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第1話
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翌日、会社に行ってからも、彩はずっとアズサの質問が頭から離れなかった。
それはまさに、はっと気づかされるような、内なる自分自身への問いかけであったからだ。
私は、結婚がしたいのか。恋愛がしたいのか。
そんなこと、これまで考えたこともなかった。
30歳を過ぎて太りだしたあたりから、結婚願望が低くなった気がする。
それが39歳の今頃になって、アズサも美希も結婚すると聞いてから、とたんに焦りはじめたのが実際のところ。
自分だって結婚したい、という願望だけが心を占めてしまい、この歳で恋愛をすることなど頭にまるでなかった。
だけど、翔さんに出会ってから……。
なんだか心のどこかで、ちょっとした変化が起きたような気がする。
結婚以前に、ああこの人と、恋愛してみたい───心のどこかで、そんな気持ちが芽生えたような……。
そんな気持ちは、遠の昔に消え去ったはずなのに。
「はあ~」
自席で思わず大きなため息をつくと、隣でこっくりこっくりと船を漕ぎながら寝ていた竹下が、はっと目を覚ます。
「はみゃ! はっ、ここはどこにゃ!」
竹下はここのところ、会社でよく寝ている。
仕事が出来ないうえに寝てばかり、となればもう、本当にどうしようもない。
「竹下くん、ここは会社です」
「しゅ、しゅいません、杉崎しゃん! ちょっと、ここにょところ寝びゅそくで……」
「あまり夜更かししちゃダメだよ。しっかり食べて、しっかり睡眠取らないと」
「ひゃい……」
まるで、子供をしつけているようである。
「ところれ……杉崎しゃん、なんか悩みでもあるんでしゅか?」
「な、なんでそう思うの?」
「らって、このところ仕事れミスしたり、ため息ばかりついてましゅ。なんか、上の空ってゆうか」
竹下くんに言われたくないわ!と心の底からそう思い、思わず右手にできた握り拳がぷるぷると震えてしまう。
「ひょっろして、恋、れすか?」
はあっ?
会社でいきなり、なんてこと聞くのよ。
慌てて部長に目を向けるが、相変わらず新聞を読みながら鼻をほじっており、こちらに気を留める様子もない。
「あのね。今、仕事中でしょ。そんな話しないの!」
「ひゃい、すみましぇん……でも、恋の話なら、僕が相談に乗りましゅけど?」
いやいや。
恋愛から最も遠く離れていそうな竹下くんに相談するのはありえない。
「竹下くんさあ、逆に聞くけどこれまで女の子と付き合ったこと、ある?」
「い、いえ、一度もありましぇん……」
やっぱり、思っていた通りである。
可愛い顔していて見た目はそれなりにいい感じなのに、この話し方とおどおどした性格じゃ、女の子は寄りつかないであろう。
「恋愛経験のないひとに、恋愛の相談してどうするのよ?」
「いや、れも……」
「とにかく仕事して。もう寝ちゃダメだよ」
それでも竹下はなにか言いたそうに彩を見つめていたが、やがて肩を落とすと黙ってパソコンのモニタに目を向けたのだった。
それはまさに、はっと気づかされるような、内なる自分自身への問いかけであったからだ。
私は、結婚がしたいのか。恋愛がしたいのか。
そんなこと、これまで考えたこともなかった。
30歳を過ぎて太りだしたあたりから、結婚願望が低くなった気がする。
それが39歳の今頃になって、アズサも美希も結婚すると聞いてから、とたんに焦りはじめたのが実際のところ。
自分だって結婚したい、という願望だけが心を占めてしまい、この歳で恋愛をすることなど頭にまるでなかった。
だけど、翔さんに出会ってから……。
なんだか心のどこかで、ちょっとした変化が起きたような気がする。
結婚以前に、ああこの人と、恋愛してみたい───心のどこかで、そんな気持ちが芽生えたような……。
そんな気持ちは、遠の昔に消え去ったはずなのに。
「はあ~」
自席で思わず大きなため息をつくと、隣でこっくりこっくりと船を漕ぎながら寝ていた竹下が、はっと目を覚ます。
「はみゃ! はっ、ここはどこにゃ!」
竹下はここのところ、会社でよく寝ている。
仕事が出来ないうえに寝てばかり、となればもう、本当にどうしようもない。
「竹下くん、ここは会社です」
「しゅ、しゅいません、杉崎しゃん! ちょっと、ここにょところ寝びゅそくで……」
「あまり夜更かししちゃダメだよ。しっかり食べて、しっかり睡眠取らないと」
「ひゃい……」
まるで、子供をしつけているようである。
「ところれ……杉崎しゃん、なんか悩みでもあるんでしゅか?」
「な、なんでそう思うの?」
「らって、このところ仕事れミスしたり、ため息ばかりついてましゅ。なんか、上の空ってゆうか」
竹下くんに言われたくないわ!と心の底からそう思い、思わず右手にできた握り拳がぷるぷると震えてしまう。
「ひょっろして、恋、れすか?」
はあっ?
会社でいきなり、なんてこと聞くのよ。
慌てて部長に目を向けるが、相変わらず新聞を読みながら鼻をほじっており、こちらに気を留める様子もない。
「あのね。今、仕事中でしょ。そんな話しないの!」
「ひゃい、すみましぇん……でも、恋の話なら、僕が相談に乗りましゅけど?」
いやいや。
恋愛から最も遠く離れていそうな竹下くんに相談するのはありえない。
「竹下くんさあ、逆に聞くけどこれまで女の子と付き合ったこと、ある?」
「い、いえ、一度もありましぇん……」
やっぱり、思っていた通りである。
可愛い顔していて見た目はそれなりにいい感じなのに、この話し方とおどおどした性格じゃ、女の子は寄りつかないであろう。
「恋愛経験のないひとに、恋愛の相談してどうするのよ?」
「いや、れも……」
「とにかく仕事して。もう寝ちゃダメだよ」
それでも竹下はなにか言いたそうに彩を見つめていたが、やがて肩を落とすと黙ってパソコンのモニタに目を向けたのだった。
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