ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第1話

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その夜、彩はアズサと新しくオープンしたイタリアンの店に来ていた。
親友のアズサとは、会社帰りや休日によく遊んだりする。
39歳ともなると、ほとんどの友達が結婚してしまって、子育てやなんやらで忙しいらしく、めっきり会う機会も減ってしまった。
今や同じ未婚のアズサだけが、唯一の話し相手といっても過言ではない。

席に通され、メニューを開いたとたん、彩の食欲が全開となる。

「まずは、ビールと……生ハムサラダは基本だね」
「うん、いいよ」
「それから……チーズ盛り合わせとシチリア風マリネとアヒージョと。ピザはマルゲリータとビスマルク、あら、このフンギボルチー二もおいしそう。パスタはもちろんペペロンチーノ、それからトリュフカルボナーラとトマトクリームとジェノベーゼ……」
「ちょっと待った!」

アズサがストップとばかりに両手を前に広げる。

「頼むのはかまわないけど、割り勘はごめんだからね」
「えー、だってアズサも食べるでしょ?」
「そんなに食えるか、っての!」
「私は全然食べれるけど……」

アズサは腕を組んで、思いっきりため息をつくと、そっけなく店員を呼ぶ。
素早く席にやってきた若い男の店員は、オーダーを聞きながらアズサの顔をちらちらと見つめた。

まただ。いっつもこうだ。
アズサは彩と違ってスタイルも抜群だし、顔も美人。なおかつ同じ年齢でも、20代に見えるくらい若々しい。
どこでも男たちの注目を集めている。
そこが彩には、とってもうらやましい。

運ばれてきたビールで乾杯した後、彩はさっそく、とっておきの話題を切り出した。

「あのさ、私。ついに結婚相談所に入会しましたあー」
「えっ。マジ!?」

アズサは驚いて、目をまん丸くする。

「大マジだよ。それに早速、最初のお見合いも決まったの」
「へーやったね。どんな男よ?」
「それがさ、聞いてよ。ミムタクに似てて公務員で背も年収も高いんだー」
「……よく、相手がオーケーしたね」
「それ、どういう意味さ」

アズサは真顔になって、右眉をぴくんと釣り上げた。

「……まあ、頑張りな。そんないい男、この歳になるとなかなか相手にしてもらえないから、なんとしででも死守するんだゾ」
「うん、まかせといて」
「ホントにわかってる? 私たちの状況を。今や婚期を逃した大勢のアラフォー女たちが、狂ったように微かに残ったいい男を巡って壮絶なバトルを繰り広げてることに!」
「へぇー、そうなんだ」

彩が大口を開けてピザを猛烈なスピードで食べながらそう答えると、アズサは再び「はあーっ」と大きなため息をつく。

「……アンタって、ほんと脳天気というか、危機感がないっていうか」
「ところでさ、アズサ。純也くんとはどうなの?」
「いきなり話題を変えるなっ!」

高木純也たかぎじゅんやは、アズサの彼氏。
42歳、イケメンで大企業に勤める、いかにもバリバリ仕事が出来る優秀な会社員だ。
アズサとは同棲してもう5年になるが……ひとつ問題がある。
純也は、既婚者なのだ。
8歳になる男の子もいるが、奥さんのところを飛び出して、今はアズサと一緒に暮らしている。

「この前、来年には純也くんと結婚するって言ってたけど。奥さんとは別れられそうなの?」
「う、うん。まあね。純也はそうするって」
「でもさ、純也くんっていっつも、すぐに離婚するって言ってない?」
「いや、今度こそ本気……だから」
「そっか! 良かったね! じゃあ、もうすぐ私もアズサも晴れて結婚ってわけだ!」
「そ、そうだね」
「じゃあ、前祝いとして……追加でステーキとチーズフォンデュ、頼んでいい?」
「はあ? だってまだ料理が残って……ああっ! もう全部なくなってる!」

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