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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 19 因縁
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次の日は、いつものように、王宮侍女の集まる食堂へ行ってみた。
「あら、ロジェ様、どうされたの?」
知り合いの王宮侍女たちが、にこやかに迎えてくれる。
「みんなの顔を見にきたんだ。むさくるしい騎士団と違って、ここはオアシスのようだよ。」
まあ、お上手、とかなんとか言っているが、皆、内心まんざらでもない。
下級貴族の子女が多い王宮侍女は、騎士との結婚を狙っている者も多い。そのため、騎士とのつなぎを作ってくれるロジェは大歓迎だ。
休憩中の侍女にまざって、お茶を飲んでいると、上司への愚痴だけでなく、誰が別れた、とか、誰それが結婚しそうだ、とか、城中の人間関係はほとんど把握されているのではないかと思えるくらいの話が飛び交っている。
その中で何気なく、
「ほんと、ひどいよね~、侍女長はわかってないよね」
なんて言っておくと、上機嫌でいろいろな情報をロジェに与えてくれる。
今日は、黒髪のベテラン侍女、巻き毛の金髪の若い侍女、ショートカットの侍女の話の輪に加わることにした。
「そういえばね、最近フレデリック様が、ずっとつきっきりで警護している方がいらっしゃるんですって“!ロジェ様、何かご存じ?」
黒髪の侍女は、騎士のことなら知ってるでしょ?とばかりにロジェに話をふる。
「ああ、、すごい美人らしいって騎士団でも噂だよ。」
と、侍女たちの話を誘う。
黒髪の侍女が、
「そうそう、ハンナが絶賛してたわよ、美しいだけでなく、性格もいいって」
(ハンナ?どこの担当だ?)
ロジェは頭の中の記憶をたどる。
大体の名前と担当医区域は頭に入っているつもりだったが、ハンナという名前に心当たりがない。
「その、ハンナは何で知っているんだい?」
「ハンナだけが、出入りを許されている場所があるのよ。どうもそこにいらっしゃるみたい。」
(王族の私室とは別ってことか…?ハンナに探りを入れたいところだな)
ショートカットの侍女は事情を知らないようで、疑問をぶつける。
「でもさ~、急に現れたじゃない?だれのお客様?」
黒髪の侍女は、少し声を落として、しかし、はっきり言った。
「アンナマリー様よ。」
「アンナマリー様?お友達ってこと?」
事情を知らない若い侍女がそういうと、
「違うわよ!……ちょっと」
といって、黒髪の侍女は皆の頭を寄せるようくいっと人差し指を動かし、合図した。
ロジェも含め、その場にいたみんなが、ずいっと顔を寄せると、
「……アンナマリー様の馬車が轢いた人よ!事故を隠ぺいするために連れてきちゃったらしいわよ?」
「え?!うそ?」
みな、一様に驚きの言葉を口にする。
「ほんとよ~、隣国にお忍びで遊びに行った帰りにさ、事故おこしたなんて外聞が悪いじゃない?で、連れてきちゃったみたいなのよ」
「いいの~?それ?」
「ダメでしょ!最初は治療してすぐに帰すつもりだったらしいけど、記憶喪失になっちゃったらしくてさ、帰すに帰せなくて、王妃様たちも頭を抱えてらっしゃるわ。」
そこで、さも、不思議、という風にロジェが答える。
「でも、隣国の行方不明者を調べたらすぐにわかるだろう?」
「それが、一向にわかんないんだって!」
こそこそと、黒髪の侍女は続けた。
「えー、それ、変だよね」
「そうよね、なんか訳ありって感じ。かといって、こちらに非があるわけだから無下にもできないし、困ったものよ。」
金髪の若い侍女が、焦った表情で、
「じゃ、じゃあフレデリック様がつきっきりって……」
三人が顔を見合わせ、
「なんか怪しいよね~」
「フレデリック様が面倒みる、みたいな感じ?」
黒髪の侍女と、ショートカットの侍女は、さして興味がないのか、淡々と話している。
「ええー!ショック、フレデリック様狙ってたのに!」
金髪の若い侍女は、わざとらしく傷ついたふりをした。
「あんたなんか、相手にされないわよ~」
と、ショートカットの侍女。彼女はいつも、なかなかに辛辣な発言をする。
「ひどーい!」
「狙ってた子多いよね、侯爵家の跡取りだけど、お高くとまってないし、親しみやすいって。」
「相変わらず、フレデリックは人気あるなあ。俺は~?」
侍女たちは「だって、ロジェ様は皆のロジェ様でしょ~?」ときゃあきゃあと笑う。
しばらく、にこやかに話を合わせ、ロジェはそっとその場を後にした。
フレデリック・モレルとロジェは、ちょっとした因縁がある。
ロジェは由緒正しき侯爵家の出身で、親族も騎士団所属が多い。いわゆるエリートだ。
一方フレデリックはもともと男爵家の出身で、侯爵家の養子。そのフレデリックのほうが、剣技も体技も強く、模擬戦や訓練では勝てたためしがない。
将来の出世が約束されているような、ロジェだが、フレデリックと比べられ、実力がないのでは?と裏で噂されることもあり、悔しい思いをしてきた。
(出世するんじゃないかって、一番ひやひやしてるのは俺かもしれないな)
パトリックと話していた時、内心ドキッとしていた。
青騎士団時代、ロジェが団長を引き受けなかった理由も実はそこにあった。
青騎士団の団長は、最高学年の一番強い男、と決まっている。上の学年が卒業する時に、自薦、他薦問わず、希望者同士かなり本格的な剣の模擬戦をする。そこで、現団長と次の団長の候補者が戦い、現団長に勝たなければ青騎士団団長(仮)となってしまう。
ロジェのプライドを守るために、シルビオに任せたような形にしたが、フレデリックから団長を受け継ぐ覚悟がどうしてもできなかった。
ロジェからしたら、フレデリックは、勝手にライバルのような存在だと思っている。
そんな彼が秘密の任務に就いているなら、知りたくなるのは当然のことだった。
「あら、ロジェ様、どうされたの?」
知り合いの王宮侍女たちが、にこやかに迎えてくれる。
「みんなの顔を見にきたんだ。むさくるしい騎士団と違って、ここはオアシスのようだよ。」
まあ、お上手、とかなんとか言っているが、皆、内心まんざらでもない。
下級貴族の子女が多い王宮侍女は、騎士との結婚を狙っている者も多い。そのため、騎士とのつなぎを作ってくれるロジェは大歓迎だ。
休憩中の侍女にまざって、お茶を飲んでいると、上司への愚痴だけでなく、誰が別れた、とか、誰それが結婚しそうだ、とか、城中の人間関係はほとんど把握されているのではないかと思えるくらいの話が飛び交っている。
その中で何気なく、
「ほんと、ひどいよね~、侍女長はわかってないよね」
なんて言っておくと、上機嫌でいろいろな情報をロジェに与えてくれる。
今日は、黒髪のベテラン侍女、巻き毛の金髪の若い侍女、ショートカットの侍女の話の輪に加わることにした。
「そういえばね、最近フレデリック様が、ずっとつきっきりで警護している方がいらっしゃるんですって“!ロジェ様、何かご存じ?」
黒髪の侍女は、騎士のことなら知ってるでしょ?とばかりにロジェに話をふる。
「ああ、、すごい美人らしいって騎士団でも噂だよ。」
と、侍女たちの話を誘う。
黒髪の侍女が、
「そうそう、ハンナが絶賛してたわよ、美しいだけでなく、性格もいいって」
(ハンナ?どこの担当だ?)
ロジェは頭の中の記憶をたどる。
大体の名前と担当医区域は頭に入っているつもりだったが、ハンナという名前に心当たりがない。
「その、ハンナは何で知っているんだい?」
「ハンナだけが、出入りを許されている場所があるのよ。どうもそこにいらっしゃるみたい。」
(王族の私室とは別ってことか…?ハンナに探りを入れたいところだな)
ショートカットの侍女は事情を知らないようで、疑問をぶつける。
「でもさ~、急に現れたじゃない?だれのお客様?」
黒髪の侍女は、少し声を落として、しかし、はっきり言った。
「アンナマリー様よ。」
「アンナマリー様?お友達ってこと?」
事情を知らない若い侍女がそういうと、
「違うわよ!……ちょっと」
といって、黒髪の侍女は皆の頭を寄せるようくいっと人差し指を動かし、合図した。
ロジェも含め、その場にいたみんなが、ずいっと顔を寄せると、
「……アンナマリー様の馬車が轢いた人よ!事故を隠ぺいするために連れてきちゃったらしいわよ?」
「え?!うそ?」
みな、一様に驚きの言葉を口にする。
「ほんとよ~、隣国にお忍びで遊びに行った帰りにさ、事故おこしたなんて外聞が悪いじゃない?で、連れてきちゃったみたいなのよ」
「いいの~?それ?」
「ダメでしょ!最初は治療してすぐに帰すつもりだったらしいけど、記憶喪失になっちゃったらしくてさ、帰すに帰せなくて、王妃様たちも頭を抱えてらっしゃるわ。」
そこで、さも、不思議、という風にロジェが答える。
「でも、隣国の行方不明者を調べたらすぐにわかるだろう?」
「それが、一向にわかんないんだって!」
こそこそと、黒髪の侍女は続けた。
「えー、それ、変だよね」
「そうよね、なんか訳ありって感じ。かといって、こちらに非があるわけだから無下にもできないし、困ったものよ。」
金髪の若い侍女が、焦った表情で、
「じゃ、じゃあフレデリック様がつきっきりって……」
三人が顔を見合わせ、
「なんか怪しいよね~」
「フレデリック様が面倒みる、みたいな感じ?」
黒髪の侍女と、ショートカットの侍女は、さして興味がないのか、淡々と話している。
「ええー!ショック、フレデリック様狙ってたのに!」
金髪の若い侍女は、わざとらしく傷ついたふりをした。
「あんたなんか、相手にされないわよ~」
と、ショートカットの侍女。彼女はいつも、なかなかに辛辣な発言をする。
「ひどーい!」
「狙ってた子多いよね、侯爵家の跡取りだけど、お高くとまってないし、親しみやすいって。」
「相変わらず、フレデリックは人気あるなあ。俺は~?」
侍女たちは「だって、ロジェ様は皆のロジェ様でしょ~?」ときゃあきゃあと笑う。
しばらく、にこやかに話を合わせ、ロジェはそっとその場を後にした。
フレデリック・モレルとロジェは、ちょっとした因縁がある。
ロジェは由緒正しき侯爵家の出身で、親族も騎士団所属が多い。いわゆるエリートだ。
一方フレデリックはもともと男爵家の出身で、侯爵家の養子。そのフレデリックのほうが、剣技も体技も強く、模擬戦や訓練では勝てたためしがない。
将来の出世が約束されているような、ロジェだが、フレデリックと比べられ、実力がないのでは?と裏で噂されることもあり、悔しい思いをしてきた。
(出世するんじゃないかって、一番ひやひやしてるのは俺かもしれないな)
パトリックと話していた時、内心ドキッとしていた。
青騎士団時代、ロジェが団長を引き受けなかった理由も実はそこにあった。
青騎士団の団長は、最高学年の一番強い男、と決まっている。上の学年が卒業する時に、自薦、他薦問わず、希望者同士かなり本格的な剣の模擬戦をする。そこで、現団長と次の団長の候補者が戦い、現団長に勝たなければ青騎士団団長(仮)となってしまう。
ロジェのプライドを守るために、シルビオに任せたような形にしたが、フレデリックから団長を受け継ぐ覚悟がどうしてもできなかった。
ロジェからしたら、フレデリックは、勝手にライバルのような存在だと思っている。
そんな彼が秘密の任務に就いているなら、知りたくなるのは当然のことだった。
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