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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 9 エレオノーラの行方
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それからというもの、
シルビオは毎日仕事の合間を縫っては街へ出て、迷子の少女がいないか探していた。
救護院、巡回騎士の詰め所など、情報が集まりそうなところへ足を運んだ。
考えたくはないが、路上で亡くなった身元不明者を引き取る教会にも。
しかし、ようとして足取りがつかめなかった。
さすがに疲労の色が濃くなるシルビオに、追い打ちをかけるように社交界では悪いうわさがささやかれてた。
“ヴェルティエ家の庭には、幼い妻の死体が埋まっている”
幼いからと社交界に連れて行かなかったことが裏目に出てしまったのだ。
借金まみれの没落貴族に嫁いで、しかも、彼女の資産で立て直していることは、社交界ではみんなが知っている。
きっと、彼女を連れていけば口さがない連中の噂の的になってしまうだろう。
そんなところに、幼い少女を放り込む気になれなかった。
借金の噂が下火になり、彼女が成長したときに、改めて夜会に連れていけばいいと思っていたが…。
(こんなことになるなら、もっと早くに連れて行けばよかった…)
後悔してもいまさらである。
仕事や、自分の都合を優先して、彼女を顧みなかった罰だろうか。
彼女を探して、三か月ほどたった頃、下男のハンスが息せき切って駆け込んできた。
「シルビオ様!目撃者です!」
目撃者と言って連れてきたのは、年は60歳ぐらいの上品な老婦人だった。
社交界でも、姿を見たことがある。
応接室に案内してゆっくり話を聞くことにした。
「あの日、観劇から帰るところだったのです。お友達とお食事をしていたら、ついつい遅くなってしまって。夜の12時すぎだったかしら…馬車の事故があったのよ。」
「事故?」
「ええ、あなたがお探しの方かはわかりませんけれどね、10歳ぐらいの小さな女の子だったわ。」
ゆったりと老婦人は話し始めた。
「雪道で馬車が滑って、跳ね飛ばされてしまったようなの。
その馬車に乗っていた方が、あっという間に連れて行ってしまったのよ。」
その老婦人は、伯爵家の奥方で、観劇が好きでよく夜更けに出歩いているらしかった。
ハンスが街でうろうろしている姿を見て、不思議に思って声を掛けたようだ。
「だって、毎日同じところをうろうろしているのですもの。しかも、何かを探すみたいに。」
このご婦人に声を掛けてもらえたのは幸運だった。
少しだけ、エレオノーラの行方に近づいた気がする。
「もし、お友達でもその事故について何かご存じの方があればご紹介いただけませんか?」
「もちろんよ。孫ぐらいのお年のお嬢さんですもの、なんだか他人事とは思えないわ。」
それから…と遠慮がちに彼女は続けた。
「いろいろな噂があるみたいだけど、あまり気になさらなくて大丈夫よ。
ずいぶん疲れているみたいだから、思いつめないようにね。」
このご婦人もあの噂をご存じなのだろう。
どう返事をしたものか、ひきつった笑いを返すのが精いっぱいだった。
(いずれにせよ、その馬車の持ち主が見つかれば、はっきりしたことがわかるはずだ)
シルビオは毎日仕事の合間を縫っては街へ出て、迷子の少女がいないか探していた。
救護院、巡回騎士の詰め所など、情報が集まりそうなところへ足を運んだ。
考えたくはないが、路上で亡くなった身元不明者を引き取る教会にも。
しかし、ようとして足取りがつかめなかった。
さすがに疲労の色が濃くなるシルビオに、追い打ちをかけるように社交界では悪いうわさがささやかれてた。
“ヴェルティエ家の庭には、幼い妻の死体が埋まっている”
幼いからと社交界に連れて行かなかったことが裏目に出てしまったのだ。
借金まみれの没落貴族に嫁いで、しかも、彼女の資産で立て直していることは、社交界ではみんなが知っている。
きっと、彼女を連れていけば口さがない連中の噂の的になってしまうだろう。
そんなところに、幼い少女を放り込む気になれなかった。
借金の噂が下火になり、彼女が成長したときに、改めて夜会に連れていけばいいと思っていたが…。
(こんなことになるなら、もっと早くに連れて行けばよかった…)
後悔してもいまさらである。
仕事や、自分の都合を優先して、彼女を顧みなかった罰だろうか。
彼女を探して、三か月ほどたった頃、下男のハンスが息せき切って駆け込んできた。
「シルビオ様!目撃者です!」
目撃者と言って連れてきたのは、年は60歳ぐらいの上品な老婦人だった。
社交界でも、姿を見たことがある。
応接室に案内してゆっくり話を聞くことにした。
「あの日、観劇から帰るところだったのです。お友達とお食事をしていたら、ついつい遅くなってしまって。夜の12時すぎだったかしら…馬車の事故があったのよ。」
「事故?」
「ええ、あなたがお探しの方かはわかりませんけれどね、10歳ぐらいの小さな女の子だったわ。」
ゆったりと老婦人は話し始めた。
「雪道で馬車が滑って、跳ね飛ばされてしまったようなの。
その馬車に乗っていた方が、あっという間に連れて行ってしまったのよ。」
その老婦人は、伯爵家の奥方で、観劇が好きでよく夜更けに出歩いているらしかった。
ハンスが街でうろうろしている姿を見て、不思議に思って声を掛けたようだ。
「だって、毎日同じところをうろうろしているのですもの。しかも、何かを探すみたいに。」
このご婦人に声を掛けてもらえたのは幸運だった。
少しだけ、エレオノーラの行方に近づいた気がする。
「もし、お友達でもその事故について何かご存じの方があればご紹介いただけませんか?」
「もちろんよ。孫ぐらいのお年のお嬢さんですもの、なんだか他人事とは思えないわ。」
それから…と遠慮がちに彼女は続けた。
「いろいろな噂があるみたいだけど、あまり気になさらなくて大丈夫よ。
ずいぶん疲れているみたいだから、思いつめないようにね。」
このご婦人もあの噂をご存じなのだろう。
どう返事をしたものか、ひきつった笑いを返すのが精いっぱいだった。
(いずれにせよ、その馬車の持ち主が見つかれば、はっきりしたことがわかるはずだ)
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