ヤケクソ結婚相談所

第１話

１９

数ヶ月後───。


ヤケクソ結婚相談所に、ヒステリックな女の金切り声が響き渡った。

「いいこと！？　東雲がアヤにかっ攫われたのは、おたくのせいでもあるんだからっ！　だから、東雲よりもっともっと上のいい男をすぐさま見つけなさいっ！　いい、絶対よっ！！」

鬼の形相で美希は鶴田に言い放つと、肩を吊り上げながら大股で出て行く。
扉が、バシン！と大きな音を立てた。

「はあ～」

汗だくの鶴田は疲れ切って、よたよたしながら居室へのドアを開けた。
すると今度は、令子の怒鳴り声が鶴田に浴びせられる。

「おいっ！　どうするんだおまえ！　あんなのを会員にしちまって！！」
「だってかあちゃん、仕方がないじゃないか。もう他に会員がいないんだし」

アズサはテレビで海外のガラス職人のドキュメンタリーを観て、これだと膝を叩き。
すぐに退会して、イタリアへと旅立ってしまった。
思い立ったらすぐ行動するところが、いかにもアズサらしい。

東雲は彩と結婚して、退会した。
だが結婚前に彩が退会してしまったので、ヤケクソ結婚相談所の成婚実績は未だゼロである。

「ちょっとそこへ座れ」
「はい……」

いつものようにちゃぶ台の前に亀吉が座ると、三毛猫が飛びかかって来た。
そして何発もの強烈な猫パンチを、亀吉の顔に浴びせかける。

「痛っ！　痛っ！！」
「ボンクラがギャーギャーうるさいんだよっ！！　どうやって会員を増やすか、ちゃんと考えたのかいっ！！」
「そ、それは……居酒屋ヤケクソの常連客を集めて……痛っ！」
「それじゃあ、彩のときと一緒じゃないかっ！　てめえの脳みそはウジ虫に食い尽くされてすっからかんかいっ！！」

そのとき、ふと隣の部屋から声が聞こえてきた。

「あ、あにょ、しゅみましぇん……入会したいんでしゅが……」

いかにも弱々しそうな若い男の声である。
令子はふっと怒りを静めると、険しい目つきのまま唇だけをニヤリと歪ませた。

「飛んで火に入る夏の虫、とはこのことだ」




ー第１話「杉崎彩」編　完ー