見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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王宮の薔薇園1

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シルビオは重い足取りで、エレオノーラを探し回廊を歩いていた。



歩きながら心当たりを探すが、エレオノーラの姿は一向に見当たらない。



(もう自室へもどったのかもしれないな)



無事自室へ戻ってくれていればそれでいい。今は合わせる顔がない。





回廊を抜けると、王族の居住区域手前に庭園がある。そこでガサガサと不自然に揺れるバラの生け垣があった。



(なんだ?)



不審に思い、揺れるバラの生け垣を注意深く奥へ進む。そこで小さな芝生の広場に寝そべるエレオノーラを見つけた。



(……!なんでこんなところに、エレオノーラが……)



幸い、エレオノーラはシルビオに気づいていない。

シルビオはとっさにバラの生け垣に身を隠した。生け垣の隙間から、様子を伺う。



(な、何をしているんだ俺は、このまま立ち去ればいいんだ。いや、声を掛けて部屋へ連れていけばいいのか、いや、どうしたら?!)



エレオノーラの姿を見つけ、すでに冷静さを欠いている。



そもそも、エレオノーラを探しに来たはずなのに、先ほどの余韻がまだ残っていて、とても冷静ではいられなかった。



当のエレオノーラの方は、ゴロゴロと寝返りをうったり、身を縮めて小さくなったりと忙しい。シルビオはいけないと思いつつ、目を離すことが出来なかった。



シルビオは、思わず片手で顔を覆い俯うつむいた。

頭の中の混乱がどこか遠くへ飛び去るくらい、エレオノーラの姿が愛らしい。



(いやいや、”愛らしい”ってなんだ!)

シルビオにとっては、離婚前提の”ただの子供”のはずだ。



(ああ、子犬とか、子猫とか、ずっと見ていられるあの感覚だ、多分)

シルビオは、自分で自分に言い訳をしつつ、エレオノーラから目が離せない。



エレオノーラは、眉をしかめて難しい顔をしたと思ったら、力を抜いて空を見上げたり、ため息をついたりしている。



(何を考えている?)



まさか、自分のことを考えているとは思いもよらない。



エレオノーラ相手だと、まるで十代の少年のようにもどかしく気持ちがコントロールできない。

こんな気持ちになったのは初めてかもしれない。



それなりに女性と付き合いもしたし、中には将来を考えた相手も、いないわけではなかった。しかし、こんなにも相手の一挙手一投足が気になり、どうしようもなく触れたい、そばにいたいと思ったことはなかった。



いつも、頭の中は冷静で、求められるまま応じるだけ、それ以上のことはなかった。

公爵として、いつかは家庭を持たなければならないという自覚もあった。

条件のよい女性と親しくなれればよい、としか考えていなかった。



適当に遊んで、面倒になれば別れる、の繰り返し。

誰だって花や贈り物をすれば喜んだし、何も気の利いたことを言わなくても、女たちが途切れることはなかった。



シルビオにとっては攻略し甲斐のない、チェスのようなものだ。



しかし、借金まみれになって困窮したとき、そんな女たちは引く波のように、一斉にいなくなった。それは、彼を大いに失望させた。



(俺ではなく地位や財産を見ていたとわかってはいたんだ。彼女らは、俺でなくてもいいとわかっていて、俺も都合よく付き合っていただけだ)



エレオノーラは出会った当時から、何も言わなかった。ただ、幼くて小さな彼女が、寂しさから、家族としてシルビオを求めているのはわかっていた。

それは、傷ついた当時のシルビオにとっては一筋の光でもあった。



しかし、若いシルビオは幼くて奇妙な姿のエレオノーラをどう相手をしてよいのかわからず、何かと理由をつけては家を空けてばかりいた。



(今思えば、なんと未熟だったのだろうな、今さらながら自分が情けない)



自分を求めていた時には、知らぬふりをして、必要ないと言われてから追いすがっている。





「あーあ……」

エレオノーラは寝そべったまま、ため息が止まらなかった。



(時々、無性に寂しくなる。私の事を知っている人はシルビオ様だけ。お父様とお母さまが生きていたら、どんなに良かったかしら)



もし、父と母が生きていればシルビオと出会うこともなかっただろう。

失ったものが多すぎて、傷ついていたあの頃、シルビオにすべてを求めていた健気で幼い自分は裏切られた気持ちでいっぱいだった。



(嘆いてもしかたない。よくしてくれる人もたくさんいるじゃない)



自分に言い聞かせるが、ふと弱った瞬間、凍り付くような孤独が押し寄せてくる。



行きどころのない気持ちが、エレオノーラの中であふれてくる。



「……っ……」



夕暮れのせいだろうか、うるんだ瞳から一筋のしずくが零れ落ちる。

肩を震わせ、必死で声を押さえるが、我慢すればするほど涙はあふれる。



袖口で涙をぬぐっても、ぬぐっても間に合わない。

紫の大きな瞳から、ぽろぽろと一つまた一つと青磁のような肌にしずくが零れ落ちた。

まつげはしたたり、夕暮れの光に透けて、きらきらと輝く。



(夕暮れのせい、きっとそう!どこか、元気の出るところへ寄り道して帰ろうかな)



とにかく、気分を変えることを考えていた時、不意に目の前の生け垣が揺れたかと思うと、突然シルビオが現れた。



シルビオは、ばつが悪そうに頭をポリポリとかいて顔を背けながら、ゆっくりと近づいてきた。

「……大丈夫か?」

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