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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 7

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時間は有り余るほどある。



この一か月、王宮の隅々まで探検したつもりだ。



王宮でも、エレオノーラがいるのは王族のプライベートスペースに近い場所に滞在している。

そのため、使用人も限られた人しか入れない。



しかし、そこを一歩出ると、来客を迎えるスペースがあったり、宰相の執務室や、事務方の詰め所、騎士団やメイドルームなど、様々な人が行き交っている。



そして、王宮の前の広場は開放されており、憩いの広場として人気のようだ。

商人や、親子連れ、大道芸人など、様々な人が毎日集まってきていて、みているだけでも飽きることがない。









「毎日ご覧になっていますね~。何か気になるものでも?」



エレオノーラのお出かけに毎日付き添ってくれている護衛騎士のフレデリックだ。



20代前半といったところか、栗毛でひとなつっこい笑顔が印象的な青年だ。

いつもにこにことしているので愛想の良さは、エレオノーラを安心させてくれていた。





「いいえ、いろんな人をみていれば、私の記憶も戻るかなあ、と思って…」



寂し気な目線で、王宮の窓から、広場を見つめる。



「そうでしたか。そう焦ることはありませんよ。アンナマリー様はあなたが来てから、とても楽しそうですし、もし、記憶が戻ってどこかにお帰りになるとなったら悲しむだろうなあ~。」



「そうね、本当によくしていただいていると思うわ。でも、記憶が戻らなかったら、どうやって暮らしていくか、考えなければいけないじゃない?」



「まあ、そうですね。でも、まだお嬢様はまだちびっこですし、ゆっくりお考えになってはどうですか?未成年を放り出すような国ではないですよ。」



(ちびっこ!!初めて言われた。これでも14歳ぐらいかなと思うんだけど…)



ちびっこと言われたことに動揺しつつも、

「で、でも、親がいなければ救護院とかあるでしょう?」



「いやあ、でも貴族令嬢は救護院というより、どなたかの家に養子にいくことが多いんじゃないですかね~。」



「そうなの?」



「はい、養子にいくのはけっこう一般的ですよ。貴族の三男坊なんて、跡継ぎのいない他家へ行くのも珍しくないです。あ、俺もそうですよ。」



「え?!」



人にはいろいろな事情があるものだ。このニコニコフレデリックにそんな生い立ちがあったなんて。



「そんな、しまった!って顔されなくても大丈夫ですよ。

実家に行き来はありますし、実家より大事にしてくれているぐらいですから、ラッキー!ってなもんです。男爵家の三男坊なんて、資産もないですし。運よく、騎士の家柄で、跡継ぎを探していたところに養子に行けたので、ほんとありがたいですよ。」



この国で養子は一般的だ。



「フレデリックは、どうして騎士になろうと思ったの?」



「お、お嬢様、将来の夢ですか?」



「違うわよ」



「そうですね~、自分は男爵家の三男坊なので、騎士団に所属するしか自立する道がないな、と思ったんです。家は、兄が継ぎますしね。王立騎士団は、めちゃくちゃ待遇いいことで有名なんですよ。」



「そうなんだ、でも、騎士って危険な任務もあるでしょ?」



「それはそうです。でも、誰かを守れるってかっこいいでしょ!

あ、あとね、アカデミーの青騎士団ってご存じですか?」

「青騎士団??」



「街中を青い制服に帯剣で歩いてる少年たちいるでしょう?」



確かに、王宮前の広場でも、青い制服に帯剣の団体が歩いているのを見たことがある。



「俺も、あれにあこがれて、青騎士団に入団したんです。

で、騎士団に入団すると、自然と王宮騎士団への道が開かれるっていうシステムなんです」



青騎士団は、王宮騎士団への一番の近道と言われているそうだ。選ばれた者だけが青騎士団に所属して、王都を巡回することが出来る。



その青騎士団に、フレデリックも所属していたというのだ。



「青騎士団は、エリート中のエリートともいえますからね。もう、モテモテでしたよ~」



たしかに、王族の警護を任されるのだから騎士団の中でもかなりの使い手なのだろう。

しかし、この愛想の良さ、気のいい青年としか思えない。



「あ。今疑ったでしょ。まあ、今となっては過去の栄光なんですけどね…」



「確かに、黙っていればモテそうだものね。」



「あ、ひどい、俺のトークがダメみたいじゃないですか。」



「そんなこと、ない、ない。」

ふふっと、わらって適当に相槌を返す。

「うわ、こんなちびっこにもてあそばれてる、俺!」



大げさにショックを受けたように見せるフレデリックを見て、思い切り笑った。



「よく笑うようになりましたね。ここに来た当初、作り物かと思うほど表情なかったですものね。」



「そうだったかしら?」



「そうですよ、ガラス細工かな、と思うほど壊れそうでしたもん。」



「今は?」



「鉄でできてんじゃないかと思うくらい頑丈ですよね」



「どういう意味?!」



「いや、あの、鋼のハートというか、なんというか…」

へへへ、とフレデリックはごまかした。
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