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第1話
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◇
「……とにかく、あの東雲という結婚詐欺師が、彩とヤッたのは間違いない」
いつものように令子は、ちゃぶ台の前にどっかと座り、対面に正座する亀吉を鋭い目で睨み付ける。
その脇で寝転がる三毛猫は、足に抱えた亀吉のレーバンをがじがじと噛みちぎっていた。
「やっぱり、そうかなあ……」
亀吉は目の前で破壊されていく大事なレーバンを、ただ呆然と見つめている。
「こうなったのもボンクラのおまえが、あの二人を見失ったせいだろうが!」
「は、はい……」
「これで彩は、身も心も東雲に捧げちまったわけだ。これから、東雲が彩を身ぐるみ剥がしにかかるだろうよ」
「でもよ、かあちゃん。東雲は本当に結婚詐欺師なのかなあ。俺にはどうも、そうは見えないんだけど……」
「おまえには、ひとを見る目がないんだよっ!」
そうだよな~、だから令子なんかと結婚してしまったんだ。
と、亀吉は心の中で呟く。
口に出したら、確実に殺されるであろう。
「こうなったら、できることはひとつしかないぞ」
「どうするんだい、かあちゃん」
「今後、彩が東雲と会うのを、絶対に阻止するんだ」
「はあ? どうやって?」
「それをこれから考えるんだろうがっ! てめえのウジが沸いた脳みそを少しは働かせてみろっ!」
うーんと唸って、亀吉は頭を抱える。
「……杉本さんに、東雲は結婚詐欺師だからやめておけって、正直に話すとか?」
「あのな! あいつはもう、東雲にぞっこんなんだよっ! よりによって彩を騙しまくったおまえの言うことなんぞ聞くもんかいっ!」
「じゃあ……これはどうだい? 東雲に、もっと金持ちの女を紹介するってのは」
「そんな女が、どこにいるんだよっ! いるなら連れてこいってんだ!」
はあ~。
亀吉は、がっくりと首を落とし、大きなため息をついた。
「俺にはもう、どうすればいいかわかんないよ……かあちゃん、いいアイデアはないのかい?」
「むう……」
令子のほうも、考えあぐねていた。
居室がねっとりとした重い空気に包まれた、そのときである。
結婚相談所の扉が開く音がした。
そして、誰かいますか、という女性の声。
「あれ、客かな? はーい、少々お待ち下さい!」
亀吉はそそくさと立ち上がり、薄汚いジャージからスーツへと素早く着替える。
そして、無理矢理満面の笑顔を作ると、結婚相談所へのドアを開けた。
「いらっしゃいませ!」
そこにいたのはブランド品で身を固めた美女である。
女は亀吉を見ると、不機嫌そうに眉をひそめた。
「ええと、入会希望でいらっしゃいますか?」
「違う。聞きたいことがあるの」
どうも雰囲気からして、女はいらいらしているようだ。
「最近、この結婚相談所に、東雲って男が入会したでしょ」
「あ、はい……って、いえいえ、会員様の個人情報は明かせませんので……」
「今、はいって言ったよね? それに調べはついてるんだけど!」
「いや……その……」
すでに亀吉は女の高圧的な口調に、すっかりおよび腰となっていた。
「それで……あなたと東雲様は、どういったご関係で?」
すると女は怒りをこめて、こう答える。
「東雲の婚約者よっ!」
「……とにかく、あの東雲という結婚詐欺師が、彩とヤッたのは間違いない」
いつものように令子は、ちゃぶ台の前にどっかと座り、対面に正座する亀吉を鋭い目で睨み付ける。
その脇で寝転がる三毛猫は、足に抱えた亀吉のレーバンをがじがじと噛みちぎっていた。
「やっぱり、そうかなあ……」
亀吉は目の前で破壊されていく大事なレーバンを、ただ呆然と見つめている。
「こうなったのもボンクラのおまえが、あの二人を見失ったせいだろうが!」
「は、はい……」
「これで彩は、身も心も東雲に捧げちまったわけだ。これから、東雲が彩を身ぐるみ剥がしにかかるだろうよ」
「でもよ、かあちゃん。東雲は本当に結婚詐欺師なのかなあ。俺にはどうも、そうは見えないんだけど……」
「おまえには、ひとを見る目がないんだよっ!」
そうだよな~、だから令子なんかと結婚してしまったんだ。
と、亀吉は心の中で呟く。
口に出したら、確実に殺されるであろう。
「こうなったら、できることはひとつしかないぞ」
「どうするんだい、かあちゃん」
「今後、彩が東雲と会うのを、絶対に阻止するんだ」
「はあ? どうやって?」
「それをこれから考えるんだろうがっ! てめえのウジが沸いた脳みそを少しは働かせてみろっ!」
うーんと唸って、亀吉は頭を抱える。
「……杉本さんに、東雲は結婚詐欺師だからやめておけって、正直に話すとか?」
「あのな! あいつはもう、東雲にぞっこんなんだよっ! よりによって彩を騙しまくったおまえの言うことなんぞ聞くもんかいっ!」
「じゃあ……これはどうだい? 東雲に、もっと金持ちの女を紹介するってのは」
「そんな女が、どこにいるんだよっ! いるなら連れてこいってんだ!」
はあ~。
亀吉は、がっくりと首を落とし、大きなため息をついた。
「俺にはもう、どうすればいいかわかんないよ……かあちゃん、いいアイデアはないのかい?」
「むう……」
令子のほうも、考えあぐねていた。
居室がねっとりとした重い空気に包まれた、そのときである。
結婚相談所の扉が開く音がした。
そして、誰かいますか、という女性の声。
「あれ、客かな? はーい、少々お待ち下さい!」
亀吉はそそくさと立ち上がり、薄汚いジャージからスーツへと素早く着替える。
そして、無理矢理満面の笑顔を作ると、結婚相談所へのドアを開けた。
「いらっしゃいませ!」
そこにいたのはブランド品で身を固めた美女である。
女は亀吉を見ると、不機嫌そうに眉をひそめた。
「ええと、入会希望でいらっしゃいますか?」
「違う。聞きたいことがあるの」
どうも雰囲気からして、女はいらいらしているようだ。
「最近、この結婚相談所に、東雲って男が入会したでしょ」
「あ、はい……って、いえいえ、会員様の個人情報は明かせませんので……」
「今、はいって言ったよね? それに調べはついてるんだけど!」
「いや……その……」
すでに亀吉は女の高圧的な口調に、すっかりおよび腰となっていた。
「それで……あなたと東雲様は、どういったご関係で?」
すると女は怒りをこめて、こう答える。
「東雲の婚約者よっ!」
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