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第1話
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◇
東雲とアズサのお見合いが始まったヤケクソ結婚相談所は、どこか緊張感に包まれていた。
なにせお見合いだと言うのに、ふたりとも見つめ合ったまま一言も発しないのである。
こんなお見合いなど、この世に存在するのであろうか。
後ろに立つ鶴田はそんな空気に耐えられず、だらだらと汗を垂れ流し、生唾をひたすら飲み込むだけである。
───しばらくして、やっとのことで東雲が声を発した。
「……君は美人だな。誰かみたいに作られたものではなく、自然な美しさがある」
するとアズサも、無表情のまま返事をする。
「あら、ありがとう。誰かっていうのは、美希ね。整形のこと知ってたんだ」
「彼女の家で、たまたま昔の写真を見かけてね」
「ふうん。確かに美希の本当の顔はブサイクだもんね。じゃあ、それで婚約解消したってわけか」
「違う、婚約解消は別の理由だ。俺は見た目はどうだって構わない」
「ちょっとさー。それって、アヤに失礼じゃない?」
「そうかな。見た目で全てを判断する男のほうが、ずっと失礼だと思うんだが」
「あ、そう。じゃあ、私の見た目をどうこう言うのはやめてよね。美人て言われても嬉しくないから」
険悪な雰囲気で言葉を交わすふたりに、鶴田はドキドキして卒倒しそうだった。
だが、なんとかしてふたりをくっつけなければならない。
そうしないと、令子にどんな酷い仕打ちをされるやら。
「あのう……」
必死に笑顔を作りながら話しかけたが、ふたりは同時に鶴田をキッと睨み付ける。
「何よ!」
「なに?」
ひええ。わたしゃ、くらくら目眩がしますよ。
「い、いえ……お、お見合いなんですから、もっと楽しくお話しませんかね~」
するとアズサは、ぴょこんと肩をすくめる。
「そうね。じゃあ、普通にお見合いしましょう。自己紹介すると、私は会社員で彩と同じ39歳。5年間同棲した男に若い女ができて捨てられたばかりの今、最低に落ち込んでる無様な女ってわけ。要は世間で言うところの中古品、いや粗大ゴミかしら」
自分を思いっきり卑下して、どうだと言わんばかりのアズサ。
だが東雲は、眉をひそめてこう返した。
「5年間同棲した挙げ句に捨てたって……それは酷い男だな。だけど悪いのは男であって、君が自分の価値を下げる必要はないと思う」
「ふ、ふん。心理カウンセラーみたいな御託を言われたって、全く心に響かないけど」
「いや、本心で言っているんだが。君のことは彩さんから、よく聞かされていたよ」
「アヤが、私のことを?」
「ああ。君をとっても信頼していた。人情味があって、心が綺麗なひとだとね。過去なんて、どうだっていいんだ。大事なのは、本質を失わないことだと俺は思う」
「過去はどうだっていいって……本気でそう言ってる?」
「だって、過ぎたことを考えても、仕方がないじゃないか。誰だって、失敗はあるさ」
「まあ、そうだけど……」
「君は、今だって十分魅力的に見えるけどね。俺には」
東雲がそう言ったとたん、表情は変わらずともアズサの顔はみるみるうちに紅潮した。
さすがにその変化は、鈍感な鶴田にもわかるほどであった。
あれれ。
もしかしてこれって……いい感じになってませんか……?
東雲とアズサのお見合いが始まったヤケクソ結婚相談所は、どこか緊張感に包まれていた。
なにせお見合いだと言うのに、ふたりとも見つめ合ったまま一言も発しないのである。
こんなお見合いなど、この世に存在するのであろうか。
後ろに立つ鶴田はそんな空気に耐えられず、だらだらと汗を垂れ流し、生唾をひたすら飲み込むだけである。
───しばらくして、やっとのことで東雲が声を発した。
「……君は美人だな。誰かみたいに作られたものではなく、自然な美しさがある」
するとアズサも、無表情のまま返事をする。
「あら、ありがとう。誰かっていうのは、美希ね。整形のこと知ってたんだ」
「彼女の家で、たまたま昔の写真を見かけてね」
「ふうん。確かに美希の本当の顔はブサイクだもんね。じゃあ、それで婚約解消したってわけか」
「違う、婚約解消は別の理由だ。俺は見た目はどうだって構わない」
「ちょっとさー。それって、アヤに失礼じゃない?」
「そうかな。見た目で全てを判断する男のほうが、ずっと失礼だと思うんだが」
「あ、そう。じゃあ、私の見た目をどうこう言うのはやめてよね。美人て言われても嬉しくないから」
険悪な雰囲気で言葉を交わすふたりに、鶴田はドキドキして卒倒しそうだった。
だが、なんとかしてふたりをくっつけなければならない。
そうしないと、令子にどんな酷い仕打ちをされるやら。
「あのう……」
必死に笑顔を作りながら話しかけたが、ふたりは同時に鶴田をキッと睨み付ける。
「何よ!」
「なに?」
ひええ。わたしゃ、くらくら目眩がしますよ。
「い、いえ……お、お見合いなんですから、もっと楽しくお話しませんかね~」
するとアズサは、ぴょこんと肩をすくめる。
「そうね。じゃあ、普通にお見合いしましょう。自己紹介すると、私は会社員で彩と同じ39歳。5年間同棲した男に若い女ができて捨てられたばかりの今、最低に落ち込んでる無様な女ってわけ。要は世間で言うところの中古品、いや粗大ゴミかしら」
自分を思いっきり卑下して、どうだと言わんばかりのアズサ。
だが東雲は、眉をひそめてこう返した。
「5年間同棲した挙げ句に捨てたって……それは酷い男だな。だけど悪いのは男であって、君が自分の価値を下げる必要はないと思う」
「ふ、ふん。心理カウンセラーみたいな御託を言われたって、全く心に響かないけど」
「いや、本心で言っているんだが。君のことは彩さんから、よく聞かされていたよ」
「アヤが、私のことを?」
「ああ。君をとっても信頼していた。人情味があって、心が綺麗なひとだとね。過去なんて、どうだっていいんだ。大事なのは、本質を失わないことだと俺は思う」
「過去はどうだっていいって……本気でそう言ってる?」
「だって、過ぎたことを考えても、仕方がないじゃないか。誰だって、失敗はあるさ」
「まあ、そうだけど……」
「君は、今だって十分魅力的に見えるけどね。俺には」
東雲がそう言ったとたん、表情は変わらずともアズサの顔はみるみるうちに紅潮した。
さすがにその変化は、鈍感な鶴田にもわかるほどであった。
あれれ。
もしかしてこれって……いい感じになってませんか……?
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