ヤケクソ結婚相談所

第２話

１

ーーそれは３年前。
菊奈が最初の結婚相談所に入会して、初めてお見合いした男性と「仮交際」を経て「真剣交際」まで進んだ直後のこと。

相手は２歳上の、商社に勤める爽やかなイケメンだった。性格も実直そうで、菊奈もこの人となら、と本気で交際することを決心したのである。
その日、真剣交際となってから初めてのデートで、菊奈も期待に胸を弾ませていた。
だが約束した場所に、時間になっても一向に現れない。
何度か、電話やラインをしてみたが全く反応なしだった。

それでも菊奈は律儀にその場所で２時間待った挙句、やっと諦めて帰ったのである。
フラれちゃったんだな……とがっかりして。
結婚相談所から連絡が来たのは、翌日のこと。

「冥府様に、大変残念なお知らせがございます……」

そこで菊奈は、交際相手の死を知らされたのであった。
なんでも、デートの待ち合わせ場所に向かう途中、駅の階段で杖をついた老婆の転倒事故に巻き込まれ、交際相手だけ頭の打ちどころが悪くて亡くなってしまったらしい。（老婆は無傷）

もちろん菊奈はショックだった。
それから暫くは何も手が付かず、やっと婚活を再開するまでに半年を要した。

だが、新しい交際相手も真剣交際となった途端、死んでしまう。
これまた初デートのその日。約束した場所に向かう途中、落雷に遭ったのである。

その日は雲ひとつない晴天だったのに、なぜか突然交際相手の頭上にだけ黒い雲がもくもくと沸き立ち、雷が落ちたのだ。
ちなみに、人が落雷に遭遇する確率は１００万分の１とされており、日本で年間で亡くなる人は１０人程度。
運が悪かったと言えばその通りであるが……交際を始めたばかりの相手がめったに遭遇しない事故で相次いで亡くなるなんて、そんなことがあるだろうか。不運にもほどってものがある。

菊奈は更なるショックに呆然としたまま、また半年が過ぎていく。
それでも結婚相談所のアドバイザーに暖かく励まされ、なんとか気を取り直して３人目の男性と交際を開始した。

だが、その男性も死んだ。真剣交際となってすぐに。

今度は動物園でデート中に、檻から脱走したキリンに襲われてしまったのである。
キリンは、むっしゃむっしゃと口に草を頬張りながら、男性を思いっきり蹴飛ばしたと言う。
幸いながら（でもないが）、男性がキリンに襲われた当時、菊奈はトイレに行っておりその凄惨な光景を目にすることはなかったが。

３度の悲劇。それはもう、偶然とは言えないであろう。
しかるべく、その後も紹介されて交際へと繋がった男性はことごとく不慮の事故で死んでいった。
その数は総勢６人にも登る。

「悲劇の女」から一転、菊奈は影で「死神女」と呼ばれ、結婚相談所から強制的に退会を余儀なくされた。
噂はたちまち大手の結婚相談所を駆け巡り、今や菊奈はどの結婚相談所からも入会を拒否される処遇となったのである。