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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神⑥
しおりを挟むパーーーーーーンッッッ!という弾けた鋭い音の向こうには、柔らかな笑みを浮かべた朱恢の姿。
どうやら両手を打ち鳴らしたらしい。
「喧嘩しない。そんな事の為に集めたのではないよ?」
「失礼いたしました」
「……………………悪、かったよ」
居住まい正し、頭を垂れる青龍と、ぶすくれながらも謝る匂陣。
柔和でありながらも、太子朱恢には絶大な権力があるようだ。
「先の問題とやらはこの際全て不問だ。異議は認めない。私が全て責を負う。異論は?」
「御意のままに……」
フッと小さく息を吐き、青龍が三度頭を垂れる。他の者達も、無言一様のままに頭を下げた。
「さて、大分話が逸れてしまった。本題に入ろうか?」
*
*
*
*
*
「それで?そこから話があったのでは?」
「いや、まぁ……それが」
胡乱な目を向けて来る少年に、モゴモゴと口籠もりながら説明をする。
何で、俺がまるで怒られてるかのような図になっているのか……
*
*
*
*
*
「改めて、流人と判明した其方には申し訳ないが、身柄はこのまま庇護させて貰うよ」
「ちょっと、待ってくれ!そもそも、この状況が分かんないって!ここ、本気で何なんだ⁈それに、さっきから言ってる、る、にん?それって俺のこと?」
まるで決定事項。これで決まりとばかりな言い種に、さすがに黙っていられず声を上げる。
説明してくれるとばかり思っていたのに、訳もわからず結論だけ言い渡されても困る。
「ここは羅譲國。聞いた事は?」
「ないよ!つか、それ、どこの国?見た感じ、アジア圏で中華っぽいけど。新しくできたとか?でも、ニュースなんかでそんなの聞いた事ない…」
「うん、決まりだね。まず、羅譲國を知らないというのが決定的。それに、先程から言ってる理解不能な言葉の羅列。聞き馴れない名に、見慣れない格好」
苦笑する朱恢の傍で、青龍が顔を顰める。
「面妖な……」
まるで奇異な物を見るかのようにされるが、俺からしたら今のこの状況全て異質なものだらけだ。
「流人とは、稀人とも言う、狭間という裂け目を通り現れた者達の総称だ。皆、総じてこことは違う場所から流れ着いた者達を表す言葉だよ」
狭間?
裂け目?
こことは違う場所とは?
悪いが、こっちからしたら朱恢達の言ってる事こそ理解できない。
「何だよ、それ!違う世界に来たとでも言いたい訳?」
言ってる事が荒唐無稽過ぎて頭がおかしくなりそうだ。
本気でそんな事を言ってるのかと言いたくなる。
「まぁ、有り体に言えばそうなるかな。まぁ、頭が追いつかないのは理解出来る。私も、聞いた事や文献では知っていたけど、実際、目の当たりにしたのは初めてだ」
「な、、に、それ……ちょ、待っ……え、、?意味、分かん」
頭がパニックを起こし過ぎて痛くなる。
冗談抜きに、目の前がグラングランし、ともすればフラつきそうな体を踏ん張るのが辛い。
ヤバい……本気で、気分悪い。
「一度に言い過ぎたか?顔色が良くないね。まだまだ話さなきゃならない事があるのだけど…」
「流人とはいえ、まだ、他国から流れた間者の可能性も捨てきれません。追求しないままとはゆかぬと思いますが?」
痛ましそうに見てくる朱恢と、相変わらず疑惑の目を向けてくる青龍。
聞きたい事、言いたい事は山ほどある。が、生憎と、俺の精神状態が保ちそうにない。
「はいは~い!!」
ぐらぐら揺れる目の前。吐き気を堪え、何とか立つ俺と、処遇を巡る場に、まるでそぐわない軽い声が響く。
ニコニコと上機嫌とも取れる笑みを浮かべていたのは………ーーーーーーーーーーーーーーーー
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