ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第1話

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───10時間前。

鶴田は駅前の柱の陰から、ロータリー前に立つ彩を監視していた。
まだ10時だというのに酷い暑さで、鶴田は流れ出る汗を何度もハンカチで拭う。

今日は、東雲とどこへ行くんですかね~。
いっそ、いきなりホテルに行ってくれれば、こっちも楽なんだけどなあ。

ふたりがホテルに着き次第、あの東雲の婚約者───美希って言ったっけ。
彼女に連絡を入れるよう、厳しく命令されている。

はあ~。
これって、結婚相談所の仕事なんだろうか。
会員どうしを適当にひっつけるだけで、ばんばんカネが入ってくる楽な仕事だ、とかあちゃんは言ってたけど。
俺、なんでこんな探偵まがいのキツい商売をさせられてるんだろうなあ。

令子や美希に怒鳴られてばかりで精神的に参るし、炎天下でからだはしんどいし……。

「ああもう、ヤケクソですわ!」

道行く人々が、怪訝な顔をして鶴田に注目した。
母親が子供に向かって、見ちゃダメよ!と諭している。
しまった。つい声に出してしまった。
鶴田はあわてて、まわりにぺこぺこと頭を下げる。

それにしても、彩は電車に乗らず、なんであんなところに立ってるのかな。
あれ、彩の前にクルマが止まったぞ。降りてきたのは……東雲だ。

しまった!
今日は東雲のクルマでデートなのか。
(こういう想像力の足りなさが、鶴田なのである)
こりゃあ、マズいぞ。どうやって追いかけよう。
そうだ、タクシーだ。

鶴田はロータリーで客待ちしているタクシーに、そそくさと乗り込んだ。

「どこまで?」

でっぷりと太ったやくざみたいな風貌で目つきの悪い運転手が、ぶっきらぼうに尋ねてくる。

「あ、あのクルマを追っかけてくれ!」

彩を乗せた東雲のクルマは、走り始めたところだ。

「ああ? お客さん、刑事かい」
「いやその……まあ、そんなものかな」
「そうか、任せとけ。俺は昔、さんざん警察に世話になったから、たまには役に立たねえとな!」

タクシーは、タイヤを鳴らして急発進する。
運転手はクラクションを叩きまくりながら、間に入った前方のクルマを蹴散らしていった。

「ひいーっ!」
「うるせえっ! ガキみてえな悲鳴上げるなっ!!」

やがて、東雲のクルマの後ろにぴったりと張り付く。

「くそっ、制限速度でノロノロ走りやがって! お客さんよう、いっそぶつけちまおうか!」
「待って……お願いだから、気づかれないようにそっと追いかけて……」

運転手は舌打ちしながら、バックミラー越しに鶴田を凶悪な目つきでギロリと睨みつけた。

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