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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
10.戸惑い、相互揺れる④
「マヒロ!」
部屋に戻る途中、追いかけてきたカイザーに捕まる。
正直、今は放っといてほしい。
構わず部屋に入ろうとしたが、手首を掴まれてしまう。
「具合が悪いのか?」
「違う……けど、ほんとにちょっと気分が悪くなっただけだ」
「……俺があんな言い方したからか?」
「違う…」
「なら、何故、話の途中で出ていく?」
正面向かされ、肩を掴んで固定されるが顔を見る事が出来ない。視線を逸らす俺に、カイザーが矢継ぎ早に質問してくる。
だんだん腹が立ってきて、キッと思いっきり睨む。
「そ、んなの……」
「マヒロ?」
「そんなの、わっかんねぇよッ!!俺だって、なんでこんなモヤモヤすんのか分かんねぇってば!自分で自分が……俺……なんで、こんな傷ついてんだろ」
カイザーは騎士で、皇太子から頼まれたのもあり、俺の面倒を見ている。確かに、俺の意思は尊重してくれるとは言ったけど、よくよく思えば、最初嫌々だった。
カイザーは騎士として、護衛として、義務だから貴人を護っただけ。おかしい事はない。普通だ。それが当然で、自分でもどうしてこんなにショックを受けているのかが分からなすぎて困る。
「もう……やだ。帰りたい…」
わけも分からず異世界に放り出され、勘違いの人違い、危うく殺されかけ、今は………
カイザーを見るのが辛い。カイザーの傍に居ると、自分が分からなくなる。得体の知れないザワザワ感に落ち着かなくなる。
「それが、お前の望みか?」
「………そうだって言ったら?」
「それを望むなら、俺はお前に全面的に協力する」
「できないじゃん……皇太子に刃向かえんの?」
「マヒロが血脈の者だろうとそうでなかろうと、意思を無視し、意のままにせんとするは人道に背く。主君が人の道に背く事をするのを止めるのも臣下の務めだ」
嫌なら嫌って言っていい。協力してくれる。ほんとなら有り難いし感謝する言葉だ。
でも………
臣下の務め………ね。
笑いたくもないのに、自嘲の笑みが溢れた。
俺、また落胆してる。
「……何て言ってもらったら満足なわけ?」
「マヒロ?」
「なんでもない……じゃ、俺が帰れるように、方法、一緒に探して?ここに居る間は、俺を護ってくれる?」
「全力でお前を護る」
力強い言葉。でも、これも義務。カイザーは別に、俺に対して……
そこまで考えて、ハタとなる。
あれ?俺……今、何か、、、?
胸の中のモヤモヤがグルグルに変わる。
口元を手で押さえる。
「マヒロ、どうし………」
「失礼致します、カイザー様」
急に黙りこくった俺に、カイザーが訝しみ問いかけたが、家令のハリスさんの言葉が遮った。
よくよく考えたら、ここは廊下だ。こんな所で話をしていた事実に今更呆れた。
居たたまれなくて俯いて顔を逸らせた俺に、カイザーが口を開きかけ、溜め息をついてからハリスさんに向き直る。
「どうした?」
「申し訳ございません。城より御使が参りまして、皇太子殿下がお呼びにございます」
「殿下が?」
「はい。さように」
「分かった……」
皇太子に呼ばれたんならもういいだろう。部屋で一人休むべく離れかけた。
「恐れながら、貴人様もご一緒にとのことです」
「え………?」
「マヒロも?」
「はい」
恭しく礼をするハリスさんに、困惑したまま呆然とした。
ハリスさんに言ってもしようがないが、なんで俺まで?
「マヒロ、大丈夫か?気分が優れないんなら、断っていいぞ?」
「……………………」
本音で言えばそうしたい。今は、気持ちが治らないし、一人で色々考えたい。
皇太子は悪い奴ではないが、何を考えてんだか分からないし、これ以上、血脈の者と決めつけられ厄介ごとに巻き込まれるのも正直御免だ。
けど………
「いいよ。行く……」
諦めの溜め息をつく。
元々、自分が元の世界に帰るため、仮の拠り所として利用した節も大いにある。勘違いだ、人違いだと言えば良かったのを、打算で動いた結果だ。
相手も俺をそうだと決めつけ、何か思惑持って動いているが、それはこちらも同じ事。騙している分、こちらの罪悪感のが半端なく、強く出られない。
「では、お召し替えを」
皇太子の前に出るのに、普段着はマズかろうと促される。
「大丈夫なのか?」
部屋に入る前にかけられたカイザーの言葉には応える事ができなかった。
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