見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 20 シルビオの胸の中

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ロジェが王宮で知ったことを一通り聞いたあと、シルビオはあの時のことを思い出していた。



振り返った、彼女の表情。

(自分と向かい合ったときの、恐ろしいものを見たような、あの表情は何だったのだろう)



走りこんできた、護衛のフレデリックとのやり取り。

(妙な気持ちだ。ああやって彼女を守るのは、自分のつもりだったのに…)



一方、ロジェは半信半疑のようだった。

「本当に、お前の妻のエレオノーラなのか?別人って線はないのか。」

半分、いやそれ以上に別人だろう、と感じているようである。



「わからん、最後に見たのは13歳だったんだ。しかも、年齢より相当幼く見えた。俺には10歳そこそこにしか見えなかったよ。王宮で会った彼女は14~5歳、いやもっと大人びていたような気もする。」



あきれたように、ロジェは言った。

「じゃあ、なおさらわからないじゃないか。」



「いや、それがそうでもないんだ。」

どこか、自信ありげなシルビオ。



「と、いうと?」

肩眉をあげ、興味ありげにロジェは答える。



「彼女がいなくなった後、残された荷物を探したんだ。そうしたら、実の母の肖像画があった。」



「それで?」



「王宮で会った彼女は、その母親にそっくりだった。」



「なんだって?」



「俺も、びっくりしたよ。だから、エレオノーラだろうと思ってしまったんだ」

「それは、可能性としては、かなり濃厚なんじゃないか。」



「だろう?だから、どうしても、もう一度会ってみたい」



「でも、記憶喪失らしいぞ。」



「本当にそうなんだろうか。彼女は俺を知っているようだった。」



「なんで、そう思うんだよ?」



「俺をみて、恐ろしいものを見たかのような表情で、後ずさりしたんだぞ」



「……お前の顔が怖かっただけじゃないのか?」



「……俺は、女に逃げられたことは一度もない。」



あきれたように、ロジェはため息をつき、

「奥さんには逃げられてるけどな。あ、スマン言い過ぎた」



シルビオは一瞬怯み、ため息をついた。

「……本当のことだからこそ、結構えぐられるな」



シルビオ自身、まさか、逃げられるとは思ってもみなかったのだ。

馬車の事故にあったとしても、なぜ、夜に一人で街を歩いていたのだろう。

もし、記憶が戻っていたのだとしたら、なぜあんなに恐れた表情をしたのだろう。



(知らない間に何かしていた?)



婚姻中も、あったことがほとんどないため予想もつかない。

皮肉なことに、行方不明になってからのほうが、エレオノーラのことを考えているかもしれない。



シルビオにしてみれば、婚姻中は、彼女の資産でなんとか家を建て直したのだから、正直合わせる顔がない、というのが正しい。幼い少女にどう接していいのかも見当がつかず、なにかと理由をつけて家に寄り付かなかったのだから致し方ないといえばそれまでだ。



「でも、記憶が戻っているなら、もうそっとしておいてやってもいいんじゃないのか」



「何故だ?」



「なぜって……お前……、好かれてると思っているのか?」

記憶が戻っていても、夫へ連絡がない、ということは……。



「……」

シルビオは何も答えられなかった。



「当時は、何もしてやれなかった。でも、今は違う」



「そうじゃなくて、なにかして欲しいなんて思ってないって話だよ。」



「……」



「資産もあって、器量よし。性格もいい。家柄も悪くない。健康で若い。よく考えてみろ、マイナスな要素ゼロなんだよ。」



「それがどうした」



「結婚したいと思えば、今や、だれだって望める立場だ。彼女が選ぶ立場なんだよ」



「俺、選ばれないのか……」

がっかりとうなだれた。



「まあ、無理じゃないか?もう、そこそこおっさんだしな」



「年上の魅力…」



「年上で無力の間違いだろ」

こういうときのロジェはまったく容赦ない。



「たしかに、俺は何もしてない。」



「彼女を喜ばせるようなことしたことある?小さくたってレディーだぞ、甘く見ちゃいけない」



「プレゼントもたいしてしてないな。ドレスも外出着の2着だけしか作っていなかった。」



「信じられないな、どんな、ケチな旦那だよ。宝石の一式から始まって、ドーンと別邸でもプレゼントしろよ。」



「…別邸…?」



「湖畔の見える避暑地でさ~、小さくてもしゃれた作りの別邸を贈るの、流行ってるらしいぞ」



シルビオは怪訝な顔を向け、

「それ、どこの話だよ。…しかも、別邸は愛人に送るものだろ?」



「あ、じゃあ、お前が、送られる立場か」



シルビオは言葉を失った。愛人程度ならしてやってもいい、と言われたらどうすればいいのか。ムキになって反論する。

「いや、でも婚姻はまだ無効になっていない!」



「その、法律で縛るのどうかと思うよ。そんなこと言われてうれしい?」



「た、確かに」と、たじろぐシルビオ。



「俺なら、法律より、愛で縛ってほしいね」

「うわ……」

なんという、甘くて痛々しい言葉だろうか。

冗談にしたって、質が悪い。



「エレオノーラちゃんも思ってるはずさ。もうすぐ、法律が彼女の味方をするしな。」



確かに、法律を持ち出したところで、不快感しかないだろう。それどころか、その法律に今度は足を取られそうだ。

「そうだな、3年だものな」



沈黙が流れた。

大通りに面した叔父の家の大きな窓からは、鳥のさえずりに混ざって、馬車の行き交う音がする。車輪の音が遠くから響いてきた。

シルビオは窓にもたれかかり、何とはなしにその様子を見ている。

(こんな馬車にエレオノーラは轢かれたというのか。……よく無事でいてくれた)

眉根を寄せ、苦し気にぎゅっと目をとじた。



紅茶を飲み終え、一息ついたロジェが、ある疑問をシルビオに投げかけた。

「ところで、お前、なんでそんなにエレオノーラちゃんに執着してるわけ?」



「そうだな、自分でも不思議だ。」



「もうさ、3年になるんだし、他のかわいこちゃんでもよくない?」



「それは、そうなんだが…」

言葉を濁した。



ロジェは相変わらず、残念なものでも見るような視線で、シルビオを見ている。

「お前、結構モテるの知ってる?」



「今は、噂のおかげで誰も寄り付かないよ。まあ、昔は、そこそこな。だが、お前ほどキャーキャー騒がれてないぞ」



「俺のキャーキャーはマスコット的なアレだよ。恋愛じゃないやつ」



「ああ」

「ああ、じゃやないよ、失礼な奴だな」

青騎士時代から、何度シルビオにつないでくれと言われたことか。噂のある、今ですら、それほど人気は落ち込んでないとロジェは見ている。



もちろん、エレオノーラが見つかれば、シルビオの社交界での評判は回復するだろう。しかし、事業家として成功している今、社交界にこだわる必要もないはずなのに、なぜかエレオノーラを探している。

「まあ、遺産も返したいしな。」

「義理堅いことで。」



それが本音ではないことは、ロジェにはすぐに分かった。



(じゃあ、なぜ…?)

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