ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

文字の大きさ
47 / 114
第1話

11

しおりを挟む



ふたりで海岸へ行って夏の煌めく海を眺め、それから、水族館でイルカショーを観て歓声を上げ。
楽しい時間は、瞬く間に過ぎていった。
彩としては、こんな楽しいデートなんて、これまでほとんど記憶にない。
まるで子供のように、はしゃいでしまった。

気づくと夕方となり、海沿いのオープンテラスで赤い夕日を眺めながら食べたのは海鮮丼。
魚介類の新鮮さに我を忘れて、何杯お代わりしたのか定かではない。

再び幽体離脱した彩を、東雲は黙って見つめていた。

「す、すみません……また、気を失ってました……」
「いいさ。彩さんを観察するのは興味深い」

そして夜となり。
海岸線をずっと走り続けて到着したのは、大きなリゾートホテルだった。
もちろん、今日が泊まりとなるであろうことは、彩も想像していたのである。

駐車場にクルマを止めた東雲は、ふとバックミラーに目をやった。
そしてなぜか、目つきを鋭くする。
それは今日一日、見せたことのない険しい表情だった。

「翔さん、どうしました?」

突然の急変に彩がおそるおそるそう聞くと、東雲はふっと表情を崩す。

「いや、なんでもない。職業上のクセでね、いつもちょっとしたことが気になるだけなんだ」

そうか、翔さん警察に勤めてるんだもんな。
確かにあの表情は、テレビで見る刑事みたいだった。
いや、そんな翔さんも、かっこいいんだけど。





東雲が予約した部屋は、オーシャンビューだった。
暗くて海は見えないけど、窓を開けると波風と波音が心地いい。

今夜こそは。

決意も新たに彩がバスルームへ向かおうとすると、いきなり東雲に腕を掴まれた。

「翔さん、私、シャワーを……」
「いや、このままでいい」

突然の濃厚なキスで、口を塞がれる。
キスしたまま彩はベッドに押し倒され、強引にワンピを脱がされた。

汗をかいているのにシャワーを浴びないままだなんて、恥ずかしい……。
だけど、抵抗できずに体の力がとろんと抜けてしまう。

ああ、翔さん……。

気づくと、ふたりともハダカになっていた。
東雲はキスを続けながら、しなやかな指で彩のふくよかなからだを隅々まで丁寧にまさぐっていく……。

「いい?」
「はい……」

まさにその時だった。
部屋のドアが、激しくドンドンと叩かれる。

東雲が無表情に顔を上げた。

「な、なんでしょう……」
「ちょっと待ってて」

東雲はベッドから立ち上がると、バスタオルを腰に巻いてドアへと向かう。
彩もアッパーシーツでハダカのからだを隠して様子をうかがった。

相変わらず、ドアは激しく叩かれ続けている。
東雲はドアの前で立ち止まり、しばらくそのけたたましい音に聞き入る。
そして、意を決したようにドアを開けた。

とたんに部屋中に響き渡ったのは、女の金切り声。

「婚約者のくせに、ここでなにしてるのっ! 女と一緒なのは、わかってるんだからねっ!!」

女は東雲を突き飛ばすと、部屋に駆け込んでくる。
そうしてベッドの彩の姿を見るなり、驚愕の表情を浮かべた。

「えっ……!! なんで、アヤがここに……!?」

彩も完全に固まってしまった。
東雲の婚約者と名乗るその女は……美希だったからである。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...