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研究者とは、
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_________________。
「落ち着きましたか?薫さん」
優しく聞いてくれる尊さん。
「は、い」
さっきよりだいぶ落ち着いた。
僕自身も、あんなに泣いてしまうとは思わなかった。泣くということは、記憶にある中でもそんなに無い。
思い出してくると、恥ずかしい……っ
ちなみに、伯父上は研究者の方に呼ばれて今はいない。ここ離れる時も大丈夫?と何度も聞いてきた。
尊さんに早く行ってくださいと追い出されたのを思い出す。
尊さんは、扱い方が慣れていらっしゃる。
「尊さんは、僕が玖央家の者だと」
「存じておりますよ」
ティーカップを置いて聞いてみた。
「僕のことも知って、」
いるんですかね?能力のことやら、吸血衝動のことやら……
「はい。先生からよく聞かされてましたからね」
うんうんと頷いている。
やはりそうだったのか。
「薫さんは今の自分が嫌いですか?」
じっと、僕の顔を見て来るその表情は読めない。
「はい、とても」
正直答える。
「そうですか。私は、薫さんが羨ましいですよ」そう、尊さんは、にこっと笑った。
羨ましい……?どこがなんだろうか?
「なんでという顔をされてますね」
「は、い」
「私は、人間ですがそれがとても嫌なのですよ」
人間が嫌?どういうことなのだろうか?
「ああ、勘違いして欲しくないのが人間が嫌いと言う訳ではなくて、人間の私が嫌いということですね」
なるほど。でもこんなに、出来る人が持つコンプレックスとは何なのだろうか?
「私は、結婚もしていて、妻と子どもがいるんです」
左手の薬指には、指輪がある。それをそっと触る尊さん。
「ですが、妻と、子どもは吸血鬼です」
!!!
もしかして、
「か、けおちされたのですか…?」
「ええ、駆け落ち結婚ですね。両家から反対されましたが私達は、一緒になることを選びました。私達の子どもは、先程も言った通り、吸血鬼です。人間と吸血鬼との子どもは、混血が100%と言われています」
知らなかった。だから、混血もそれなりの人口率があるのか。
「吸血鬼と人間の寿命の差は、どうにもならないのですよ。子どもの成長も、妻と歳を取ることも限られた時間しかないのです」
聞いたことがある、人間の寿命は、永くても約90年ぐらいだと。
吸血鬼は、1000年、2000年以上も生きる。
その絶望を知った時、尊さんはどう思ったのだろうか。
「なので、私は人間から吸血鬼へ、吸血鬼から人間へなれる方法を研究しているのですよ」一緒に、子どもと妻と永く生きたいのです。そう尊さんは、悲しそうに言った。
「出来ますよ!!絶対!尊さんなら、出来ます!!」ばっ!と立ち上がり、気がついたら叫んでいた。
はっと気づいて、すっと座る。
「……すみません。根拠の無い事を言ってしまって……」
「いえ、本当に樹央先生の甥っ子さんなのだなと驚きました」ふふふと笑っていた。
「この話を樹央先生にもしたことをがあるのですが、同じようなことを言われましたよ」
「伯父上がですか?」
伯父上もこの話を聞いたのか……どう答えたのだろうか?
『私も事情が少し違うけれど、どうしても治してあげたい子がいてね。頑張って見つけようじゃないか』
そんなことを言われてましたよ?と尊さんは言う。
それって……
「薫さんのことでしょうね。あの先生は、薫さんが思っているよりずっと貴方の事を考えていらっしゃいますよ。毎日、薫さんの話をされるぐらいですからね」
ぐっと拳を握った。
僕は、なんて情けない……
自分のことを諦めていて、見て見ぬふりをしていた。
「尊さん!僕は、研究者になりたいです!!まずは……自分のこともですが、尊さんの実験をお手伝いさせていただいても良いでしょうか……?」
なんだか、言っている途中でどんどん不安になって来た。子どもの僕が出来ることなんてあるのだろうか?
「薫さん、嬉しいですよ。ありがとう」
少し目元が涙が浮かんでいるのが見えた。ああ、僕が出した答えは間違っていなかったのかな?
それを見て、僕もまた泣いてしまって、それを見て尊さんも泣いてしまった。
伯父上が戻って来た時、2人で泣いていたので伯父上がまたオロオロしながら、
「何があった……?」
と聞いて来る姿を見て2人で笑ってしまった。
_________________。
「なんだ尊、話したのか?2人で泣いているから驚いたよ……」ふーと息を吐いた伯父上の顔はげっそりしている。
「伯父上、毎日ここに来ては行けないでしょうか?」
「薫……」
「自分の事を自分で調べて、知りたいです」自分の身体に何が起きているのかを……
知ることで何か、分かることがあるかもしれない。
「薫……強くなったな。分かった、毎日ここに一緒に来よう」
ぽんぽんっと頭を撫でられた。
「さて、見学の途中なので再開しましょうか?」
「お願いします!」
_________________。
「尊さん、今日はお時間頂きありがとうございます。とても勉強になりました!また明日からお邪魔致しますがよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、また明日からも待ってますよ」
研究所を後にした。
馬車の中で、メモしたことを見直していると馬車が停まった。
?ん?何かあったのだろうか?
「薫、行くよ」
手を引かれ、馬車を降りる。
そこは、店がずらっと並ぶ場所だった。
夜にも関わらず、賑わっている。
「先生、ここは!街ですか!?」
ばっと、伯父上の方を見る。
すると、にやっと笑って手を引かれ歩いて行く。
あ、なんだか悪い顔をしている。
「さて、薫。私からの課題です。この銅貨で家族にお土産を買って帰りましょう!」
手のひらに置かれたのは、銅貨2枚。
お土産?
「お金の役割は教えたよね?」
「はい。覚えてはいます」
じゃあ、大丈夫だね!と言う叔父上。
いや、違うんです……物の価値や、相場は知らないのですよ……
確か、銅貨1枚でりんごが5つほど買えるという話を聞いたけれど……
(補足:銅貨1枚=1000円(野口)ほど
銀貨1枚=5000円(樋口)ほど
金貨1枚=10000円(諭吉)ほどの価値)
「私は、後ろには居るけれど口出しはしないからね」
え!?
「そ、そんなっ……みんなが何がいいと言うのも知らないのですがっ」
半泣きになりながら、伯父上を見る。
初心者の僕にそれは酷いよ……
「う、わ、分かった!ちゃんと、助言するから!大丈夫、大丈夫!」
伯父上は、焦ったように言った。
ふ、作戦通り。
と言っても本当に、みんなが好きな物とかは、分からないのだ。
「うーん、まあみんな薫が選んだ物だったらなんでも喜ぶと思うよ?特に、双子は」
え、なんでも?そんなことあるのかな……
ん?あのお店は……
「先生!課題を少し中断してもよろしいでしょうか?あの、お店見てみたいです!!」
あそこのお店と、指を刺したのは本屋だった。
「うん、構わないよ。そっか、薫は本が好きだよね」
と言いながら、本屋に向かう伯父上も顔がにやにやしている。
いえ、伯父上もですよね?
「はい。屋敷の中の本は、読み終わってしまったので何か無いかと思いまして」
どちらかと言うと、本が好きと言うより知識を集めると言う事が目的なので好き嫌いではない気がする……
「え、読み終わった?あの書庫を?」
目をぱちくりさせてこっちを見てくる伯父上。
何か変なことを言っただろうか?
「まあ、普通は大人でも読み切れないかな」はははと笑った。
そんな伯父上を横目に、考えていた。
昔父から聞いたけれど、伯父上は屋敷の書庫を僕と同じぐらいの時には読破したそうだ。読む本が無くなったら、次は国の書庫を開けてもらい読み漁ったと言う。
それを聞いて、僕も同じように真似してみた。そうすると、伯父上みたいに知識が得られると思ったからだ。
でも今思えば、本の知識だけでは限界がある。伯父上は、国中の知識を本で得てそれを実践してまた学びを繰り返したのだろう。
今日初めて、屋敷の外に出た僕は本の知識までしか出来ない。
たぶん、僕はそこら辺の子どもより世間を知らない。
カランッカランッ
ベルの鳴る扉を開けて、中に入る。
伯父上は、すーーと本屋の奥に行ってしまった。
本当に、本が好きなのだろう。
「あれ?薫、買わないの?」
そう言う伯父上の手には、3冊本があり購入するのだろう。
僕は、ふるふると首を振った。
「欲しい物はありましたが思っていたよりも高くて……またの機会にします」
そう、本1冊が高い。
僕は、恵まれていた環境のおかげで本を読むことが出来るが、一般的に本を買うのは貴族だけだなのだろう。
本の値札を見て、目が飛び出るかと思った。実際、ひっ!と悲鳴を上げてしまった。
「どれ?薫が欲しいのは」
「え、」
ほらほら、どれ?、すっと背中を押された。
「これですね」
「ああ、これか」
『古代魔術書』
見た目は、とてもボロボロだが古代魔術について詳しく書いてあった。そう、古代文字で。
伯父上の反応を見る限り、叔父上自身も読んだことがあるのだろう。
すっと、僕の手から本を取り、自分の手元の本の上に重ね、伯父上は歩き出した。
そう、レジの方へ
「お、おじっう、せ、先生!?」
う、嘘だろう!?
「今日の記念にね?」
いやいやいや!?その1冊で1年は、暮らせますよ!?
子どもは、大人の愛情を受けるべきだよと言われたが、これは、愛情なの…か?
「伯父上、その本とても高いです…よ?」
とても心配して伯父上に言う。
伯父上は、そんな言葉にふっと鼻で笑い、「ちゃんと稼いでいるし、貯金も使っても使い切れないから大丈夫だよ」
これ1冊買ったからと言って、生活に困るほどではないよとさらっと言う。
うわ……とても大人の余裕を感じる。
「はい、薫。私から初めてかな?薫に物を贈るのは」
確かに、物は初めてだ。知識などは、毎日伯父上から貰っている。
「ありがとうございます…大切に使います」ぐっと、本を抱きしめた。けれど、本がボロボロだったのを思い出し、慌てて本を見るが、劣化が止まっている。
ページをめくる度に、紙の欠片がぽろっと落ちていたのに、
あれ?
不思議そうにしていると
「多少手荒に扱っても大丈夫だよ。その本には、現状維持の魔術を掛けてるからね」そんな便利な魔術があるのか。
聞くと、本を意図的に破いても破れない。水に浸けても濡れないそうだ。なんて便利な…
そして、やけに伯父上はこの魔術につおて詳しい……
もしかして……
「この魔術を作って確かめたのは、先生ですか?」
そう尋ねたが、笑って答えてはくれなかった。
魔術を作ると言うのはとても簡単ではないだろう。ある世界から無いものを探すのはとても難しいことだし、やってよけるというのもまた、とても難しい。
「この魔術を考えた方は、とても本が好きな方なのでしょうね」
「…なんでそう思うんだい?」
伯父上は困惑しているようで、
「だって、水や、物理攻撃、炎、環境の変化にも大丈夫って本を大切に保管したいのだろうなと思いまして」
とても本好きには、使いやすい魔術ですねと笑った。
その言葉に、伯父上はびっくりしていたが少しして笑い出した。
「樹央様?」
ふと、後ろから話しかけられた。
見てみると、女性が立っていた。
よく見ると従者を2人連れていた。
「紗音……令嬢?なぜ、ここに?」
伯父上の知り合いの様だった。
「あら、その小さい可愛らしい方は?」
紗音と呼ばれたその女性が僕の方に視線を向けられた。
よく見ると、とても怖いぐらいに顔が整っている。
「落ち着きましたか?薫さん」
優しく聞いてくれる尊さん。
「は、い」
さっきよりだいぶ落ち着いた。
僕自身も、あんなに泣いてしまうとは思わなかった。泣くということは、記憶にある中でもそんなに無い。
思い出してくると、恥ずかしい……っ
ちなみに、伯父上は研究者の方に呼ばれて今はいない。ここ離れる時も大丈夫?と何度も聞いてきた。
尊さんに早く行ってくださいと追い出されたのを思い出す。
尊さんは、扱い方が慣れていらっしゃる。
「尊さんは、僕が玖央家の者だと」
「存じておりますよ」
ティーカップを置いて聞いてみた。
「僕のことも知って、」
いるんですかね?能力のことやら、吸血衝動のことやら……
「はい。先生からよく聞かされてましたからね」
うんうんと頷いている。
やはりそうだったのか。
「薫さんは今の自分が嫌いですか?」
じっと、僕の顔を見て来るその表情は読めない。
「はい、とても」
正直答える。
「そうですか。私は、薫さんが羨ましいですよ」そう、尊さんは、にこっと笑った。
羨ましい……?どこがなんだろうか?
「なんでという顔をされてますね」
「は、い」
「私は、人間ですがそれがとても嫌なのですよ」
人間が嫌?どういうことなのだろうか?
「ああ、勘違いして欲しくないのが人間が嫌いと言う訳ではなくて、人間の私が嫌いということですね」
なるほど。でもこんなに、出来る人が持つコンプレックスとは何なのだろうか?
「私は、結婚もしていて、妻と子どもがいるんです」
左手の薬指には、指輪がある。それをそっと触る尊さん。
「ですが、妻と、子どもは吸血鬼です」
!!!
もしかして、
「か、けおちされたのですか…?」
「ええ、駆け落ち結婚ですね。両家から反対されましたが私達は、一緒になることを選びました。私達の子どもは、先程も言った通り、吸血鬼です。人間と吸血鬼との子どもは、混血が100%と言われています」
知らなかった。だから、混血もそれなりの人口率があるのか。
「吸血鬼と人間の寿命の差は、どうにもならないのですよ。子どもの成長も、妻と歳を取ることも限られた時間しかないのです」
聞いたことがある、人間の寿命は、永くても約90年ぐらいだと。
吸血鬼は、1000年、2000年以上も生きる。
その絶望を知った時、尊さんはどう思ったのだろうか。
「なので、私は人間から吸血鬼へ、吸血鬼から人間へなれる方法を研究しているのですよ」一緒に、子どもと妻と永く生きたいのです。そう尊さんは、悲しそうに言った。
「出来ますよ!!絶対!尊さんなら、出来ます!!」ばっ!と立ち上がり、気がついたら叫んでいた。
はっと気づいて、すっと座る。
「……すみません。根拠の無い事を言ってしまって……」
「いえ、本当に樹央先生の甥っ子さんなのだなと驚きました」ふふふと笑っていた。
「この話を樹央先生にもしたことをがあるのですが、同じようなことを言われましたよ」
「伯父上がですか?」
伯父上もこの話を聞いたのか……どう答えたのだろうか?
『私も事情が少し違うけれど、どうしても治してあげたい子がいてね。頑張って見つけようじゃないか』
そんなことを言われてましたよ?と尊さんは言う。
それって……
「薫さんのことでしょうね。あの先生は、薫さんが思っているよりずっと貴方の事を考えていらっしゃいますよ。毎日、薫さんの話をされるぐらいですからね」
ぐっと拳を握った。
僕は、なんて情けない……
自分のことを諦めていて、見て見ぬふりをしていた。
「尊さん!僕は、研究者になりたいです!!まずは……自分のこともですが、尊さんの実験をお手伝いさせていただいても良いでしょうか……?」
なんだか、言っている途中でどんどん不安になって来た。子どもの僕が出来ることなんてあるのだろうか?
「薫さん、嬉しいですよ。ありがとう」
少し目元が涙が浮かんでいるのが見えた。ああ、僕が出した答えは間違っていなかったのかな?
それを見て、僕もまた泣いてしまって、それを見て尊さんも泣いてしまった。
伯父上が戻って来た時、2人で泣いていたので伯父上がまたオロオロしながら、
「何があった……?」
と聞いて来る姿を見て2人で笑ってしまった。
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「なんだ尊、話したのか?2人で泣いているから驚いたよ……」ふーと息を吐いた伯父上の顔はげっそりしている。
「伯父上、毎日ここに来ては行けないでしょうか?」
「薫……」
「自分の事を自分で調べて、知りたいです」自分の身体に何が起きているのかを……
知ることで何か、分かることがあるかもしれない。
「薫……強くなったな。分かった、毎日ここに一緒に来よう」
ぽんぽんっと頭を撫でられた。
「さて、見学の途中なので再開しましょうか?」
「お願いします!」
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「尊さん、今日はお時間頂きありがとうございます。とても勉強になりました!また明日からお邪魔致しますがよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、また明日からも待ってますよ」
研究所を後にした。
馬車の中で、メモしたことを見直していると馬車が停まった。
?ん?何かあったのだろうか?
「薫、行くよ」
手を引かれ、馬車を降りる。
そこは、店がずらっと並ぶ場所だった。
夜にも関わらず、賑わっている。
「先生、ここは!街ですか!?」
ばっと、伯父上の方を見る。
すると、にやっと笑って手を引かれ歩いて行く。
あ、なんだか悪い顔をしている。
「さて、薫。私からの課題です。この銅貨で家族にお土産を買って帰りましょう!」
手のひらに置かれたのは、銅貨2枚。
お土産?
「お金の役割は教えたよね?」
「はい。覚えてはいます」
じゃあ、大丈夫だね!と言う叔父上。
いや、違うんです……物の価値や、相場は知らないのですよ……
確か、銅貨1枚でりんごが5つほど買えるという話を聞いたけれど……
(補足:銅貨1枚=1000円(野口)ほど
銀貨1枚=5000円(樋口)ほど
金貨1枚=10000円(諭吉)ほどの価値)
「私は、後ろには居るけれど口出しはしないからね」
え!?
「そ、そんなっ……みんなが何がいいと言うのも知らないのですがっ」
半泣きになりながら、伯父上を見る。
初心者の僕にそれは酷いよ……
「う、わ、分かった!ちゃんと、助言するから!大丈夫、大丈夫!」
伯父上は、焦ったように言った。
ふ、作戦通り。
と言っても本当に、みんなが好きな物とかは、分からないのだ。
「うーん、まあみんな薫が選んだ物だったらなんでも喜ぶと思うよ?特に、双子は」
え、なんでも?そんなことあるのかな……
ん?あのお店は……
「先生!課題を少し中断してもよろしいでしょうか?あの、お店見てみたいです!!」
あそこのお店と、指を刺したのは本屋だった。
「うん、構わないよ。そっか、薫は本が好きだよね」
と言いながら、本屋に向かう伯父上も顔がにやにやしている。
いえ、伯父上もですよね?
「はい。屋敷の中の本は、読み終わってしまったので何か無いかと思いまして」
どちらかと言うと、本が好きと言うより知識を集めると言う事が目的なので好き嫌いではない気がする……
「え、読み終わった?あの書庫を?」
目をぱちくりさせてこっちを見てくる伯父上。
何か変なことを言っただろうか?
「まあ、普通は大人でも読み切れないかな」はははと笑った。
そんな伯父上を横目に、考えていた。
昔父から聞いたけれど、伯父上は屋敷の書庫を僕と同じぐらいの時には読破したそうだ。読む本が無くなったら、次は国の書庫を開けてもらい読み漁ったと言う。
それを聞いて、僕も同じように真似してみた。そうすると、伯父上みたいに知識が得られると思ったからだ。
でも今思えば、本の知識だけでは限界がある。伯父上は、国中の知識を本で得てそれを実践してまた学びを繰り返したのだろう。
今日初めて、屋敷の外に出た僕は本の知識までしか出来ない。
たぶん、僕はそこら辺の子どもより世間を知らない。
カランッカランッ
ベルの鳴る扉を開けて、中に入る。
伯父上は、すーーと本屋の奥に行ってしまった。
本当に、本が好きなのだろう。
「あれ?薫、買わないの?」
そう言う伯父上の手には、3冊本があり購入するのだろう。
僕は、ふるふると首を振った。
「欲しい物はありましたが思っていたよりも高くて……またの機会にします」
そう、本1冊が高い。
僕は、恵まれていた環境のおかげで本を読むことが出来るが、一般的に本を買うのは貴族だけだなのだろう。
本の値札を見て、目が飛び出るかと思った。実際、ひっ!と悲鳴を上げてしまった。
「どれ?薫が欲しいのは」
「え、」
ほらほら、どれ?、すっと背中を押された。
「これですね」
「ああ、これか」
『古代魔術書』
見た目は、とてもボロボロだが古代魔術について詳しく書いてあった。そう、古代文字で。
伯父上の反応を見る限り、叔父上自身も読んだことがあるのだろう。
すっと、僕の手から本を取り、自分の手元の本の上に重ね、伯父上は歩き出した。
そう、レジの方へ
「お、おじっう、せ、先生!?」
う、嘘だろう!?
「今日の記念にね?」
いやいやいや!?その1冊で1年は、暮らせますよ!?
子どもは、大人の愛情を受けるべきだよと言われたが、これは、愛情なの…か?
「伯父上、その本とても高いです…よ?」
とても心配して伯父上に言う。
伯父上は、そんな言葉にふっと鼻で笑い、「ちゃんと稼いでいるし、貯金も使っても使い切れないから大丈夫だよ」
これ1冊買ったからと言って、生活に困るほどではないよとさらっと言う。
うわ……とても大人の余裕を感じる。
「はい、薫。私から初めてかな?薫に物を贈るのは」
確かに、物は初めてだ。知識などは、毎日伯父上から貰っている。
「ありがとうございます…大切に使います」ぐっと、本を抱きしめた。けれど、本がボロボロだったのを思い出し、慌てて本を見るが、劣化が止まっている。
ページをめくる度に、紙の欠片がぽろっと落ちていたのに、
あれ?
不思議そうにしていると
「多少手荒に扱っても大丈夫だよ。その本には、現状維持の魔術を掛けてるからね」そんな便利な魔術があるのか。
聞くと、本を意図的に破いても破れない。水に浸けても濡れないそうだ。なんて便利な…
そして、やけに伯父上はこの魔術につおて詳しい……
もしかして……
「この魔術を作って確かめたのは、先生ですか?」
そう尋ねたが、笑って答えてはくれなかった。
魔術を作ると言うのはとても簡単ではないだろう。ある世界から無いものを探すのはとても難しいことだし、やってよけるというのもまた、とても難しい。
「この魔術を考えた方は、とても本が好きな方なのでしょうね」
「…なんでそう思うんだい?」
伯父上は困惑しているようで、
「だって、水や、物理攻撃、炎、環境の変化にも大丈夫って本を大切に保管したいのだろうなと思いまして」
とても本好きには、使いやすい魔術ですねと笑った。
その言葉に、伯父上はびっくりしていたが少しして笑い出した。
「樹央様?」
ふと、後ろから話しかけられた。
見てみると、女性が立っていた。
よく見ると従者を2人連れていた。
「紗音……令嬢?なぜ、ここに?」
伯父上の知り合いの様だった。
「あら、その小さい可愛らしい方は?」
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よく見ると、とても怖いぐらいに顔が整っている。
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