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第2話
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「確かにお主は、呪われておる」
薄暗くカビ臭いその小部屋で、老婆である占い師は水晶玉に手をかざしながら、菊奈の顔をじっと睨みつけた。
ここは、古ぼけた雑居ビルの一室にある占いの館である。
その日、菊奈は藁をもすがる思いでネットで見つけた、呪いを専門とする占い師のもとへとやってきたのだ。
「やっぱり……そうなんですか?」
「ああ。間違いない。我らがオットセイの神がそう申されておる」
そう言う老婆は、ぼろぼろの赤い着物を身にまとい、なぜか頭にオットセイのシンボルがひかり輝くカチューシャを付けていて、なんだか怪しげな雰囲気である。
だが、その眼光だけは異常に鋭い。
「呪われているって……いったい何に?」
老婆はその問いにはすぐに答えず、シワだらけの手で水晶玉を撫で回しながら目を瞑る。
そしてなにやら、しわがれた声で呪文のようなものを唱え始めた。
「ぬーだら、ぬーだら、、いくーらもっとるはうまっちょ!……オットセイ神よ、このおなごに何が取り憑いているのか教え給へ……はっ!!」
急に老婆が大声を上げて赤い目をかっと見開いたので、菊奈は驚きと恐怖のあまり丸椅子からひっくり返りそうになった。
「こ、これは……!」
「な、なんなんです?」
「ああ、恐ろしや……ワシの口から真実を伝えることはできぬ! それを言葉に出した途端、我も呪われるであろう!!」
「そんな……」
ドキドキしながらも、菊奈の心は絶望に沈んでいた。
ともかく、交際相手がことごとく死んでしまうのは、やはりなにかに呪われているのは確かなようだ。
それもどうやら、とてつもなく恐ろしいモノに。
「……呪いを解く方法は、ないのでしょうか?」
すると老婆は、重々しく言葉を発する。
「その方法は、ひとつだけある」
「お、教えてください! それを!」
「教えるには、オットセイ神へのお布施が必要じゃ」
老婆がすっと手を差し出したので、菊奈は仕方なく財布から5000円札を取り出し、老婆に渡した。
最初に5000円払ったので、これで1万円である。
老婆は札を、老人とは思えぬ素早い動きで掻っさらう。
そして改めて、菊奈を鋭い目で睨みつけた。
「よいか。これからすぐに北東の方角へと向かうのじゃ」
「北東の方角……ですか?」
「そして、最初に目に入った結婚相談所を訪問しなされ」
「えっ。でも、結婚相談所はもうどこも入会させてくれないのですが」
「大丈夫じゃ。そこなら入会できると、オットセイ神が申しておる。そして、その結婚相談所に行けば、お主の忌まわしき呪いは解けて、生涯を共にできる良き伴侶に巡り合えるであろう」
そんなことが、あるだろうか。
聞いたこともないオットセイ神とやらを信じていいのだろうか。
でも、今はこの怪しげな老婆の言うことを信用するしかない。菊奈はそれほどまでに追い詰められていた。
「わかりました。そうします」
「うむ、頑張りなされ」
「ありがとうございます」
古ぼけた薄暗い店から外へ出ると、真夏の強烈な日差しが照りつけていた。
どっと湧き出る汗をハンカチで拭いながら、菊奈はスマホを取り出してコンパスのアプリを開く。
「えっと北東は……こっちかな?」
コンパスが指し示す北東の方角に向き直ると、とたんに向かいの雑居ビルの壁に設置されたその看板が目に飛び込んできた。
その名も、「ヤケクソ結婚相談所」である。
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