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二人の胸中
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リュシアンとシルビオが話していると、若い王宮調合師が飛び込んできた。
「室長!ここにいらっしゃったのですね?!探しましたよ!一緒に来てください!」
若い調合師は有無を言わさずリュシアンの腕をつかみ連れて行く。王族とは思えない連行のされ方だ。
「いや、あの……」
リュシアンはエレオノーラのそばについているつもりだったようだが、そうもいかないらしい。
「自分が見ていますから、大丈夫ですよ」
シルビオがそう言うと、リュシアンは困ったようにシルビオと若い調合師の顔をきょろきょろを見比べ、
「じゃ、じゃあお願いしようかな?」
「はい、起きたらちゃんと送り届けますからご安心ください」
シルビオがそういうと、リュシアンは、困ったように微笑み、ひらひらを手を振ってこたえ、若い調合師に連れていかれてしまった。
先ほどとは違い、エレオノーラは穏やかに寝息を立てている。顔色もずいぶんよくなったようだ。きめの細かい肌に、花弁のような唇、その間から吐息が漏れる。金色の長い髪はほどけ、ベッドの向こう側へ流れている。
シルビオは握られていた袖口をそっと外し、布団の中へ入れてやった。規則正しく胸は上下し、よく眠っているようだ。
(幼い頃の面影がある)
花びらのような唇からはいつも拒絶の言葉しか出てこない。しかし、物言わぬ寝顔はあどけなく、愛らしさがあふれている。
夢でも見ているのか時々、眉間にしわを寄せて何事か言っている。
(かわいらしいな)
シルビオはふっと優しく微笑み、エレオノーラを見た。
すると、エレオノーラが首を動かした拍子に、長い髪がベッドサイドにさらりと落ちた。
その髪をすくいあげ、シルビオは、なだめるようにエレオノーラの何度か頭をなでる。吸い寄せられるように頬に触れ、艶やかな唇をそっと指で撫でた。
「……ん……」
唇に触れた途端、エレオノーラの口から吐息が漏れる。
「……っ!」
シルビオは驚いてとっさに手をひっこめる。緊張で固まる。なぜ、こんなことをしたのか、シルビオは自分でも驚いていた。
(いやいや、何をやっているんだ、俺は!)
妙な汗が一気に噴き出す。心臓は大きな音を立て、脈打っている。
(落ち着け、落ち着くんだ)
必死に自分に言い聞かせる。
エレオノーラと再会してからというもの、彼女のことばかり考えてしまう。拒否されているというのはよくわかっているし、自分が過去に彼女を苦しめたのも十分理解しているが、それとは別に、ただ彼女のそばにいたい、ただ、彼女の声を聴きたい、ただ、彼女に触れたい、そう思っている気持ちが、思わず行動になってしまった。
一方、エレオノーラはというと、
(め、目が覚めてしまったけど、起きるタイミングがわからない……!)
とっくに目が覚めていた。
頭をなでる感触に気づいた。自分にこんなことをする人物に心当たりがない。緊張したまま、目を閉じ、じっと様子を伺っていた。
意を決して、そっと薄眼で見ると、
(し、シルビオ様!!)
意外な人物でびっくりした。てっきり、リュシアンが子供のようによしよしとなでてくれているのかと思っていたというのに。
すると、シルビオは頭をなで、髪の毛を何度もさらさらともてあそびはじめた。ふっと柔らかい吐息を洩らすと、そっと頬に触れ、唇へと……
(え?え?!何してるの?)
「……んぅ?!……」
(し、しまった!声がもれちゃった!)
エレオノーラの心臓は早鐘を打つ。
(き、気づかれたらどうしよう)
シルビオはエレオノーラに触れるのをやめ、ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
「……まだ、子供だ」
そう言って、慌てて彼は部屋を出たようだった。
エレオノーラは部屋の様子を薄眼でそっと伺っていた。
誰もいないようなので、おそるおそる目を開けた。
部屋の中は、しん、と静まり返り、人のいる気配はまるでない。
シルビオは、やはり先ほど部屋を出たようだった。
(い、今のなに?!)
エレオノーラの心臓はまだ早く、先ほどの余韻をのこしていた。
しかし、気になる一言もあった。去り際のあの一言だ。
(まだ子供だってどういうことよ!今は、もういい年なんですけど!いつまで子ども扱いする気なのかしら!?)
ふつふつと怒りが沸き上がる。シルビオの言葉など、気に留める必要はない、と頭ではわかっていても、シルビオに認められたい、大切にされたい、自分を求めてほしい……そんな思いが複雑に絡まりあい、怒りとなって沸き上がる。
(いやいや、何それ?そんなことない、ない!シルビオ様とはもう関係がないんだから、気にしなくていいのよ)
そうは思っていても、なぜか沸き上がるイライラを止めることはできなかった。
(しょうがない、目が覚めたし、もう勝手に戻ろうっと)
イライラする気持ちを吹っ切るように思い切ってベッドから起き上がると、掛布団を簡単にはめくれない重さを感じた。そこにはシルビオの上着がかけられている。
(どうりで重いと思った!)
シルビオの着ていた上着は、しっかりとした厚地の生地で作られており、黒くマットな生地は高級感がある。そして袖口には金の縁取りがしてあり、裏地も凝った柄が入っている。
(うわ、高級そう……)
手に持つと、ずっしりと重厚感があった。
(ここに置いておくわけにもいかないわね)
仕方なく、エレオノーラは騎士団の詰め所にでも預けておこうと、上着を抱えて部屋をでた。
するとそこには、ドアのすぐそばに、壁にもたれて顔を右手で覆い、うなだれるシルビオの姿があった。
「な、どうされたのですか?」
エレオノーラは驚いて、思わず声を掛けた。
「あ、ああ。もう大丈夫なのか?」
声を掛けられてシルビオは初めて、エレオノーラが部屋から出てきたことに気づいた。
「はい!もう問題ありません。」
「そうか、ゆっくり休むといい」
気が抜けたようにシルビオは答えた。
シルビオの姿を見ると、先ほどの“子供”発言がよみがえって、イライラした気持ちがよみがえってきた。
「ええ、そうします、まだ子供なのでたっぷり寝ないと背が伸びませんからね!」
少し怒ったような笑顔でそう答えると、エレオノーラは勢いよく上着をシルビオの胸のあたりに押し付け、足早に去っていった。
「……なんだ……?」
普段と違い、地面を踏み鳴らすように、勢いよく歩いていくエレオノーラの後ろ姿を見送って、シルビオは不思議に思った。
(何か起こっているような……?……はっ!まさか聞かれていた?!どこから?いや、でも……)
シルビオは頭の中がまとまらないまま、混乱とともにその場に立ち尽くすのだった。
「室長!ここにいらっしゃったのですね?!探しましたよ!一緒に来てください!」
若い調合師は有無を言わさずリュシアンの腕をつかみ連れて行く。王族とは思えない連行のされ方だ。
「いや、あの……」
リュシアンはエレオノーラのそばについているつもりだったようだが、そうもいかないらしい。
「自分が見ていますから、大丈夫ですよ」
シルビオがそう言うと、リュシアンは困ったようにシルビオと若い調合師の顔をきょろきょろを見比べ、
「じゃ、じゃあお願いしようかな?」
「はい、起きたらちゃんと送り届けますからご安心ください」
シルビオがそういうと、リュシアンは、困ったように微笑み、ひらひらを手を振ってこたえ、若い調合師に連れていかれてしまった。
先ほどとは違い、エレオノーラは穏やかに寝息を立てている。顔色もずいぶんよくなったようだ。きめの細かい肌に、花弁のような唇、その間から吐息が漏れる。金色の長い髪はほどけ、ベッドの向こう側へ流れている。
シルビオは握られていた袖口をそっと外し、布団の中へ入れてやった。規則正しく胸は上下し、よく眠っているようだ。
(幼い頃の面影がある)
花びらのような唇からはいつも拒絶の言葉しか出てこない。しかし、物言わぬ寝顔はあどけなく、愛らしさがあふれている。
夢でも見ているのか時々、眉間にしわを寄せて何事か言っている。
(かわいらしいな)
シルビオはふっと優しく微笑み、エレオノーラを見た。
すると、エレオノーラが首を動かした拍子に、長い髪がベッドサイドにさらりと落ちた。
その髪をすくいあげ、シルビオは、なだめるようにエレオノーラの何度か頭をなでる。吸い寄せられるように頬に触れ、艶やかな唇をそっと指で撫でた。
「……ん……」
唇に触れた途端、エレオノーラの口から吐息が漏れる。
「……っ!」
シルビオは驚いてとっさに手をひっこめる。緊張で固まる。なぜ、こんなことをしたのか、シルビオは自分でも驚いていた。
(いやいや、何をやっているんだ、俺は!)
妙な汗が一気に噴き出す。心臓は大きな音を立て、脈打っている。
(落ち着け、落ち着くんだ)
必死に自分に言い聞かせる。
エレオノーラと再会してからというもの、彼女のことばかり考えてしまう。拒否されているというのはよくわかっているし、自分が過去に彼女を苦しめたのも十分理解しているが、それとは別に、ただ彼女のそばにいたい、ただ、彼女の声を聴きたい、ただ、彼女に触れたい、そう思っている気持ちが、思わず行動になってしまった。
一方、エレオノーラはというと、
(め、目が覚めてしまったけど、起きるタイミングがわからない……!)
とっくに目が覚めていた。
頭をなでる感触に気づいた。自分にこんなことをする人物に心当たりがない。緊張したまま、目を閉じ、じっと様子を伺っていた。
意を決して、そっと薄眼で見ると、
(し、シルビオ様!!)
意外な人物でびっくりした。てっきり、リュシアンが子供のようによしよしとなでてくれているのかと思っていたというのに。
すると、シルビオは頭をなで、髪の毛を何度もさらさらともてあそびはじめた。ふっと柔らかい吐息を洩らすと、そっと頬に触れ、唇へと……
(え?え?!何してるの?)
「……んぅ?!……」
(し、しまった!声がもれちゃった!)
エレオノーラの心臓は早鐘を打つ。
(き、気づかれたらどうしよう)
シルビオはエレオノーラに触れるのをやめ、ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
「……まだ、子供だ」
そう言って、慌てて彼は部屋を出たようだった。
エレオノーラは部屋の様子を薄眼でそっと伺っていた。
誰もいないようなので、おそるおそる目を開けた。
部屋の中は、しん、と静まり返り、人のいる気配はまるでない。
シルビオは、やはり先ほど部屋を出たようだった。
(い、今のなに?!)
エレオノーラの心臓はまだ早く、先ほどの余韻をのこしていた。
しかし、気になる一言もあった。去り際のあの一言だ。
(まだ子供だってどういうことよ!今は、もういい年なんですけど!いつまで子ども扱いする気なのかしら!?)
ふつふつと怒りが沸き上がる。シルビオの言葉など、気に留める必要はない、と頭ではわかっていても、シルビオに認められたい、大切にされたい、自分を求めてほしい……そんな思いが複雑に絡まりあい、怒りとなって沸き上がる。
(いやいや、何それ?そんなことない、ない!シルビオ様とはもう関係がないんだから、気にしなくていいのよ)
そうは思っていても、なぜか沸き上がるイライラを止めることはできなかった。
(しょうがない、目が覚めたし、もう勝手に戻ろうっと)
イライラする気持ちを吹っ切るように思い切ってベッドから起き上がると、掛布団を簡単にはめくれない重さを感じた。そこにはシルビオの上着がかけられている。
(どうりで重いと思った!)
シルビオの着ていた上着は、しっかりとした厚地の生地で作られており、黒くマットな生地は高級感がある。そして袖口には金の縁取りがしてあり、裏地も凝った柄が入っている。
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「な、どうされたのですか?」
エレオノーラは驚いて、思わず声を掛けた。
「あ、ああ。もう大丈夫なのか?」
声を掛けられてシルビオは初めて、エレオノーラが部屋から出てきたことに気づいた。
「はい!もう問題ありません。」
「そうか、ゆっくり休むといい」
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シルビオの姿を見ると、先ほどの“子供”発言がよみがえって、イライラした気持ちがよみがえってきた。
「ええ、そうします、まだ子供なのでたっぷり寝ないと背が伸びませんからね!」
少し怒ったような笑顔でそう答えると、エレオノーラは勢いよく上着をシルビオの胸のあたりに押し付け、足早に去っていった。
「……なんだ……?」
普段と違い、地面を踏み鳴らすように、勢いよく歩いていくエレオノーラの後ろ姿を見送って、シルビオは不思議に思った。
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