恋詠花

舘野寧依

文字の大きさ
33 / 36
第四章:対決

第33話 再会

しおりを挟む
 いよいよガルディアの国王代理がトゥルティエール王宮に入るに当たって、ルドガーはライノスに命じた。

「アイシャを王妃の席に着かせろ。わたしがいいと言う間はその拘束を解くな」
「……陛下っ」

 彼の拘束から逃れたかと思ったら、こうである。

 ──ガルディアの方達や、カルラートにわたしがトゥルティエールの正妃だということを誇示するおつもりなのだわ。

 その考えに至ったアイシャは、それから逃れようと、ルドガーから一歩引くと、首を横に振った。
 しかし、彼女の意思とは別に、ライノスの力によって、その体は王妃の席へと縫いつけられていく。

「陛下……っ、こんなのは嫌ですっ」

 ……これでは自分は良い見せ物ではないか。
 アイシャは、羞恥から思わず涙を流した。

「……アイシャ、泣くな。これはおまえがわたしのものだという証なのだ。辛いかもしれないが、少しの間だけ我慢しろ」

 恋敵のカルラートとついに対峙することによって、苛立っているらしいルドガーは、実につれない返事をアイシャに返した。

「陛下は酷い方です。わたしがこのことでどれだけ恥ずかしい思いをするか分かっていらっしゃらない。わたしはもう儚くなってしまいたいですわ」

 アイシャのその言葉を聞いてルドガーが黙り込んだ。

「……すまない、アイシャ。悪いがこの間だけどうにか我慢してくれ」

 そして、ライノスにアイシャの自害防止のために、口封じの魔法をかけるように命じた。
 それを聞いてアイシャは絶望する。

 こんな姿をカルラートやガルディアの方々に見られたくなかった──

 しかしこれで、事実上アイシャの退路は断たれたのである。



 カルラートは、ガルディアの国王代理である魔術師師団長のネイザンと白百合騎士団団長のエリュウスと同時にトゥルティエール王の謁見の間に入った。

 ちなみにこのネイザンは国王代理ではあるが、三十前でまだ若い。
 しかし、魔術師としての実力は大陸随一だ。そして、組織をまとめる能力も持ち合わせている。
 そして、一方のエリュウスは二十代半ばで多少軽薄な感じは受けるものの、その実力はガルディア国王も認めるものだった。

 そんな彼らをこの国の王であるルドガーが一段上の玉座で悠然と眺めている。
 そして、その隣の王妃の席で泣きそうな顔をして座っているのはルドガーに略奪されたアイシャだった。

「アイシャ……」

 アイシャが王妃の席に座っていることで少なからず動揺したカルラートだったが、そのアイシャの様子がどうにもおかしいことに気がついた。
 可憐で美しい容姿は相変わらずだが、その体はこわばって座り方がかなり不自然なのである。
 よくよく見れば、声も発せられないようだ。
 それを証明するかのようにガルディア国王代理のネイザンがルドガーに抗議した。

「正妃とされた方に対する扱いとしては、これは酷すぎませんか。トゥルティエール国王殿」
「しかし、そのままではアイシャは自害する可能性もあるのでこうするしかなかった。……実際、一度城から身を投げようとしたしな」

 それを聞いて、驚愕のあまりカルラートはアイシャを凝視してしまった。
 それでは、アイシャはこの現状に甘んじていたわけではなかったのだ。
 たぶんアイシャのそれは、ルドガーに対する抗議だったのだろうが、けれど彼女が生きていて本当に良かったとカルラートは安堵した。

 しかし、二人の王の間で取り合われたアイシャにとっては、ガルディアの師団の者達に興味本位に見られることはとてつもない恥辱だろう。

「アイシャ、わたしはこの一連の騒動に決着をつけにきたんだ。だから、そなたが気に病むことは一切ない」

 カルラートがアイシャにそう言うと、彼女は胡桃色の大きな瞳に涙をたたえた。
 それでアイシャの身に起こった出来事が相当彼女の負担になっていたと気づき、カルラートはその原因のルドガーが許せなかった。

 そのアイシャの涙を見たルドガーが一瞬、カルラートに殺気を送る。しかし、カルラートは動じなかった。

「決着か。小国の王らしく、ガルディアに泣きついてまで我が国の正妃を奪いにきたか」
 嘲るようにルドガーは笑った。

「黙れ。我が国の王妃を無理矢理奪ったのはそちらだろう。いくら大国とはいえ、我が国を愚弄するのは許さない」

 燃えるような瞳でカルラートはルドガーを睨みつける。ルドガーに掴みかからなかったのは血を流すような自制心に他ならない。
 それをルドガーも受けてたつように、彼を睨み返した。
 アイシャを巡って二人の王の間に火花が散る。
 その間に白百合騎士団のエリュウスが割って入った。

「まあまあ、お二人とも。これほどお美しい姫なら、そのお気持ちも分かりますが、ここは一つ冷静にお願いしますよ」
「そのために、我々がここまできたのですからな」

 ネイザンも二人を諫めるように言う。それと同時にアイシャの拘束魔法を解き、一瞬にして彼女をガルディア陣営の元に移動させた。

「アイシャ!」

 すかさずカルラートが愛しいアイシャを抱きしめる。

「カル、ラート……わたしのせいでごめんなさい」

 アイシャがカルラートの抱きしめる力で苦しそうに、それでも申し訳なさそうに涙を流した。

「いや、そなたのせいではない。これはひとえにそこにいる王のせいだろう」

 そう言うと、カルラートは略奪者のルドガーを再びきっと睨んだ。

「……アイシャを……離せ!」

 嫉妬に顔を歪ませてカルラートを激しい憎しみの目で見るものの、ルドガーは動けない。

 ネイザンが拘束魔法で彼の動きを止めているのだ。
 ついでに彼の側近のライノスもそれを受けて動けずにいる。
 さすがにガルディアの魔術師団の師団長ともなると、それなりに力のある者でも適わないらしい。


「それでは、カルラート王がアイシャ姫と再会を果たしたことですし、本題に入りましょうか」


 ネイザンがなんとも自然な流れでアイシャの手を取り、カルラートから彼女を引き離す。

「ネイザン殿!」

 それに抗議するようにカルラートは、ガルディア国王代理に叫んだ。

 ──ようやく会えたというのにここで引き離されるとは。

「カルラート殿、誤解しないで頂きたい。我々はあくまでも仲介者でしかない。アイシャ姫を妃に迎えるのはお二人のどちらになるか見届けるのが大事なのです」

 その言葉にカルラートは悔しそうに唇を噛み、ルドガーは不審そうにネイザンを見た。
 そしてネイザンは、ルドガーに冷徹なまでな言葉を大陸一の国王代理として伝えた。

「トゥルティエール国王ルドガー殿、我々ガルディアはこの戦乱を収めるために、ハーメイ国王カルラート殿の願いを聞き入れた。アイシャ姫を正妃とするのを諸国に認められたいならば、あなたはカルラート殿との決闘で勝たなければなりません」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ヤンキー、悪役令嬢になる

山口三
恋愛
岸田和華(きしだわか)は異世界に飛ばされた。自分が読んでいた小説の悪役令嬢ジュリエットに憑依してしまったのだ。だが和華は短気でガサツで、中学高校と番を張ってたヤンキーだ。高貴な身分の貴族令嬢なんてガラじゃない。「舞踏会でダンス? 踊りなんて盆踊りしか知らないからっ」 一方、リアル世界に残された和華の中にはジュリエットが入っていて・・。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

処理中です...