見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 17 それぞれの朝

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(結局、ほとんど眠れなかった…)



シルビオの顔を見た途端、怒涛のように記憶がなだれ込んできて、頭は痛いし、吐き気はするし、頭の中も、気持ちも、整頓がつかないまま朝を迎えてしまった。

思い出した過去の風景は、まるで夢の中の出来事のようで、現実味がない。



思い出せたのは、自分の名前と、父、母はもう亡くなっているということ。

そして、継母が家に来たこと……。

それから、どうしていたのか、どうしても思い出せない。





そして、昨夜の男性。



“……エレオノーラ……”



そう呼ばれた時の、既視感。



(きっと、私は彼を知っている)



しかし、どういう関係だったのか、記憶をたどろうとすると、どうしても靄がかかったようになって、深い皆底に沈んでいくような心地だ。





翌朝早く、フレデリックがやってきた。

いつもは、エレオノーラが起きてからやってくるというのに、やはり昨日の件だろうか。



「おはよう、フレデリック、今日は早いのね。」



「……申し訳ありません。昨日の件でお話したいことが……」



フレデリックは、少しうつむき加減で言いづらそうにしていた。



場内を勝手に歩き回っていたのだ。

怒られると、エレオノーラは身を小さくして、覚悟した。



「ごめんなさい、もう城内を勝手に歩き回ったりしないから、安心して。」



「いえ、それはもういいのです。」

それよりも、とフレデリックは続ける。普段の子犬のような雰囲気はなく、深刻な感じだ。



「昨日の男性は、お知り合いの方ですか?」



「……」



エレオノーラはどう答えたものか、迷って答えを絞りだす。



「なんだか、まだ、夢の中の出来事みたいで、本当のことなのか、はっきりしていないけど……」



名前は、エレオノーラ、父母は亡くなっていることを伝えた。

それ以降の記憶が、今のところどうしても思い出せないということも。



「昨日の男性は、知っているような気がする……でも……」



彼を見たときの、胸の奥にじわりと広がる拒絶感をどう表現したものだろうか。



「ねえ、フレデリック、私の素性がわかっても、この国で生きていく方法ってある?」

不安げに、瞳をしばたかせて、助けを求めるようにフレデリックを見つめている。



(…帰るところがないのか?思い出しているのか、それとも……?どちらにせよ、まだ話せないことがあるということだな)



フレデリックの中の疑念は深まるばかりだった。



「私が思い出した記憶は、決して幸せな素性ではなかったわ。もし、自分の力で生きていく方法があるなら、教えてほしいの」



フレデリックは少し考えるような仕草をして、

「わかりました。少し考えさせてください。悪いようにはしませんから、ここをから黙っていなくなろうとか、思わないでくださいね。」



そういって、笑うフレデリックは、やっといつもの笑顔を見せてくれた。

エレオノーラは静かにうなずいた。







それから、フレデリックは、エレオノーラの身辺調査を始めた。

帰りたがっていないところを見ると、事情があるのだろう。



(家に帰れない何かがあるのか?少し、調べてみる必要があるな……)



フレデリックから見たエレオノーラは、上流貴族いや、王族と言っても良いぐらい、高いレベルのマナーや教養を備えている。



(あれは、付け焼刃で身につくようなものじゃない)



貴族でないはずがない、と思うのだが、貴族であれば、行方不明になったら、必ず届け出をしたのち、捜索がされるはずだが、一向に探されている様子がない。



(一体どういうことなのか……)





そして、フレデリックにはもう一つ気がかりなことがあった。

昨夜の男だ。あの顔には見覚えがある。



(あれは、シルビオ・ヴェルティエだった)



アカデミー時代、青騎士団で一緒だった男だ。直接話したことはないが、自分が卒業した後、団長を務めていたと聞いている。



当時から、目立つ男だった。



(女子からの人気がすごかったんだよな。)



端正な顔立ちだで、無駄なことを話さないたちのため、少し近寄りがたい。

たまに見せる笑顔が、女子の心を鷲掴みしているようで、彼に憧れる女子は多かった。



だが、実際かなり面倒見のいい奴だし、男気もある。後輩にも人気のある男だった。



フレデリックの中では、悪い印象のない男だ。

しかし、卒業後に騎士団への所属はしていない。



エレオノーラを見ていた、あの表情、あの視線。ただの勘だが、知らない仲ではないような気がしてならなかった。



(こちらも、調べてみるか…)
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