56 / 114
第1話
14
しおりを挟む
◇
同時刻。
彩が駅前にあるファミリーレストラン、オリーブの森の店内に入ったとたん、窓際の席にいた竹下がとっさに直立して頭を下げた。
あんぱんのせいで断れなかったが、約束してしまったからには仕方がない。
やむなく彩は、竹下に会いに来たのだ。
「き、来てくれてありがとうございます!」
席に着くなり、竹下は再び深々と頭を下げる。
もう夜だから、話し方も変じゃないみたいだ。
「う、うん……」
「好きなモノを、好きなだけ食べて下さい」
「そんなこと言うと、私、際限なく食べるよ?」
「大丈夫です。本の印税でそれなりのお金は持っていますから。どうせ他に、遣い道もないですし」
いや、そう言われても、今日は遠慮しておこう。
竹下くんに、あまり借りは作りたくない。
奢ると言われると思って、ここに来る前に小腹を満たすため、牛丼屋で牛丼5杯をかきこんできたところである。
どうせ、彼の期待に答えられる話はできそうにないしな~。
だけど、そうは言っても何も頼まないのはさすがに気が引ける。
「じゃあ……ちょっとだけ戴くよ」
翔さんは、いつも高級店ばかり連れてってくれるけど、竹下くんはファミリーレストラン。
でも、なんだか彼らしくって、悪い気は全然しない。
このお店は安いけど、そこそこ美味しいのだ。
とりあえず、ボロネーゼとマルゲリータピッツァとボンゴレパエリアとビーフシチューとライス3皿だけ注文した。
うん。わたしにしては、かなり少なめにできたな。
これなら、竹下くんに気兼ねすることもないであろう。
「き、今日は、突然お誘いして、すみませんでした!」
「いいよ、そんなに気を遣わなくても。それにしても竹下くんとこうして食事するなんて初めてじゃない?」
「は、はい! 僕はめちゃくちゃ嬉しいですっ!」
そう言って竹下は目をキラキラと輝かせている。
やがて食事が運ばれて来ると、彩は無意識のまま瞬く間に食べ尽くした。
はっと気がつくと、空になった皿の向こうに、呆然とした竹下の顔がある。
「あ……ごめんね……」
「い、いえいえ……美味しそうに食べてもらって、なによりです」
「こんなに食べる女なんて、あきれちゃうでしょ」
「そんな! 食べているときの杉崎さん、すっごく輝いてましたよ!」
私は、食べている時しか、輝けないのであろうか……。
「……それで、話というのは、なんでしょう?」
彩がそう聞くと、杉下は俯いて顔を真っ赤にさせる。
その姿は、めっちゃウブそうで、ある意味かわいらしい。
「杉崎さんて……彼氏がいるんですよね?」
そう言われて考えてみると、翔さんて本当の彼氏と言えるんだろうか……。
だって私は好きだけど、翔さんは、そういう感じじゃないみたいだし。
「まあ……どういえばいいか……」
「その言い方は、彼氏とうまくいってないとかですか? この前も駅で泣いてましたし」
「いや、自分でもよくわからないんだ……」
竹下はおもむろに、びしっと背筋を伸ばすと腕を組み、真剣な顔で彩を直視する。
「彩さんを困らせる彼氏なんて、良くないと思います!」
「そうは言っても、彼氏だから」
「僕なら、必ずや彩さんを生涯大切にします!」
「はい……?」
「だから、そんな彼氏とは別れて、僕と付き合いましょう!!」
熱く宣言する竹下を、彩はぽかんと見つめた。
同時刻。
彩が駅前にあるファミリーレストラン、オリーブの森の店内に入ったとたん、窓際の席にいた竹下がとっさに直立して頭を下げた。
あんぱんのせいで断れなかったが、約束してしまったからには仕方がない。
やむなく彩は、竹下に会いに来たのだ。
「き、来てくれてありがとうございます!」
席に着くなり、竹下は再び深々と頭を下げる。
もう夜だから、話し方も変じゃないみたいだ。
「う、うん……」
「好きなモノを、好きなだけ食べて下さい」
「そんなこと言うと、私、際限なく食べるよ?」
「大丈夫です。本の印税でそれなりのお金は持っていますから。どうせ他に、遣い道もないですし」
いや、そう言われても、今日は遠慮しておこう。
竹下くんに、あまり借りは作りたくない。
奢ると言われると思って、ここに来る前に小腹を満たすため、牛丼屋で牛丼5杯をかきこんできたところである。
どうせ、彼の期待に答えられる話はできそうにないしな~。
だけど、そうは言っても何も頼まないのはさすがに気が引ける。
「じゃあ……ちょっとだけ戴くよ」
翔さんは、いつも高級店ばかり連れてってくれるけど、竹下くんはファミリーレストラン。
でも、なんだか彼らしくって、悪い気は全然しない。
このお店は安いけど、そこそこ美味しいのだ。
とりあえず、ボロネーゼとマルゲリータピッツァとボンゴレパエリアとビーフシチューとライス3皿だけ注文した。
うん。わたしにしては、かなり少なめにできたな。
これなら、竹下くんに気兼ねすることもないであろう。
「き、今日は、突然お誘いして、すみませんでした!」
「いいよ、そんなに気を遣わなくても。それにしても竹下くんとこうして食事するなんて初めてじゃない?」
「は、はい! 僕はめちゃくちゃ嬉しいですっ!」
そう言って竹下は目をキラキラと輝かせている。
やがて食事が運ばれて来ると、彩は無意識のまま瞬く間に食べ尽くした。
はっと気がつくと、空になった皿の向こうに、呆然とした竹下の顔がある。
「あ……ごめんね……」
「い、いえいえ……美味しそうに食べてもらって、なによりです」
「こんなに食べる女なんて、あきれちゃうでしょ」
「そんな! 食べているときの杉崎さん、すっごく輝いてましたよ!」
私は、食べている時しか、輝けないのであろうか……。
「……それで、話というのは、なんでしょう?」
彩がそう聞くと、杉下は俯いて顔を真っ赤にさせる。
その姿は、めっちゃウブそうで、ある意味かわいらしい。
「杉崎さんて……彼氏がいるんですよね?」
そう言われて考えてみると、翔さんて本当の彼氏と言えるんだろうか……。
だって私は好きだけど、翔さんは、そういう感じじゃないみたいだし。
「まあ……どういえばいいか……」
「その言い方は、彼氏とうまくいってないとかですか? この前も駅で泣いてましたし」
「いや、自分でもよくわからないんだ……」
竹下はおもむろに、びしっと背筋を伸ばすと腕を組み、真剣な顔で彩を直視する。
「彩さんを困らせる彼氏なんて、良くないと思います!」
「そうは言っても、彼氏だから」
「僕なら、必ずや彩さんを生涯大切にします!」
「はい……?」
「だから、そんな彼氏とは別れて、僕と付き合いましょう!!」
熱く宣言する竹下を、彩はぽかんと見つめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる