見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 36 エレオノーラの過去

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ここ最近、フレデリックはエレオノーラの周辺を探ることに忙しかった。



エレオノーラはローゼンダールだけではなく、リュトヴィッツにゆかりのある人間なのではないかという国王陛下の懸念があり、細かく調べる必要があったのだ。





そのため、エレオノーラの外出にずっと付き合うことが出来す、他の騎士や侍従に王宮内での護衛は任せていた。しかし、皆エレオノーラの存在に慣れつつあり、一人で出歩いていても警戒するものもおらず、自然な光景と受け止めていた。



(エレオノーラ様をひとりにするんじゃなかった)





フレデリックがエレオノーラのそばを離れている間に、シルビオが近づいてくるとは。



(森でのことと言い、剣の鍛錬の事と言い、どうにかして近づこうとしているのがバレバレだ。)





実は昨日、森での一件の後日、ロランが帰国していた。



ローゼンダールでの詳細をフレデリックに報告したため、フレデリックは慌てた。



(シュンドラー男爵の娘がエレオノーラ様?!しかもシルビオ・ヴェルティエと婚姻関係にある?)



驚くのも当然である。まだ、子供のような女の子が夫もあり、名の知れた実業家の娘なのだ。



よくまあ、だれにも探されずに今まで王宮にいたものである。



(本当に、偶然が重なってこの王宮に来ることになったのだろう。国王陛下の心配は杞憂に終わりそうだな)



フレデリックは、ほっと胸をなでおろすが、シルビオ・ヴェルティエとエレオノーラのことはどうしたものか、と考えてしまう。



本来なら、シルビオが夫とわかったため、早々に引き取ってもらえばいいだけの話である。

しかし、フレデリックの中では何か腑に落ちないものがあり、シルビオにエレオノーラを簡単に引き渡してはいけない気がしていた。



(シルビオ・ヴェルティエもなぜ自分が夫だと正体をすぐに明かさなかったんだ?)



彼の目的がわからないだけでなく、婚姻していた確たる証拠もまだないのだ。



(本当に夫だろうか……いや、そうだとしたらすぐに一緒に帰国するだろう、どういうことだ?



フレデリックにはどうも、シルビオの行動が不可解に思えた。



そして、なぜか、自分が不在の間に剣技の特別講師として騎士団に出入りしている。



(なぜ、いま王宮に入り込んでまで、エレオノーラ様と接触するんだ?)



目的はエレオノーラだろうが、このままにしておくわけにはいかない、と慌ただしく騎士団の鍛錬場へ向かったのだった。









走り去るエレオノーラの後を追ったのはフレデリックだった。



「エレオノーラ様!」



歩みを止めようと、王宮の回廊で大声を出す。



エレオノーラは振り返らず、黙って立ち止った。





立ち止ったまま、じっとしているエレオノーラに、声を掛けることが出来ず、フレデリックも黙ってじっと立つ。



「あのね、フレデリック。私、記憶がほとんど戻ったと思う。」



「そうなんですか、それはよかったじゃないですか」



フレデリックは、なんのことはない、という感じでわざと明るく言った。



「よくない」



たった一言、ぽつりと返す。



「どうしてですか?」



怒りなのか、エレオノーラの握った手は小刻みに震えていた。



「忘れていた方が幸せだったことまで、思い出したわ」



震えを止めようと、自分の手をぎゅっと握りしめて、



「私、私ね、結婚してた、夫がいたの」



一呼吸おいて、シルビオが答える。



「ずいぶん、小さいころに結婚されたのですね」



「事情があったのよ。資産だけはあったから、資産のおまけに私はもらわれたの。最初はそれでもよかった。でも、継母とあまり変わらなかった」



エレオノーラは幸せでない記憶がどんどんよみがえって、語尾が震えてしまう。



「たった一人で、着るものも、ご飯もなくて、毎日どうやって生きて行こうかと思ったわ、でも、外の世界を知らなかったから、生きていけると思わなかった」



フレデリックはじっとエレオノーラの話を聞いている。



「今思えば、雨風をしのげる家があって、眠るための布団もあってまだよかったのかも」



ふう、と一息つくと、エレオノーラは再び口を開いた。

「でも、あの日……」



「あの日?」

フレデリックが聞き返したが、それきりエレオノーラは黙ってしまった。



あの雪の日、シルビオは女性と二人で歩いていた。それも、親密な様子で。思い出した今、幼心に受けた衝撃は相当なものだっただろう。



(結婚していたことだけではなく、女性といたことも思い出してよかった。あの女性は、今どうしているのかしら…もしかして、もう一緒に住んでいたりする?)



その考えを打ち消すように、頭を振って、



(一緒に住んでいたからどうだというの?私には、もう関係ない!)



「アンナマリー様とここに来た日、私はシルビオ様を追いかけて雪の降る中、夜の街へ出て行ったのよ。彼は、街に愛人を囲っていると使用人が噂していたの。まさか、と思ったわ。でも、夜更けに出ていくシルビオ様を見て、確かめてみようと思ったの」



「それで、事故にあわれたのですね」

フレデリックは、穏やかにエレオノーラに答えた。



「そうね、彼が愛人と建物の中に消えていくのを見た直後だったと思うわ。ショックで、どこをどうやって歩いていたのかわからないほどだったから」



点でしかつながらなかった記憶が、今、すべてつながった。

じっと佇むエレオノーラを、フレデリックは部屋の扉を開け、そっとソファに座らせた。



しかし、疑問に残るのは、再び会ったシルビオはエレオノーラと親しい間柄のようにふるまっていたことだ。



(親しかったならまだしも、私と彼は書類上の夫婦というだけだった。ほとんど帰ってこなかったし、顔を合わせたのも数えられるほど。それなのに、あの態度はどういうことかしら)



もし、シルビオと初めて会ったのだとしたら、悪いようには思わなかっただろう。それどころか、好感が持てる態度といってもいいだろう。



しかし、だ。



(なぜ、今になって急に現れたのかしら)



エレオノーラの頭の中はシルビオのことで途端にいっぱいになった。
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