見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

文字の大きさ
48 / 68

エレオノーラの気持ち

しおりを挟む
立ち尽くしているシルビオを、通りがかったロジェがみつけた。



ロジェは今日の書類仕事が終わり、次の業務へと向かう途中に通りがかったのだ。

「おい、おーい」

シルビオの目の前で手を数度振る。はっとして、シルビオは目の前の人物をみた。



「ロジェ、お前、何をやっているんだ」

急に、冷静になるシルビオ。自分がどんな顔で立ち尽くしているのか自覚がないらしい。



「それはこっちのセリフだよ。魂が抜けたような顔して、どうしたんだ。もう、話は終わったのか?」



「ああ……」

心ここにあらずと言った風情のシルビオ。



「エレオノーラちゃんは?」

ロジェはシルビオの様子にがおかしいことを不思議に思いながら尋ねる。



「どこかへいった」

まだ、上の空のシルビオがぼんやりと答えた。



「はあ?」

多少の不快感をにじませるロジェ。



「怒らせた……のか?」



「またお前何かやったのか?」

(エレオノーラちゃんのこととなると、ほんとポンコツだなあ。残念な奴め)

ここまで徹底していると、不快を通り越してかわいそうになる。



「何も、いや、何もってことはないが……」

シルビオは自分がエレオノーラにしたことを思い返して、後悔と戸惑いが頭の中を駆け巡っていた。



「お前なあ……リュシアン様はどうした?」」

「調合室に呼ばれたようだった」



「じゃあ、エレオノーラちゃん、一人で行っちゃったのか?」

ロジェは驚いたように言った。調子が悪いだろうに、一人で行かせるとは。



「ああ」

「途中で倒れたらどうするんだよ」

「それもそうか」

「もう、早く行け!」

じれったそうに、シルビオを急かした。

「ああ」

表情が抜け落ちたまま、ロジェに促されエレオノーラを探し、歩き始めるシルビオだった。





エレオノーラは、イライラした気分のまま回廊を勢いよく歩いた。

気持ちが落ち着かないまま、自室へと向かう。

途中、いくつもの庭園がある。王宮の庭園はよく手入れされていて美しい。

エレオノーラはふと足を止めて、王族の居住スペース手前の大きな庭園へと足を踏み入れた。ここには、いつでもバラが今を盛りにと咲き誇っている。その香りを楽しみながら奥へ奥へと進んだ。



そこには小さく広がった芝生の広場があり、バラの花園の中、そこだけ小さくぽっかり空いていた。エレオノーラは、ちょうどよい、とばかりにそこに腰をおろした。

夕暮れが迫る。だんだんと日が傾き、茂ったバラが長く影を作り始めた。少し肌寒さを感じるが、それでも、イライラした気分のまま自室へ戻りたくなかった。



(ちょっと落ち着いてから帰ろう)

ゴロンと横になって、ぼーっと空を見上げる。



(シルビオ様、どうしてあんなことをしたんだろう)

エレオノーラはシルビオの行動を思い返してみた。



(愛おしそうに、頭をなで、髪をもてあそんだかと思えば、頬や唇を……)

思い返しただけで、赤面してしまう。何を思ってシルビオはそんなことをしたのか。



(誰にでもあんなことをするのかしら?そんなタイプに思えなかったけど……)

数日、接しただけだがお世辞にも社交辞令が上手なタイプではなさそうだった。気の利いたことを言えるようには思えない。



(どちらかというと、言葉が足りなくて、誤解されるタイプ、だよね)



はあ、とため息をついて、思い返すと、そのあとのシルビオの一言もおもいだしてしまった。

(子供だって言っていたから、寝ている子供にするような感じだったのよね、たぶん)

すやすやと眠る子供の寝顔はかわいらしい。思わず触れたくなってしまう気持ちもわからないでもない。



(完全に子ども扱いか。なんかそれも腹が立つなあ)

シルビオと出会ったときは、確かに子供だった。しかし、今はずいぶん成長したつもりだ。



(シルビオ様にとっては子供のままなのかな)

どれだけ成長しても、彼にとっては子供にしか思えないのだろうか、エレオノーラの心の中に一瞬の切なさが吹き込む。



(いやいや、別にそれでもいいのよ。全然問題ないじゃない。魅力的な女性に映りたいわけじゃないの、何を考えているの、私は!)



自分の考えを打ち消すように、頭を振った。

ふと、シルビオと歩いていた女性の姿が思い浮かんだ。エレオノーラの胸の奥がずしりと重くなる。



(そう、あのことを思い出してしまう。彼には、もう大切な女性がいるのよ、きっとずっと思いだしてしまう)

エレオノーラは思い出して、自分の未熟さや無力さを何度も痛感したくないのだ。



(シルビオと様とはもう関係がない、ただ剣の師弟というだけ。それもアカデミーに入ってしまえば切れる関係よ。アカデミー入学前に離縁状を渡しておけば、もうそれで終わり)



自分の気持ちにも、区切りをつけようとしているエレオノーラだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...