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第1話
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◇
「ふう~、まったくここは暑いわね。エアコン、効いてないんじゃない?」
赤くなった顔を、アズサは努めて平静を装いながら手で扇ぐ。
「ちょっと鶴田さん……あれ、どこ行った?」
振り返ると、いつの間にか鶴田の姿が消えていた。
どうやら奥の部屋に行ったようだが、お見合い中に突然いなくなるなんて、どうしたんだろう。
「まあ、いいか」
東雲は相変わらずクールな目つきで、静かにアズサを見つめていた。
その表情からは、なんの感情も推し測ることはできない。
「……東雲さん、ひとつ聞いてもいい?」
「ああ」
「アヤから聞いたんだけど、恋愛感情を持てないって本当?」
すると東雲は、僅かに顔を曇らせて視線を落とした。
「……ああ。好きという感覚が俺には良くわからない。そういう体質なんだと自分では理解してる」
「アヤはね、東雲さんのことがホントに好きだったんだよ。そんなの、アヤがかわいそうだと思わない?」
「それは……すまないと思っている。だが、俺も彩さんを気に入っていたのは確かだ」
「電話でアヤと話したけど、すっごく悩んでた。恋愛できないひとと、結婚してうまくやっていけるのかなってね」
「俺は……恋愛と結婚は別物だと思っている」
「アンタって……女心がわかってないなあ。女はいくつになっても、恋愛したいんだよ。まあ、わたしは、もう恋愛はこりごりだけど」
「そうなのか?」
東雲は、ふと興味深げにアズサに目をやった。
アズサは慌てて、大げさに両手を横に振る。
「いやいや、私は極めて特殊な例だから。それにしても、アヤ……アンタとの交際を諦めるなんて。それだけ思い詰めていたんだねえ。もっと相談に乗ってあげれば良かった……」
アズサが肩を落として、ため息をついたそのとき。
奥のドアが開いて、鶴田が姿を現した。
なぜか、二本のジョッキが乗ったトレーを手にしている。
「お、お話は進んでますかー。こここちら、特別サービスとなります!」
鶴田は居酒屋時代の慣れた手つきで、ジョッキをふたりの前にとんとんと並べる。
「鶴田さん、なにこれ?」
「ハイパーストロングチューハイです! これを飲んで、おふたりのお話をもっと盛り上げましょう!!」
とたんに、東雲は顔をしかめた。
「鶴田さん。俺、酒は飲まないって言ったはずだけど」
「だ、大丈夫です! 東雲様のは、特注のハイパーストロングチューハイ・ゼロ。つまり、アルコールは全く入っておりません!」
「しかし……」
不満そうな東雲と打って変わって酒好きのアズサは、とても嬉しそうである。
「ここ、すっごく暑いから、喉渇いてたんだー。お見合いに、お酒を出してくれる結婚相談所なんて最高じゃない。せっかくだから、乾杯しようよ!」
「あ、ああ……仕方がないな」
ふたりともジョッキを手にして、カキンと合わせる。
そして、アズサはいかにも幸せそうに。また東雲はしぶしぶと、それを喉に流し込んだ。
その様子を、鶴田はドキドキしながら見ている。
なにせ、東雲に出したチューハイは、アルコールゼロなんかではなく、ホンモノのハイパーストロングだからである。
それは、令子の命令だった。
さて、酔っ払ったふたりは、これからどうなるんでしょう……。
「ふう~、まったくここは暑いわね。エアコン、効いてないんじゃない?」
赤くなった顔を、アズサは努めて平静を装いながら手で扇ぐ。
「ちょっと鶴田さん……あれ、どこ行った?」
振り返ると、いつの間にか鶴田の姿が消えていた。
どうやら奥の部屋に行ったようだが、お見合い中に突然いなくなるなんて、どうしたんだろう。
「まあ、いいか」
東雲は相変わらずクールな目つきで、静かにアズサを見つめていた。
その表情からは、なんの感情も推し測ることはできない。
「……東雲さん、ひとつ聞いてもいい?」
「ああ」
「アヤから聞いたんだけど、恋愛感情を持てないって本当?」
すると東雲は、僅かに顔を曇らせて視線を落とした。
「……ああ。好きという感覚が俺には良くわからない。そういう体質なんだと自分では理解してる」
「アヤはね、東雲さんのことがホントに好きだったんだよ。そんなの、アヤがかわいそうだと思わない?」
「それは……すまないと思っている。だが、俺も彩さんを気に入っていたのは確かだ」
「電話でアヤと話したけど、すっごく悩んでた。恋愛できないひとと、結婚してうまくやっていけるのかなってね」
「俺は……恋愛と結婚は別物だと思っている」
「アンタって……女心がわかってないなあ。女はいくつになっても、恋愛したいんだよ。まあ、わたしは、もう恋愛はこりごりだけど」
「そうなのか?」
東雲は、ふと興味深げにアズサに目をやった。
アズサは慌てて、大げさに両手を横に振る。
「いやいや、私は極めて特殊な例だから。それにしても、アヤ……アンタとの交際を諦めるなんて。それだけ思い詰めていたんだねえ。もっと相談に乗ってあげれば良かった……」
アズサが肩を落として、ため息をついたそのとき。
奥のドアが開いて、鶴田が姿を現した。
なぜか、二本のジョッキが乗ったトレーを手にしている。
「お、お話は進んでますかー。こここちら、特別サービスとなります!」
鶴田は居酒屋時代の慣れた手つきで、ジョッキをふたりの前にとんとんと並べる。
「鶴田さん、なにこれ?」
「ハイパーストロングチューハイです! これを飲んで、おふたりのお話をもっと盛り上げましょう!!」
とたんに、東雲は顔をしかめた。
「鶴田さん。俺、酒は飲まないって言ったはずだけど」
「だ、大丈夫です! 東雲様のは、特注のハイパーストロングチューハイ・ゼロ。つまり、アルコールは全く入っておりません!」
「しかし……」
不満そうな東雲と打って変わって酒好きのアズサは、とても嬉しそうである。
「ここ、すっごく暑いから、喉渇いてたんだー。お見合いに、お酒を出してくれる結婚相談所なんて最高じゃない。せっかくだから、乾杯しようよ!」
「あ、ああ……仕方がないな」
ふたりともジョッキを手にして、カキンと合わせる。
そして、アズサはいかにも幸せそうに。また東雲はしぶしぶと、それを喉に流し込んだ。
その様子を、鶴田はドキドキしながら見ている。
なにせ、東雲に出したチューハイは、アルコールゼロなんかではなく、ホンモノのハイパーストロングだからである。
それは、令子の命令だった。
さて、酔っ払ったふたりは、これからどうなるんでしょう……。
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