見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 22 噂

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フレデリックからの命を受け、金髪巻き毛の騎士、ロラン・ラロックは、その日の午後には、ローゼンダールの地を踏んでいた。



「なんで、こんなことに…」

突然のことで、ロランは一人、ぶつぶつと文句を言っていた。



ローゼンダールの王都まで、馬を飛ばして4時間半。

タウンハウスが立ち並ぶ通りは、華やかなで、大きな街路樹がさわさわと揺れている。

公園の湖畔では、ピクニックだろうか、家族連れが楽しそうに過ごしている。



その平和な風景を横目に、姉の嫁ぎ先であるオーランド伯爵のタウンハウスを探す。

姉の嫁ぎ先など、めったに訪れることはない。

しかも、お伺いの手紙すら出せていないため、突然訪ねることになってしまったのだ。



「はあ……姉さん怒るかなあ…」

馬の上でがっくりとうなだれながら、姉の住む屋敷を探す。

ロランの姉、コレットはかなりしっかり者だ。ロランと同じく背は小さめだが、ハキハキと自分の意見を言い、怖いもの知らずなところがある。



「ここかあ…」

白い城壁に、レンガが埋め込まれた立派な門をたたく。木でできた扉から閂が外された音が響き、中へと通される。



オーランド伯爵家は由緒正しき騎士の家系である。

武門の家らしく、中には騎士がうろうろしている。

オーランド伯爵は、貴族の中では珍しく騎士団を持つことを許されている家だ。

タウンハウスの中にも、見習いの騎士や、従者など、様々な身分の者が行き交っていた。



「まあ、ロラン!あなたどうしたの?!」

突然のことに姉コレットは目を丸くして、ロランを迎える。



「あ…いや、どうしてるかな~と思って…」

任務の内容を言うわけにもいかず、言葉を濁す。



「来るなら、来るって、前もって伝えてくれればいいじゃない!」



(ですよね~、俺もそうしたかったよ……)



急に来るなんて!と半ば怒りながらも、久しぶりに会えた弟にコレットは嬉しそうだ。

使用人たちに、てきぱきと指示をだし、弟が滞在できるように準備を整える。



さすが、騎士団を有することを許されたほどの家柄だけあって、立派なお屋敷である。

ようやく準備が整ったのか、姉とともに、少し遅めの午後のお茶の準備がされた。



「それで?何かあったんでしょう?」



優雅にお茶をのみながら、弟の方をあっすぐに見た。

さすが、長年の付き合いである、姉のコレットにはお見通しのようだ。



「うん、まあ、ちょっとね。」

目線をそらして、どうしたものかと、ロランは困っていた。



「もう~、はっきりしないわね。」



「いや、あのさ、姉さんって、お茶会とか結構行くほう?」



「まあ…そうね、こちらに来てからは多いかしら」



「あー、じゃあさ、あのうーん、何て言ったらいいのかなー」



「なあに?何かあるの?」



「ヴェルティエ家の奥方様ってお会いしたことある?」



「……先代ならあるわよ」



「じゃあ。今の方は?」



「……行方不明だそうよ。」



「え!うそ?!」



「ほんとよ~!!」



そう言って、使用人たちをすべて下がらせ、さらに小さな声で話し始めた。



「実はね、変な噂ばかり聞こえてくるのよ、ヴェルティエ家。先代の借金を返すために相当苦労しているみたいだったの。それでね、年若い奥様をもらったらしいんだけど、その方は誰も見たことがないの!そのうち、その奥様を殺して庭に埋めているんじゃないかって噂が立ちはじめて……」



「え……それ、ほんとなの?」

(前も言ってたよな、どうしてそんなことになったんだ?)



「わからないわ、でも、“煙のないところに火はたたない”っていうじゃない。きっと、何かはあるのよ」



「何かって……?」



「だって、幼い奥様の受け継いだ遺産で借金返したのよ?円満な結婚生活なはずないじゃない!」



「その、奥様って……?」



「シュンドラー男爵家の一人娘のはずよ。結婚当初は”遺産のおまけ”令嬢ってかなり揶揄されていたわよ。」



「シュンドラー男爵って、あの……?」



「そう、あの、よ。触るものが触るものすべてが黄金に変わるっていう、ね。その遺産をすべて受け継いだのだから、彼女と結婚すれば大富豪よ~。」



「じゃあ、縁談も多かったんじゃない?」



「それがね、後妻に入った方が、いい方との縁談はすべて断っていたらしいのよ。」



「なんでまた?」



「妬みよ!後妻にしてみれば、自分には、少しの現金だけがのこされて、すべて娘に引き継がれたのだから面白くないわよ。それに、お嬢様は、前の奥様にそっくりで、美人になるだろうって噂されてたものだから、小さい時から縁談の話はひっきりなしだったみたいよ。」



「じゃあ、なんでヴェルティエ家と?」



「それがね、もともとは評判の悪いバルデ男爵との縁談が決まっていたみたい。でも、どうもお金の件で後シュンドラー男爵新夫人と揉めたらしいのよ。」



「え?なんのお金?」



「お嬢様の遺産をシュンドラー男爵新夫人と、バルデ男爵とで山分けするつもりが、できなくて、男爵がごねだしたみたい。」



「遺産って、山分けできるの?」



「それがね、シュンドラー男爵が遺産を相続するのは、結婚後って遺言を残してたらしいのよ。で、結婚して相続した途端、お嬢様から取り上げるつもりだったらしいわよ。」



「姉さん、く、詳しいね。」



「以前夜会で、バルデ男爵がそのことを言いふらしていたのよ。遺産は俺のものだー!って。シュンドラー家の悪口もね。」



「うわあ…そのバルデ男爵ってどんな人?」



「うーん、脂がのっていて、頭は寒々しい感じね。あと、若い女の子が大好物らしいわよ。」



「バルデ男爵って、確か60近いよね?」



「そうよ~!なのに、若い女の子を侍らして、鼻の下延ばしているわよ。同じ貴族と思いたくないわ、みっともないったら。それからね、カジノを経営しているんだけど、世間知らずの貴族の子息たちはかなりお金を巻き上げられているみたいよ。あ、あなたもカジノなんか行っちゃだめだからね!」



「わかってるよ」

急に、姉ら敷くふるまうコレットに苦笑いしながら、ロランは続けた。

「シュンドラー家のお嬢様は、バルデ男爵に嫁がなくてよかったんじゃない?なんでヴェルティエ家と?」



「よかったかどうかは、わからないわね、こんなことになっちゃあね。遺産の一部をシュンドラー新夫人に渡してくれれば嫁に行かせるっていう条件を飲んだのが、ヴェルティエ家だけだったんですって。本当に急な話だったわよ。シュンドラー男爵の遺産は、私のものだー!って、当時相当わめいていたわよ。」



「その、シュンドラー家の新夫人はどんな方なの?」



「そんなの、お察しでしょう?まあ、品のない方で、社交界でも評判悪いのよ」



「どう評判悪いの?」



「いつも、若い男を連れ歩いているし、その若い男に相当貢いでいるみたい。シュンドラー男爵にどうやって取り入ったのか、ほんと謎よ~」



「シュンドラー男爵ってどんな方だったの?」



「うーん、直接お会いしたことがないから何ともいえないけど、もとの奥様が亡くなるまでは、おしどり夫婦で有名だったらしいわよ。」



「おしどり夫婦?」



「そう、すごく仲良かったんですって。一人娘も相当かわいがっていたみたいよ。でも、奥様がお亡くなりになってから、体調も崩しがちで、変な女にひっかかったのね、きっと。」



「そうなんだ……」



「じゃあさ、シルビオ・ヴェルティエには、最近会ったことある?」



「ええ、もちろん」



「どんな感じ?」



「最近、頻繁に社交界にお出になってるわよ。新しい奥様を迎えるつもりじゃないかってもっぱらの噂だけどね。」



「そうなの?」



「奥様がいなくなってから、もうすぐ3年らしいのよ。3年経つと、申請すれば離婚が成立するからね、跡継ぎのこともあるでしょうし、よい方を探されているって噂はあるけどね……」



「けど……なんなの?」



「新しい奥さんなんか、見つかるはずないわよ、自分も殺されるんじゃないかって、思うもの」



「そりゃそうだ。やっぱり、殺したのかな?」



「うーん、どうかしらね。私には、そうは見えなかったけどね。口さがない方たちがいろいろ言うけど、そこまで悪い方でもないように思ったわ。」



「なんで?!」

これだけ悪いうわさがあるにも関わらず、どうして姉はシルビオの肩をもつのかわからないロランだった。



「だって、噂を否定しないのよ?普通、なにか後ろ暗いところがあれば必死で否定してまわるでしょう?何を言われても、黙って流すのよ。でね、なんで何も反論しないのか聞いてみたことがあるんだけれど」



「どうだった?」



「妻を探すために来ている。もし、妻が見つかって社交界に出ることになったら肩身の狭い思いをさせたくないので、振る舞いには気を付けているつもりだ、ってお答えになったのよ」



「えー?なんか、イメージと違わない?」



「そうでしょ?あれ?奥様を愛してらっしゃるのかな?と思ってそれも聞いてみたの。そしたらね……」



「そしたら?」



「幼すぎてわかりませんでした、でも、もし、もう一度会えたら、おしどり夫婦になりたいです、って臆面もなく言うのよ。……よくない?」



「それ、どういう“よくない?”だよ」



「だって、見た感じいい男よ。」



「顔?!」



「そう、男前はすべてを解決する!」

ロランは体の力が一気に抜けた。



「真剣に聞いて損したよ」

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