれが気になって」
するとエドアルドがじっと千花を見た。
「え、な、なに?」
「……いや、優しいなと思ってね」
「優しいのとは違うと思う。たまたまあの事件にすれ違ったから気になっただけだし」
本当に優しかったらルディア観光なんてやめて街の警護所で一部始終を見守るはずだ。
「いや、優しいよ。こうやって気にかけてわたしを訪ねてくるくらいだからね。……だが、できればわたし自身に会いに来て欲しかったな」
「え、えっと……」
エドアルドに熱い視線で見つめられ、千花は戸惑う。
「ティカ……」
そんな千花にエドアルドは近づくと、抱きすくめた。
「ア、アルド駄目だよ」
千花がとっさに防御壁を張ると、自然とエドアルドの腕も離れていく。
そこで千花は防御壁を解除した。
「……君が魔法を使えるのはこういう時困るね」
「ずっと困ってて!」
すると、エドアルドが苦笑した。
「君はことこういうことに関してはつれないな。本当に難攻不落だ」
「いずれ帰ろうと思っている人間を口説こうっていうのが間違いだから」
千花はつんと横を向いた。
「まあ、気を悪くしないでくれないかな。ザクトアリアのチョコレートがあるからぜひ食べていってほしい」
「ザクトアリアのチョコ……。普通にこちらで売っているのとなにか違うの?」
「ザクトアリアはチョコレートの原料のカカオの産地なんだ。そのチョコレート作りにも力を入れているらしくて、とてもおいしいんだよ」
エドアルドがこうまでいうのならそうなのだろう。
千花が椅子に座り直すと、そのチョコレートが運ばれてきた。見るといかにも高級そうだ。
すると、そのタイミングでドアをノックされた。
聞くところによると、レイナルドとアラステアが訪ねてきたそうだ。
「せっかくティカと二人きりになれたというのに仕方ないね。……二人も通してほしい」
エドアルドが仕方なさそうに言うと、しばらくしてレイナルドとアラステアが部屋に入ってきた。
「ティカ、やっぱりいた。おはよう」
「おはよう」
「おはようございます」
千花が二人に挨拶をすると、エドアルドは呆れたように言った。
「二人とも現金だな。わたしは無視か」
「いや、今挨拶しようと思っていた。エドアルド殿、おはよう」
「そうそう、アルド兄さんおはよう」
そうは言っても、とってつけたような感じは拭えない。
「ああ、おはよう」
エドアルドは苦笑すると、二人に挨拶を返した。
「二人ともザクトアリアのチョコレートはどうだい」
「もちろん、いただくよ」
レイナルドが目を輝かせると、アラステアも心なし嬉しそうに言った。
「ザクトアリアのチョコか。食べるのは久しぶりだな」
そして二人がテーブルにつくとすかさず侍女がカップに紅茶を注いだ。それにミルクを注ぎながら、レイナルドは「コーヒーでもよかったな」と言う。
確かにそうかもしれないと千花は思った。
「ティカ、ほら食べてみてほしい」
「うん」
エドアルドにチョコレートの乗った大皿を勧められ、千花はその中の一つを取って口に入れる。
すると、とてもなめらかでなんとも言えない甘さが口の中に広がった。
「……うそみたいにおいしい……」
日本の菓子もかなりなものだと千花は思っていたが、このチョコレートは今まで食べた中でもダントツにおいしい。
少し呆然としながら千花が呟くと、そうだろうと言うように皆が頷いてチョコレートを口にする。
「……相変わらずうまいな」
アラステアが褒めると、レイナルドも絶賛した。
「このなめらかさ、この国では出せないんだよなあ」
「まあ、ザクトアリアの国家秘密の一つだからね。まあ、チョコレート一つで一財産作っているんだから当たり前か」
「だが、あの国には他にも収入源はいくらでもあるだろう。茶葉やコーヒーはもちろん、香木や宝石も採れる。多彩な果物ももちろんだ。……住むには少し暑いがその点に関してはうらやましい国だな」
「そうなんですか。お金持ちの国なんですね」
二つ目を味わいつつ千花が言うと、なぜかレイナルドが焦ったように言ってくる。
「確かにそうだけど、この国が気候的にも一番住みやすいよ! 確か、あそこの国は王太子候補の王子がティカよりも三つも年下だし!」
「はあ……」
なぜそこでザクトアリアの王子の話題が出てくるのだろう。
お金持ちの国と言ったのが悪かったのだろうか。
「レイドは先走りすぎだ。ティカが驚いてるじゃないか」
そうして困惑する千花を見て、エドアルドとアラステアが笑った。
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