婚約破棄された転生令嬢はレベルアップする

舘野寧依

文字の大きさ
23 / 42

23.黙ってろって言われたのに!

しおりを挟む
「お……っ、お待ちください! なぜホルスト家やハウアー家ではなく、僕たちが被告なのですか!? これはなにかの間違いだ。こちらが被害者のはずです!!」

 サバス様は、陛下の宣言に懲りもせず再び食ってかかっている。さっき陛下に黙れと言われたばかりなのに馬鹿なの?

「……国賓を招いた王家主催のパーティで、王族が再三注意をしたのにもかかわらず騒ぎ立てた者がなにを言っておるのだ? この大審議は、かのパーティでそなたらが王家を侮辱したことに端を発しているのに、侮辱された側のホルスト家やハウアー家が裁かれる立場になるわけがない」
「ぶっ、侮辱なら僕もされました! ディアナ・ハウアーは生意気にも僕との婚約を断りましたし、マグノリアにいたっては、僕の顔が普通などとひどい侮辱を……!」
「……そなたは馬鹿か?」

 それまで顔をしかめていた陛下があきれたようにサバス様におっしゃった。……うん、それは被告席以外の人たちの総意だと思います。

「なっ、なっ!?」
「そなたが言っておるのは、まるきりの私怨ではないか。ディアナ嬢は十の歳から婚約しているし、そなたが婚約を申し込んで受けるはずもなかろう」
「しっ、私怨などっ! 僕は……っ!」

 陛下にはっきりと断じられて、サバス様が顔を歪ませて叫んだ。けれど、陛下はそれを黙殺して続けられた。

「マグノリア嬢もしかりだ。そもそもマグノリア嬢はそなたに見当違いな侮辱をされたので、そなたの思い違いを指摘したにすぎない。そして、その前にもそなたが同様の態度をマグノリア嬢にしてきたことは既に調査済みだ。……なぜ、あのようなひどい態度で、二人がそなたに惚れていると思うのかわたしには理解不能だ」

 そうそう、陛下そうなんですよ! それが普通の思考回路ですよね!
 けれど、陛下のしごくもっともな正論に、サバス様は怒りからか顔を真っ赤にして叫んだ。

「なっなっなっ! 陛下までわたしをこのような公の場で侮辱されるとは! 従順な臣下であるこのわたしに、このようなむごい仕打ち、ひどすぎます!!」
「……それを言うなら、従順な臣下は王族を公の場で侮辱しない。第一、そなたは裁かれる立場であるのに、なんの世迷いごとを言っておるのだ?」

 ……ですよね!
 サバス様、自分の立場をまるで分かってない。いくらお花畑でも、程度ってものがあると思うの。

「しっ、しかしっ、学園長は庭師のくせに王族と偽っております! ビッチを嫉妬からいじめたディアナ・ハウアーの身内の王妃も、処分するべきかと!」

 それを聞いて、わたしは人ごとながらも頭を抱えたくなってしまった。
 うっわー、サバス様お馬鹿すぎる! さっき陛下に無礼と言われたばかりなのに!
 そもそも、まったく非のない王妃様を処分ってなんなの? 刑に処せってこと? ……サバス様の思考回路がやばすぎる!

「……そなたは馬鹿か?」

 再び、陛下の口から先程と同じ言葉がこぼれた。
 ……大事なことだから二度言ったわけじゃなくて、陛下の心からのお言葉なんだろうな。この大審議の場にいるほとんどの人たちの総意というか、心の叫びでもあるかもしれない。

「庭師がなぜ、王族として公の場に出てくるのだ。ここにおるのは、正真正銘わたしの叔父だ」
「し、しかしっ、学園長はやたら花のことに詳しかったのです! ですから、庭師が成り代わっているのかと! ……ああ! もしかしたら、既に本来の学園長は、その卑劣なジジイに殺されているのかもしれません!!」
「…………」

 サバス様のトンデモ理論に、大審議の場が一気に静寂に包まれた。
 それを自分に都合のいい展開ととらえたのか、サバス様がドヤ顔で陛下を見やった。……うっわ、めちゃめちゃ不敬やん。

「……そなたは馬鹿か?」

 おおう、陛下の三度目のそなたは馬鹿か来ました! というか、わたしもそれしか言えないので陛下のお気持ちがとても分かる気がする。

「なっ! いくら陛下でも、侯爵家である僕にこのような侮辱は……!」

 自分のことしか考えられないサバス様は、顔を屈辱に染め、的外れな抗議を陛下にしている。

「なぜ花に詳しいだけで庭師だと思うのだ? そもそも叔父の趣味は薔薇を育てることだ。詳しくて当然だ」

 あきれたように陛下がそうおっしゃった途端、サバス様がなぜか我が意を得たりというように叫んだ。

「ですから、庭師が王族として成り代わっているというのです! 薔薇を育てるのが趣味というのがなによりの証拠!」
「……薔薇の育成は、王侯貴族としての典雅な趣味であるが? 貴族籍にありながら、そのようなことも知らぬのか?」

 ほとほとあきれ果てた様子で陛下がおっしゃった。……うん、お気持ちはよくわかります。馬鹿を相手にすると疲れますよね。

「な……っ、ですが!」
「それから王妃を処分と言ったな? 仮にディアナ嬢がいじめを行ったとして、なぜ王妃が処分されなければならぬのだ?」
「僕の愛するビッチがディアナ・ハウアーに虐げられたのです! ハウアー家出身の王妃が処分されるのは当然です!!」

 うわー、この馬鹿言い切っちゃったよ。陛下がサバス様をコロコロしちゃいそうな凄まじい殺気を発してるけど、全然気づいてないのはある意味幸せかもしれない。

「……筆頭侯爵家の者であるディアナ嬢がそこの無礼な男爵令嬢をいじめたとしても、罪には問われない。両者の間には明らかな身分差がある。そもそも、いじめていたのはディアナ嬢ではなくて、そこの無礼な男爵令」「ひっ、ひどい! わたしがいじめられたんですよ! サバス様の言うとおり、ディアナみたいな胸だけ女の身内の王妃が処分されるのは妥当だと思います!」

 陛下がまだ話されているのに、それにかぶせるようにしてビッチちゃんが泣きマネをしながら突然訴えてきた。
 ……うわあうわあ。ビッチちゃん、空気読めないどころか、もはや死にたがっているとしか思えない。
 国王陛下の言葉を貴族最下位の男爵令嬢がさえぎるという明らかな不敬に、傍聴席がざわめいた。
 その様子を見て、勘違い娘のビッチちゃんは、なぜかドヤァというような顔で胸を反らせたけど、いや違うからね? 傍聴席の人たちはビッチちゃんの非常識さに驚いているだけだから。
 他人のことながら、冷や汗をかく思いでふと見れば、ビッチちゃんの近くでスタイン男爵の顔色が青を通り越して土気色になり、その奥方が白目を剥いて今にも倒れそうになっていた。
しおりを挟む
感想 257

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

処理中です...