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第四章:対決
第34話 見届ける義務
「……決、闘……」
アイシャは思ってもいないことだったらしく、驚愕のため瞳を見開いて固まっている。
「なぜ、わたしが小国のハーメイの王ごときとそんなことをしなければならない? それはわたしに利がなさ過ぎるだろう」
ガルディア勢とカルラートに対し、ルドガーが嘲るように言った。
確かにガルディアが間に入っているとは言え、大国の王が小国の王と一騎打ちなど前代未聞だった。
それ故に、ルドガーがそう言うのも無理はなかった。
「それはトゥルティエール国王がわたしに勝った暁には、我が領土で穴埋めしよう。それに、このままでは戦火に巻き込まれることが目に見えていたしな。ハーメイ側の要求としては妃を奪還出来ればそれでいい。それで文句はあるまい」
カルラートがそう言うと、アイシャが堪らないというように叫んだ。
「そんな、今回の件でハーメイには一切責はないですか。それでは、ハーメイに利がなさすぎます。ガルディアの方、どうかそのようなこと、やめさせてください」
アイシャがネイザンに懇願するが、彼はすまなそうに首を振っただけだった。
「……残念ながら、トゥルティエールとハーメイでは国力が違いすぎます。これでも、我がガルディアが間に入ったのでこういう話も出来るのですよ」
「でも、それでは振り回されるハーメイの民が気の毒すぎます」
アイシャが眉を下げてネイザンに懇願すると、彼はそれは理解しているように力強く頷いた。
「もちろん、ガルディアはトゥルティエールに無体な真似はさせるつもりはありませんよ。ハーメイの民も王に近い血筋や貴族にも手を出させません」
「ハーメイ側の勢力を残したままでは後に禍根が残るではないか。わたしはそんな馬鹿なことには乗らないぞ」
ハーメイ攻略のあかつきには、かの国の粛正を考えていたらしいルドガーが不満げに言う。
「おや、臆しましたか。トゥルティエール国王様」
それまで事の次第を見守っていたらしいエリュウスが一国の王に対して軽口を叩いた。
「貴様、無礼だぞ」
案の定、ルドガーが不快そうにエリュウスを睨んだ。
「しかし、領地をかけてまでハーメイ国王様がこうまで言っておられるのです。……それに、周辺諸国では、あなた様は他国の花嫁を奪った略奪者です。少し調べさせて貰いましたが、この件で国民の不満も相当なものでしょう? こうなったら腹を括られてハーメイ国王様の決闘の申し込みを受けた方がよろしいかと思いますが」
国民の不満が出ているのは、ルドガーも充分把握している。
ガルディアも出てきているこの事態に、ルドガーは決闘を受け、かの国の要求を呑むしかあるまいと覚悟を決めた。
それに、これは憎い恋敵のカルラートを葬り去る絶好の機会でもある。
「……分かった。ハーメイ国王の決闘の申し込みを受けよう」
「……陛下!」
ルドガーの了承に、アイシャが驚いたように叫んだ。
そして、ルドガーの方へ駆け寄ろうとするが、ネイザンの拘束魔法がそれを阻んだ。
「アイシャ様には、事が済むまでお部屋で休んで頂きます。どうかご了承ください」
アイシャはかろうじて動く首を横に振って、涙を流した。
その悲痛な様子に、その場の男達が多少動揺する。
確かに、この事態はアイシャの気持ちを無視する形で進んでしまっている。
しかし、それでもこの大陸全体の平和のためには彼女になんとか耐えてもらうしかないのだ。
「そんなわたしのせいでこんなことになっているのに、わたしだけ蚊帳の外は嫌です。どうかこんな殺傷はおやめください。……そうですわ。ネイザン様、わたしをガルディアにお連れください。わたしがいなければお二人が争う理由もなくなるでしょう?」
アイシャの必死の懇願に、苦渋の表情を浮かべて、ネイザンが首を横に振る。
「申し訳ありませんが、一度決闘の申し込みをして、それを受けたものを覆すことは出来ません。どちらが勝者になっても、アイシャ様には大変苦痛を与えることになるかと思いますが……」
それを聞いて、アイシャは顔色をなくした。
なにせアイシャにとっては、ルドガーは血が繋がっていないとはいえ、長い間兄という立場だったのだ。
それに加え、彼女が婚礼の宣誓をしたカルラートはアイシャを溺愛していた。
それで、今回の決闘によって彼女が苦しまないことは不可能に近い。
「……それでは、せめてわたしにこの勝敗の行方を見守らせてください」
アイシャが胸元で指を組んで、ネイザンに願った。
しかし彼はそれをすげなく拒絶した。
「これは、いわば殺し合いなのですよ。そんな場にご婦人を立ち会わせるわけには参りません」
だが、アイシャは引かなかった。
「先程申したはずですわ。わたしも当事者なのですから、自分だけ蚊帳の外にいるわけには参りません」
どうあってもそう言い張るアイシャに、カルラートは困ったように言った。
「アイシャ、わたしはそなたに血生臭いものを見せたくない。それに、きっとどちらが勝者になってもそなたは衝撃を受けるはずだ」
アイシャがルドガーのことを密かに愛していることを知っているカルラートは彼女を諭しにかかる。
「この男の意見に同意するのは癪だが、アイシャ、おまえがわたし達の決闘に立ち会うのは荷が重すぎる。わたしはおまえの心にこれ以上傷をつけたくない」
ルドガーがそう言うと、アイシャは壮絶なまでの美しい微笑みを浮かべた。
「……この事態を招いた陛下らしからぬご意見ですわね。わたしはあなた様のご命令はお聞きしません。どうあっても、お二方の決闘には立ち会わせて頂きます」
辛辣なアイシャの言葉に、ルドガーの顔が歪んだ。
しかし、すべての元凶の略奪者となれば、アイシャの対応は至極当然とも言えただろう。
「……なかなか芯の強い姫君ですね。ネイザン殿、アイシャ様がご意見を翻すことはないようですし、立ち会いをお許しになられた方がよろしいかと思われますが」
エリュウスが興味深そうにアイシャを見つめながら意見すると、ネイザンも渋々頷いた。
「……仕方あるまいな。女性には出来ればお見せしたくはなかったですが。アイシャ様、これはどちらか死ぬまでの真剣勝負です。その点はご留意頂きますよう」
どちらか死ぬまでと聞いて、一瞬アイシャの顔色が悪くなるが、彼女は気丈にもこう言った。
「はい、わたしはこの決闘を最後まで見届けます。それがわたしの義務でもありますから」
アイシャは思ってもいないことだったらしく、驚愕のため瞳を見開いて固まっている。
「なぜ、わたしが小国のハーメイの王ごときとそんなことをしなければならない? それはわたしに利がなさ過ぎるだろう」
ガルディア勢とカルラートに対し、ルドガーが嘲るように言った。
確かにガルディアが間に入っているとは言え、大国の王が小国の王と一騎打ちなど前代未聞だった。
それ故に、ルドガーがそう言うのも無理はなかった。
「それはトゥルティエール国王がわたしに勝った暁には、我が領土で穴埋めしよう。それに、このままでは戦火に巻き込まれることが目に見えていたしな。ハーメイ側の要求としては妃を奪還出来ればそれでいい。それで文句はあるまい」
カルラートがそう言うと、アイシャが堪らないというように叫んだ。
「そんな、今回の件でハーメイには一切責はないですか。それでは、ハーメイに利がなさすぎます。ガルディアの方、どうかそのようなこと、やめさせてください」
アイシャがネイザンに懇願するが、彼はすまなそうに首を振っただけだった。
「……残念ながら、トゥルティエールとハーメイでは国力が違いすぎます。これでも、我がガルディアが間に入ったのでこういう話も出来るのですよ」
「でも、それでは振り回されるハーメイの民が気の毒すぎます」
アイシャが眉を下げてネイザンに懇願すると、彼はそれは理解しているように力強く頷いた。
「もちろん、ガルディアはトゥルティエールに無体な真似はさせるつもりはありませんよ。ハーメイの民も王に近い血筋や貴族にも手を出させません」
「ハーメイ側の勢力を残したままでは後に禍根が残るではないか。わたしはそんな馬鹿なことには乗らないぞ」
ハーメイ攻略のあかつきには、かの国の粛正を考えていたらしいルドガーが不満げに言う。
「おや、臆しましたか。トゥルティエール国王様」
それまで事の次第を見守っていたらしいエリュウスが一国の王に対して軽口を叩いた。
「貴様、無礼だぞ」
案の定、ルドガーが不快そうにエリュウスを睨んだ。
「しかし、領地をかけてまでハーメイ国王様がこうまで言っておられるのです。……それに、周辺諸国では、あなた様は他国の花嫁を奪った略奪者です。少し調べさせて貰いましたが、この件で国民の不満も相当なものでしょう? こうなったら腹を括られてハーメイ国王様の決闘の申し込みを受けた方がよろしいかと思いますが」
国民の不満が出ているのは、ルドガーも充分把握している。
ガルディアも出てきているこの事態に、ルドガーは決闘を受け、かの国の要求を呑むしかあるまいと覚悟を決めた。
それに、これは憎い恋敵のカルラートを葬り去る絶好の機会でもある。
「……分かった。ハーメイ国王の決闘の申し込みを受けよう」
「……陛下!」
ルドガーの了承に、アイシャが驚いたように叫んだ。
そして、ルドガーの方へ駆け寄ろうとするが、ネイザンの拘束魔法がそれを阻んだ。
「アイシャ様には、事が済むまでお部屋で休んで頂きます。どうかご了承ください」
アイシャはかろうじて動く首を横に振って、涙を流した。
その悲痛な様子に、その場の男達が多少動揺する。
確かに、この事態はアイシャの気持ちを無視する形で進んでしまっている。
しかし、それでもこの大陸全体の平和のためには彼女になんとか耐えてもらうしかないのだ。
「そんなわたしのせいでこんなことになっているのに、わたしだけ蚊帳の外は嫌です。どうかこんな殺傷はおやめください。……そうですわ。ネイザン様、わたしをガルディアにお連れください。わたしがいなければお二人が争う理由もなくなるでしょう?」
アイシャの必死の懇願に、苦渋の表情を浮かべて、ネイザンが首を横に振る。
「申し訳ありませんが、一度決闘の申し込みをして、それを受けたものを覆すことは出来ません。どちらが勝者になっても、アイシャ様には大変苦痛を与えることになるかと思いますが……」
それを聞いて、アイシャは顔色をなくした。
なにせアイシャにとっては、ルドガーは血が繋がっていないとはいえ、長い間兄という立場だったのだ。
それに加え、彼女が婚礼の宣誓をしたカルラートはアイシャを溺愛していた。
それで、今回の決闘によって彼女が苦しまないことは不可能に近い。
「……それでは、せめてわたしにこの勝敗の行方を見守らせてください」
アイシャが胸元で指を組んで、ネイザンに願った。
しかし彼はそれをすげなく拒絶した。
「これは、いわば殺し合いなのですよ。そんな場にご婦人を立ち会わせるわけには参りません」
だが、アイシャは引かなかった。
「先程申したはずですわ。わたしも当事者なのですから、自分だけ蚊帳の外にいるわけには参りません」
どうあってもそう言い張るアイシャに、カルラートは困ったように言った。
「アイシャ、わたしはそなたに血生臭いものを見せたくない。それに、きっとどちらが勝者になってもそなたは衝撃を受けるはずだ」
アイシャがルドガーのことを密かに愛していることを知っているカルラートは彼女を諭しにかかる。
「この男の意見に同意するのは癪だが、アイシャ、おまえがわたし達の決闘に立ち会うのは荷が重すぎる。わたしはおまえの心にこれ以上傷をつけたくない」
ルドガーがそう言うと、アイシャは壮絶なまでの美しい微笑みを浮かべた。
「……この事態を招いた陛下らしからぬご意見ですわね。わたしはあなた様のご命令はお聞きしません。どうあっても、お二方の決闘には立ち会わせて頂きます」
辛辣なアイシャの言葉に、ルドガーの顔が歪んだ。
しかし、すべての元凶の略奪者となれば、アイシャの対応は至極当然とも言えただろう。
「……なかなか芯の強い姫君ですね。ネイザン殿、アイシャ様がご意見を翻すことはないようですし、立ち会いをお許しになられた方がよろしいかと思われますが」
エリュウスが興味深そうにアイシャを見つめながら意見すると、ネイザンも渋々頷いた。
「……仕方あるまいな。女性には出来ればお見せしたくはなかったですが。アイシャ様、これはどちらか死ぬまでの真剣勝負です。その点はご留意頂きますよう」
どちらか死ぬまでと聞いて、一瞬アイシャの顔色が悪くなるが、彼女は気丈にもこう言った。
「はい、わたしはこの決闘を最後まで見届けます。それがわたしの義務でもありますから」
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