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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや

1.避けるのは何故?

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気まずい……

カチャカチャ食器の立てる小さな音のみが響く部屋。フォークに掬ったオムレツ(っぽい)を口に運びながら、ちらっと上目にカイザーを見る。
黙って黙々と朝食を口に運ぶカイザーに、特に変わったとこはないが、何となく話しかけにくい空気を感じて、滅茶苦茶、場が重い。
結局、あのベッドで朝まで眠りこけたらしく、声をかけに来た執事さんに起こされるまで、一度も起きなかった。
カイザーの寝室だと知ったのはその時で、安堵すると同時に内心焦った。
寝台に居たのは俺とシュラインだけ。他の誰かが眠った形跡はなく、首を捻った。

カイザーはどうしたんだろ?どこで寝たんだろ?

念の為、俺は自分が宛てがわれた部屋に戻って見てみたが、そちらの寝台は使われた形跡がなかった。
パンをちぎり口に運びながら、またまたちらっと見るが、カイザーとは視線が合わないまま。
ふうっと、溜め息が出る。

「お口に合いませんか?貴人様」
「へ?あ!いや、違うッ、違います、から!えっ、と、美味しいです!大丈夫!!」

執事さんが心配そうに声をかけてきて、思わず慌てふためく。
ご飯時に溜め息はマズかった。

「マヒロ。食事が終わったら、部屋へ行くぞ」
「え?あ、あぁ、うん」

ようやく口を開いたが、やはり視線を合わせようとしないカイザーに、訝りながらも俺はとりあえず返事をした。

            *
            *
            *

ソファに座った俺の前に丸い透明な石、それを取り囲む六つの小さな、それも透明な石が置かれる。

「これは?」
「魔導の属性と量を測るための魔導具だ」
「魔導……」

昨日言ってた、六大属性がなんとかいうやつか……

「測ったことは?」
「ない……と、思う」

誤魔化して答えたが、生まれてこの方、んなものは測った事なんざない。元々、そういったものとは無縁に生きてきたし、言えないが、この世界の血脈とやらとはまったく無関係だ。
そう応えてからはたとなり、内心焦る。
俺は一応、その血脈の関係者となっている。
測って何も出ないとなれば、かなりマズい……!!

「カイザー…あの…ッ」
「すぐ終わる」

言い募ろうとした俺を遮り、カイザーが手首を握る。目の前に先の尖った小さな矢じりみたいな石を取り出された。何をと聞きかけて、間近に対峙した紺碧の瞳に息を呑む。

「少し、我慢しろ」
「え?ぁッ、、つッ!!」

チクリとした痛みが走り、顔を顰めた俺の指先から血が溢れ出した。
そのまま困惑した俺に構わず、血が流れる指先を中央の石の上に。
二~三滴、ポタポタと石に血が滴り落ちた。スーッと吸い込まれるように血が消える。

「周りにある六つの石が属性を表す。水なら青、炎なら赤という具合だ。そのあと、真ん中の石が強さや量だ。強ければ強いほど………」

そこまで言ったカイザーの言葉が止まった。六つの石の内、一つが白く光る。

「光か……アルシディアの血脈ならこれはと……」

唸るように言ったカイザーと、俺の目の前で六つの石がそれぞれに交互に色と光を発し目まぐるしく点滅しだした。

「な、何だ、これ⁈」
「馬鹿なッ!一体、どうな……ッ」

どんどん加速し、明滅が激しくなった六つの石と真ん中の石が真っ白な閃光に包まれた。
あまりな出来事に目を見開いたまま動けない俺を守るように、カイザーが俺を正面から抱き込むと同時に、バンッと弾ける音、硝子がけたたましく割れるような激しい音が響く。固く目を瞑る。
光と音が止み、閉じていた目を開けた。

「大丈夫か?」
「へ、いき……」

応えてからハッとなる。
カイザーに正面から抱き込まれ、俺もまたしがみつくように……狼狽える俺が何か言う前に、カイザーがスッと体を離す。あからさまに避けるような仕草。別にくっついていたいわけじゃないが、そういう態度をとられるとあまり気分はよろしくない。
昨日は気遣うような様子を見せてくれたのに……
ムッとして何か言おうとし、目に入った惨状に目を瞠る。

「う、わ、、ぐっちゃぐちゃ…魔道具、粉々じゃん」

魔道具は原形も留めないくらいに木っ端微塵。

「何でこんななったわけ?」

予想とは違う、訳のわからない状況に戸惑う俺の問いに、カイザーは何事か考え込んだまま黙り込む。

「カイザー?」
「ッッ!」

訝り、顔を覗き込んだらビクッと引かれる。
なんなんだ?あきらかに様子がおかしい!

「今日、変じゃね?俺の事、避けてる」
「違……「わねぇだろ!俺の事、見ないし!あからさまに……ッッ、ぃ…たぁッ!」
「マヒロ、どうした⁈」

ビリとした痛みを感じ、顔を顰めた。
魔道具が弾け飛んだ時、破片で傷ついたらしい。右手の甲に切り傷があり、じくじく血が滲む。
そっと手を取られた。

「すまない…」
「別に、カイザーのせいじゃないだろ?むしろ、かばってくれたから怪我も大した……」

言いかけた言葉が止まった。
傷口を癒すかのように、温かく柔らかいものが当てられた。滲む血を舐めとる舌の感触に、息を呑んで固まる。カイザーに傷口を舐められていると認識すると同時に、体が一気に熱くなる。

「カ、、カ、イザー、っ!!」

自分でもわけの分からない動揺に、名を呼んだ声は震えていた。
俺の呼びかけに、カイザーがハッとしたように顔を上げ、例の紺碧の瞳と、俺の瞳が再び真っ向からぶつかった。









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