見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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アンナマリーの立太子

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謁見の間で、陛下が入ってくるまで、アンナマリーは貴族の礼でまつ。



「アンナマリーよ、何事か」



やや遅れて、国王の椅子に掛け、言葉を掛けた。



「国王陛下、お目通り叶い…」



アンナマリーが優雅なカーテシーとともに口上を述べようとすると、



「口上はよい、用件を」



「はい。ご相談があってまいりました」



国王陛下が座る椅子から、三段ほど下で、アンナマリーは彼を見上げて話す。



今、二人は親子ではなく主君と臣下だ。



「ふむ、なにかな」



国王陛下はまったく見当もつかず、顎に手をやる。



「立太子についてです」



アンナマリーがそういうと、意外なことに国王陛下は眉根を下げてほほ笑んだ。



「ほお、立太子か」



「アカデミーの入学が迫っています。その前に立太子の儀を行うのが通例のはず。日取りなど、国王陛下はどのようにお考えかと」



緊張した面持ちでアンナマリーは続けた。正面切って話せばなんとかなるというアンナマリーの若さゆえ、謁見という形になったのだろう。



「立太子については、今のところ予定しておらぬ」



それを受け、国王陛下もはっきりと答える。



「なぜです?」



「アンナマリー、なぜそう立太子を急ぐ?」



「それは……」



理由は一人前の身分が欲しい、ただそれだけだ。ただの王女では今後につながる人脈が作れないかもしれない、という不安からだ。しかし、子供っぽい理由かもしれない、と口にすることが出来ない。



「お前は女の身だ。国王となった後、王配となる人物を探すのも難しかろう。アカデミーを卒業し、王配候補が決まったら、結婚と同時に立太子を行うほうがよいだろう」



父が言うことも一理ある。そう思った瞬間、アンナマリーの決心は揺らいだ。



「でも……」



一度揺らいでしまった決心をなんとか、立て直そうとするが、追い打ちをかけるように国王陛下は情で訴える。



「親心だよ、アンナマリー、そう急ぐことはない」



「では、最後に一つだけ。フラワーエメラルドを一度拝見したいのです、いつか見せていただくことは可能ですか?」



「そうだな、お前が立太子の時に見られることだろう。」



「……」



これ以上の問答は無用だ。さすが一国の主、まったく表情は変わらない。



しぶしぶアンナマリーは引きさがった。



(フラワーエメラルドが本当にあるかどうか、確かめなければ)



すぐにアンナマリーはある人物のもとへ向かった。





王室調合室。



「リュシアンおじさまはいるかしら?」



調合師たちは皆一様に手を止め、貴族の礼をとる。



「ああ、いいのよ、楽にしてちょうだい。」



一人が頭をあげ、答えた。



「リュシアン様は、今騎士団の方に行かれています」



「騎士団?めずらしいわね、どうされたのかしら。」



「呼んできましょうか?」



「お願いするわ」



アンナマリーはそういうと、王宮調合室の、室長部屋へ案内された。所せましと置かれた香りについての本の数々、香料なのか、小さな小瓶にはいった液体は粉状のものもたくさん置かれていた。



大きな窓から、温かい日差しが差し込む。その小瓶たちは陽の光を受けてきらきらと輝いている。



なんとなく、一つの本を手に取り、中を開いてみると、この国の、香りの歴史の本だった。



(おじさまが執筆されたのよね。この国で特産のバラを量産し、香水を観光名産にまでしたのはリュシアン叔父様だものね。本当にすごい方だわ)



ページをめくると、一番最後のページに姿絵があった。女性の姿絵だ。



“バラの普及に尽力したある方に捧ぐ”



そこには、このような一文が添えられていた。



その女性は、昔風の衣装ではあったが、バラ畑でバラの手入れをしている。



その姿を見て、アンナマリーの心臓は大きく脈打った。



(……ど、どういうこと?)



そこには、エレオノーラそっくりの女性が、描かれていた。



アンナマリーの心臓は落ち着かない。



(だ、誰?エレオノーラ、ではないわよね)





そこへ、慌ててリュシアンが戻ってきた。



「ごめんね、アンナマリー様。待たせたかな?」



ニコニコしながら、リュシアンはアンナマリーを見た。



アンナマリーは、まるで幽霊を見たかのように真っ青な顔をしている。



「ど、どうしたの?何かあった?」



「な、なんでもないわ。ちょっと聞きたいことがあってきたの。でも、またにする!」



逃げるようにアンナマリーはその場を去った。





(怖くて何も聞けなかった。)



この国のことは何でも知っていると思っていた。でも、自分の知らない世界のようで急に怖くなったのだ。



フラワーエメラルドのことも、エレオノーラそっくりの女性のことも、自分の立太子のことも、気にかかることはたくさんあるが、何一つはっきりしない。



アンナマリーは大きなため息とともに自室に戻るしかなかった。
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