41 / 68
記憶喪失ですが、夫に復讐いたします 40 その夜
しおりを挟む
その晩、エレオノーラはなかなか寝付けなかった。
ベッドの中で、寝付けずゴロゴロと寝返りを打つ。王宮のベッドは広すぎて、豪華で軽いはずの掛布団が重たく感じる。
大きな大級の窓から、優しく月明かりが差し込む。見つめていると、余計に目が冴えてきてしまった。
シルビオ・ヴェルティエの妻だったこと、継母に売られるように家を出たこと、記憶が戻った頭の中は、記憶も気持ちもあふれ出てなかなか整頓できない。
寝付けないエレオノーラは、のそのそと起き上がり、ひざを抱えてベッドの上に小さくなって座った。
(以前は、部屋の隅で、温かい布団もなくこうやって小さくなっていたっけ)
この王宮に来るまで、満足な食べ物も、衣服もなく毎日ただ時間が過ぎるのをじっと待っていた。
(シルビオ様に連れ出された時は、嬉しかったな。お屋敷と離れるのは悲しかったけど、サンドラから助けてくれた王子様みたいだった)
あの暗い屋敷で、毎日この生活がいつ終わるのかと鬱々としていたところに、シルビオ・ヴェルティエと呼ばれる青年が突然やってきた。陽の光を浴びてきらきらと光る金髪が眉にかかり、グレーがかった切れ長の瞳は、冷静で知的な印象だった。長身の彼が歩くさまは堂々としていて、長い足を組み替える姿まで気品が感じられると思ったものだ。
颯爽と現れてエレオノーラを連れ去ったその姿は、今でもエレオノーラの脳裏に焼き付いている。思えば、あれは初恋だったのかもしれない。
継母が来た時も、シルビオ・ヴェルティエにもらわれていった時も、エレオノーラは父と母がいたときのようなあたたかな家庭を期待していた。しかし、二人とも、エレオノーラ自身には興味がなく、それどころか、物のように扱って屋敷に閉じ込めた。
(あの時、シルビオ様に見向きもされないショックで気持ちが折れてしまったんだわ。もう使用人に歯向かう気力もなかったわね……)
たった一人、知らない屋敷に閉じ込められ、自由を奪われた。
“兄のように思ってほしい”そう言っていた、直後、彼は屋敷に戻ってこないどころか、他の女性と遊び歩いていたのだ。
(結局、彼はお金が欲しかっただけ。なぜ、今になって私にかまうのよ)
忘れたまま生きられた方が、どれだけ楽だっただろう。
月明かりの下、エレオノーラは一人ため息をついた。
(明日の午後が憂鬱……)
ほとんど毎日剣技の授業が組まれている。なんとか断れないかと必死に考えたが、名案は浮かばない。
(ここで、剣技の授業を断ったら、リュシアン様に迷惑かけちゃうかな。あんなに、喜んで養女にしてくれる人を悲しませたくないわ。)
しかし、剣技の講師はシルビオというのは変わらないのである。変更を申し出たら、シルビオに何か問題があったのかと勘繰られるついでにシルビオとの関係まで探られそうでそれもできない。できるだけ波風はたてたくない。婚姻関係がどうなっているかわからない今、周りに知られるのは極力避けたい。
(あんなふうに言った手前、顔、出しづらいなあ…)
ああ、と大きなため息をエレオノーラはついた。
もうかかわらないでほしい、というのは正直な気持ちだ、しかし、かかわらずにいられない事情もあり、どうしたものかと考えあぐねていた。
(せめてアンナマリー様かフレデリックが同席してくれたら……いや、もう彼らに甘えちゃダメだわ。記憶も戻ったのだししっかりしないと)
アンナマリーは、上級者のため早朝に騎士団の騎士たちとともに訓練に入っている。フレデリックも早朝に鍛錬を、というより指導をするためにいるようだ。
「ああ……」
先ほどからため息が止まらす、憂鬱な気分のまま、朝を迎えることとなった。
ベッドの中で、寝付けずゴロゴロと寝返りを打つ。王宮のベッドは広すぎて、豪華で軽いはずの掛布団が重たく感じる。
大きな大級の窓から、優しく月明かりが差し込む。見つめていると、余計に目が冴えてきてしまった。
シルビオ・ヴェルティエの妻だったこと、継母に売られるように家を出たこと、記憶が戻った頭の中は、記憶も気持ちもあふれ出てなかなか整頓できない。
寝付けないエレオノーラは、のそのそと起き上がり、ひざを抱えてベッドの上に小さくなって座った。
(以前は、部屋の隅で、温かい布団もなくこうやって小さくなっていたっけ)
この王宮に来るまで、満足な食べ物も、衣服もなく毎日ただ時間が過ぎるのをじっと待っていた。
(シルビオ様に連れ出された時は、嬉しかったな。お屋敷と離れるのは悲しかったけど、サンドラから助けてくれた王子様みたいだった)
あの暗い屋敷で、毎日この生活がいつ終わるのかと鬱々としていたところに、シルビオ・ヴェルティエと呼ばれる青年が突然やってきた。陽の光を浴びてきらきらと光る金髪が眉にかかり、グレーがかった切れ長の瞳は、冷静で知的な印象だった。長身の彼が歩くさまは堂々としていて、長い足を組み替える姿まで気品が感じられると思ったものだ。
颯爽と現れてエレオノーラを連れ去ったその姿は、今でもエレオノーラの脳裏に焼き付いている。思えば、あれは初恋だったのかもしれない。
継母が来た時も、シルビオ・ヴェルティエにもらわれていった時も、エレオノーラは父と母がいたときのようなあたたかな家庭を期待していた。しかし、二人とも、エレオノーラ自身には興味がなく、それどころか、物のように扱って屋敷に閉じ込めた。
(あの時、シルビオ様に見向きもされないショックで気持ちが折れてしまったんだわ。もう使用人に歯向かう気力もなかったわね……)
たった一人、知らない屋敷に閉じ込められ、自由を奪われた。
“兄のように思ってほしい”そう言っていた、直後、彼は屋敷に戻ってこないどころか、他の女性と遊び歩いていたのだ。
(結局、彼はお金が欲しかっただけ。なぜ、今になって私にかまうのよ)
忘れたまま生きられた方が、どれだけ楽だっただろう。
月明かりの下、エレオノーラは一人ため息をついた。
(明日の午後が憂鬱……)
ほとんど毎日剣技の授業が組まれている。なんとか断れないかと必死に考えたが、名案は浮かばない。
(ここで、剣技の授業を断ったら、リュシアン様に迷惑かけちゃうかな。あんなに、喜んで養女にしてくれる人を悲しませたくないわ。)
しかし、剣技の講師はシルビオというのは変わらないのである。変更を申し出たら、シルビオに何か問題があったのかと勘繰られるついでにシルビオとの関係まで探られそうでそれもできない。できるだけ波風はたてたくない。婚姻関係がどうなっているかわからない今、周りに知られるのは極力避けたい。
(あんなふうに言った手前、顔、出しづらいなあ…)
ああ、と大きなため息をエレオノーラはついた。
もうかかわらないでほしい、というのは正直な気持ちだ、しかし、かかわらずにいられない事情もあり、どうしたものかと考えあぐねていた。
(せめてアンナマリー様かフレデリックが同席してくれたら……いや、もう彼らに甘えちゃダメだわ。記憶も戻ったのだししっかりしないと)
アンナマリーは、上級者のため早朝に騎士団の騎士たちとともに訓練に入っている。フレデリックも早朝に鍛錬を、というより指導をするためにいるようだ。
「ああ……」
先ほどからため息が止まらす、憂鬱な気分のまま、朝を迎えることとなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
61
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる