ヤケクソ結婚相談所

第２話

１

「冥府様にご紹介できる男性会員の方は、当社にはひとりもございません！」

スマホ越しに、毅然とした口調で答えるオペレーターのその声を聞いて、菊奈は思わずビクッと身をすくめた。
若い女性であろうか。その声はどこか怒気をはらんでいるようでもある。

またか……もう何回目だろう。結婚相談所に門前払いを食らうのは。
どこも入会すらさせてもらえない。
でもここで退いてしまったら、おしまいだ。これが最後のチャンスだと思って１７社目となるこの結婚相談所に入会を申し込んだのである。
菊奈は、おずおずと食い下がった。

「あ、あの……今はいなくても、そのうち紹介できる人が現れるって可能性はないでしょうか？」

すると即座にこう返される。

「その可能性は、全くございませんね！」
「でも……」
「大変申し訳ございませんが、そういった理由で当社では冥府様のご入会をお断りさせて頂きます。それでは失礼致しますっ！」
「ま、待って……」

ぷつり。
電話は一方的に切られてしまった。
これはどう捉えても、明らかな拒絶である。

スマホを手にしたまま、菊奈は薄暗い１Kのアパートの一室で肩を落とし深いため息をついた。
これで知りうる限り大手の結婚相談所は、全て入会を断られたことになる。
心には、絶望というふた文字しか浮かんでこなかった。


冥府菊奈めいふきくな。３０歳。
婚活３年目の、現在派遣会社員である。
細身のすらっとした体型で、世間的にはスタイルが良いと見られるだろうが、自分では貧相な体と思っている。
顔だって面長の古風な美形だが、本人にその自覚は全くない。

性格は極めて温厚で、これまでの人生で人目をはばからずに怒ったのは一度っきり。
小学生の頃、当時飼っていた犬を散歩中に、酔っ払いの爺さんに蹴られた時くらいであろうか。
それ以来、怒りの感情を人に見せた覚えはない。

また倹約家でもあり、この築４０年のボロアパートを見れば誰でも分かる通り、生活は至って質素である。
料理もそれなりに出来るから、毎朝早起きして会社で食べる自分の昼のお弁当を作っている。

自分では全く自信はないが、モテる要素はあるらしい。
だが婚活３年目にして、どんどん結婚からは遠ざかっていく。

求める男性の条件が高いから？
いやいや、そんなことはない。
相手の年収なんかいくらでもいい。最悪、自分が必死に働いて旦那を食べさせる覚悟だってある。
見た目や年齢も気にしない。とにかく、自分を好きになってくれれば、誰だっていい。

一般的には、菊奈みたいな女性は、婚活市場では大人気であろう。
確かに婚活当初は、大勢の男性会員から交際の申込みが殺到して、お見合いやデートで菊奈も大忙しだった。

だが、最近ではそれもサッパリである。
というか、それ以前にどこの結婚相談所にも入会すらできない。

なぜ、かような事態に陥ってしまったのか。
そう。それにはひとつ、重大な問題があったのである。