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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 10
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エレオノーラの王宮生活も三か月ほどたった頃だった。
リュトヴィッツ、ローゼンダールの両国で、貴族令嬢の行方不明者がいないか徹底的に調べてもらった。
しかし、成果は芳しくなく、三か月経っても貴族令嬢の行方不明者はいないようだった。
アンナマリーは腕組みをして、大きなため息をつきながら、
「おかしいわね~。もしかしたら、商家のお嬢様なのかしら?
もう少し範囲を広げて調べてもらうわね。」
しかし、商家でも貴族でも、子供がいなくなれば大騒ぎで探すはずだ。
探されていないということは、何か事情があったのでは…とエレオノーラは不安になった。
以前のように、思い出そうとして頭痛が起こることはない。
でも、なんだか靄もやに包まれているようで、はっきりしないのだ。
(もし、記憶が戻らなかったら…?)
王宮にずっとい続けるわけにはいかないだろう。
もう三か月にもなるし、将来を考えれば、そろそろ王宮を出る準備も必要だ。
「ねえ、ハンナ」
てきぱきと片付けをしているハンナに声をかけた。
「ハンナはどうして王宮侍女になろうと思ったの?」
ちょっと困ったようにハンナは微笑んだ。
「最初は仕方なく、家の意向でここにきました。」
「仕方なく?」
「そうです。うちは男爵家で、たいして領地も大きくないですし、
良い縁談があればよかったのですが、年齢に会うご縁がなくて。
王宮侍女の経験があれば、その後の仕事、家庭教師や付き人など仕事には困りません。
自立しようと思っておりましたから、よい経験になると思ってきました。」
自立を考えるとは、しっかりもののハンナらしい。
この国では、貴族庶民にかかわらず、女性は結婚するのが一般的だ。
もちろん、結婚しない女性もいる。その場合は、各分野のエキスパートや、特別に認められ跡継ぎとなる、などである。いずれにせよ、少数ではあるが。
ハンナは、結婚を考えていないのだろうか。
「王宮での出会いって、ないの?」
「そうですね、確かに侍女の中では騎士と結ばれて辞める方も多いです、というか、ほとんどそれ狙いというか…。」
ハンナは急にもごもごと口ごもった。
(もしかして、ハンナもそれ狙い?!)
それ以上詮索されると困るのか、わざとらしくハンナは話題を変えた。
「そういえば、来月アンナマリー様のお誕生日会があるのはご存じですか?」
「ええ、贈り物をしたいのだけど、どうもピンとこなくて。」
自分でも誰だかわからない人間を王宮で生活できるようにしてくれて、事故だとは言うが、命の恩人でもある。
何か、お礼を…と思っても、王族である彼女は望めば大抵手に入るのだ。
そんな方に、いったい何を贈ればいいのか…。
「そうだったのですね。」
ハンナは察したように苦笑いをし、つづけた。
「手作りのものなど、喜ばれるのではないでしょうか?」
「手作り?」
身の回りのものすべてが、一流職人の作に囲まれている方だ、自分の作った稚拙なものなど喜んでくれるのだろうか。
「そうです、お嬢様がご自分の時間を使って、作ってくださったものなら、大層お喜びになるのでは?」
「そうかなあ…」
もし手作りなら、何が作れるのだろう、とぼんやりと考ていると、
そうそう、とハンナは思い出したように話だした。
「お嬢様は、アンナマリー様のお誕生の夜会は出席なさいますか?」
(え?!夜会?!)
夜会に出席、となるとそれ相応のマナーを知っている必要がある。
「出席はちょっと…」
即答だ。
社交マナーもわからなければ、ダンスも踊ったことがない。
自分の名前すらわからず、自己紹介もままならない今、恩人のアンナマリー様に恥をかかせてしまう。
「そうですよね…。」
ハンナはうーん、と考え込むような仕草をした。
もしかしたら、出たほうがいい理由があるのかもしれない。
おずおすと、様子をうかがいながら聞いてみた。
「あの…出たほうがいいの?」
「いいえ、夜会に出たら気分も変わるかも、と思いまして。お嬢様、ここ最近なにか、考えていらっしゃるようなので。」
確かに、今後どうするかは頭の中にずっとあった。
ハンナにも心配をかけてしまったようだ。
「ああ、全然大したことじゃないの。もし、記憶が戻らなかったらこの先どうしようかなと思って。」
心配させまいと、エレオノーラは妙に明るく答えた。
するとハンナは、意外なことを言った。
「まだ焦らなくて大丈夫ですよ。王様や王妃様が考えてくださっているようですよ」
「そうなの?!」
どこの馬の骨とも知れない子供のことを、考えてくださっているなんて、なんて寛大な王家だろう。自分のことを気にかけてくださっていると思うと、顔に喜びがあふれてしまう。
ハンナもつられて嬉しそうに微笑み、
「ご希望などはありますか?」
「できれば、王宮で働けたらなって。…アンナマリー様の側でお手伝いしたいなと思って。」
「ああ、それで私のことも聞いてくださったんですね。」
「実はそうなんだ。」
へへへ、とエレオノーラは照れ笑いをする。
「王宮で働くためには、どちらにせよアカデミーに通う必要がありますね。」
「アカデミー?」
「アカデミーは、15歳になる年に身分関係なく、専門知識を学ぶところです」
身分関係なく、というのありがたい。
自分がどんな身分なのか、生い立ちなのかわからない今、誰にでも門戸を開いてくれているところは安心できる。
実は、王宮にいていい身分なのか、と、迷ってもいたのだ。
(アカデミーかあ…でも生活力がない今、学費が…)
ハンナはエレオノーラの心配を見抜いていた。
「アカデミーは優秀な学生には、奨学金が与えられますよ。それから、全員が寮生活になるので、お嬢様は何のご心配もありませんよ」
ね、と優しく微笑むと、また、ハンナは仕事に戻っていった。
リュトヴィッツ、ローゼンダールの両国で、貴族令嬢の行方不明者がいないか徹底的に調べてもらった。
しかし、成果は芳しくなく、三か月経っても貴族令嬢の行方不明者はいないようだった。
アンナマリーは腕組みをして、大きなため息をつきながら、
「おかしいわね~。もしかしたら、商家のお嬢様なのかしら?
もう少し範囲を広げて調べてもらうわね。」
しかし、商家でも貴族でも、子供がいなくなれば大騒ぎで探すはずだ。
探されていないということは、何か事情があったのでは…とエレオノーラは不安になった。
以前のように、思い出そうとして頭痛が起こることはない。
でも、なんだか靄もやに包まれているようで、はっきりしないのだ。
(もし、記憶が戻らなかったら…?)
王宮にずっとい続けるわけにはいかないだろう。
もう三か月にもなるし、将来を考えれば、そろそろ王宮を出る準備も必要だ。
「ねえ、ハンナ」
てきぱきと片付けをしているハンナに声をかけた。
「ハンナはどうして王宮侍女になろうと思ったの?」
ちょっと困ったようにハンナは微笑んだ。
「最初は仕方なく、家の意向でここにきました。」
「仕方なく?」
「そうです。うちは男爵家で、たいして領地も大きくないですし、
良い縁談があればよかったのですが、年齢に会うご縁がなくて。
王宮侍女の経験があれば、その後の仕事、家庭教師や付き人など仕事には困りません。
自立しようと思っておりましたから、よい経験になると思ってきました。」
自立を考えるとは、しっかりもののハンナらしい。
この国では、貴族庶民にかかわらず、女性は結婚するのが一般的だ。
もちろん、結婚しない女性もいる。その場合は、各分野のエキスパートや、特別に認められ跡継ぎとなる、などである。いずれにせよ、少数ではあるが。
ハンナは、結婚を考えていないのだろうか。
「王宮での出会いって、ないの?」
「そうですね、確かに侍女の中では騎士と結ばれて辞める方も多いです、というか、ほとんどそれ狙いというか…。」
ハンナは急にもごもごと口ごもった。
(もしかして、ハンナもそれ狙い?!)
それ以上詮索されると困るのか、わざとらしくハンナは話題を変えた。
「そういえば、来月アンナマリー様のお誕生日会があるのはご存じですか?」
「ええ、贈り物をしたいのだけど、どうもピンとこなくて。」
自分でも誰だかわからない人間を王宮で生活できるようにしてくれて、事故だとは言うが、命の恩人でもある。
何か、お礼を…と思っても、王族である彼女は望めば大抵手に入るのだ。
そんな方に、いったい何を贈ればいいのか…。
「そうだったのですね。」
ハンナは察したように苦笑いをし、つづけた。
「手作りのものなど、喜ばれるのではないでしょうか?」
「手作り?」
身の回りのものすべてが、一流職人の作に囲まれている方だ、自分の作った稚拙なものなど喜んでくれるのだろうか。
「そうです、お嬢様がご自分の時間を使って、作ってくださったものなら、大層お喜びになるのでは?」
「そうかなあ…」
もし手作りなら、何が作れるのだろう、とぼんやりと考ていると、
そうそう、とハンナは思い出したように話だした。
「お嬢様は、アンナマリー様のお誕生の夜会は出席なさいますか?」
(え?!夜会?!)
夜会に出席、となるとそれ相応のマナーを知っている必要がある。
「出席はちょっと…」
即答だ。
社交マナーもわからなければ、ダンスも踊ったことがない。
自分の名前すらわからず、自己紹介もままならない今、恩人のアンナマリー様に恥をかかせてしまう。
「そうですよね…。」
ハンナはうーん、と考え込むような仕草をした。
もしかしたら、出たほうがいい理由があるのかもしれない。
おずおすと、様子をうかがいながら聞いてみた。
「あの…出たほうがいいの?」
「いいえ、夜会に出たら気分も変わるかも、と思いまして。お嬢様、ここ最近なにか、考えていらっしゃるようなので。」
確かに、今後どうするかは頭の中にずっとあった。
ハンナにも心配をかけてしまったようだ。
「ああ、全然大したことじゃないの。もし、記憶が戻らなかったらこの先どうしようかなと思って。」
心配させまいと、エレオノーラは妙に明るく答えた。
するとハンナは、意外なことを言った。
「まだ焦らなくて大丈夫ですよ。王様や王妃様が考えてくださっているようですよ」
「そうなの?!」
どこの馬の骨とも知れない子供のことを、考えてくださっているなんて、なんて寛大な王家だろう。自分のことを気にかけてくださっていると思うと、顔に喜びがあふれてしまう。
ハンナもつられて嬉しそうに微笑み、
「ご希望などはありますか?」
「できれば、王宮で働けたらなって。…アンナマリー様の側でお手伝いしたいなと思って。」
「ああ、それで私のことも聞いてくださったんですね。」
「実はそうなんだ。」
へへへ、とエレオノーラは照れ笑いをする。
「王宮で働くためには、どちらにせよアカデミーに通う必要がありますね。」
「アカデミー?」
「アカデミーは、15歳になる年に身分関係なく、専門知識を学ぶところです」
身分関係なく、というのありがたい。
自分がどんな身分なのか、生い立ちなのかわからない今、誰にでも門戸を開いてくれているところは安心できる。
実は、王宮にいていい身分なのか、と、迷ってもいたのだ。
(アカデミーかあ…でも生活力がない今、学費が…)
ハンナはエレオノーラの心配を見抜いていた。
「アカデミーは優秀な学生には、奨学金が与えられますよ。それから、全員が寮生活になるので、お嬢様は何のご心配もありませんよ」
ね、と優しく微笑むと、また、ハンナは仕事に戻っていった。
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