ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第2話

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……あれ、ここは。

私がずっと昔に住んでいた、4畳半のボロアパートじゃないですか。
もう30年くらい前になりますかね。懐かしいなあ。

そしてちゃぶ台に向かい合って座ってるのは……。
かあちゃんと私?
ああ、この頃のかあちゃんは、まだ若くてとってもかわいくて。
今とは全然違いますねー。
私も髪の毛が黒々としてるなあ。風体はさっぱり変わりませんけどね。

ところで、なんで私は宙に浮いてるのでしょう?
これは夢? いや、死ぬ直前に見る、走馬灯というやつでしょうか……。

「亀吉さん!」

若き令子の声に、はいと答えようとしたが亀吉は声が出ない。
代わりに、若い亀吉が返事をした。

「れ、令子さん……なんでしょう。そろそろ終電の時間ですが」
「突然押しかけてしまって、本当にごめんなさい。でも……どうしても亀吉さんとお話がしたくて」

若き令子は、はにかんだようにぽっと頬を赤く染めて俯いた。
一方、若き亀吉のほうはと言えば、時計を見てそわそわしている。

「いや、別に構わないのですが、こ、これから夜勤の仕事がありまして……」
「亀吉さんは……私のこと、どう思ってます?」
「どうって……そりゃあ、その……とってもかわいいし……」

_____そうでした。
当時、かあちゃんは裏通りの安い飲み屋で看板娘として働いていて、わたしは常連客でした。
どうしてだか、かあちゃんは私のことを気に入ったみたいで、たびたび話しかけてくるようになって。
つい住所を教えたら、この日の夜にいきなり押しかけてきたんでしたっけ。

「私は、亀吉さんのことが好きです!」
「ええ……?」
「どうしても、そのことを伝えたいと思ったら、いてもたっても居られなくなって、勢いで来ちゃいました!」
「は、はあ。それは嬉しいんですが、なにせこれから仕事で……遅刻すると社長にこっぴどく叱られるんですよ……」

_____かあちゃん、とってもかわいかったから、そりゃあ私も気になってましたよ。
いきなり好きと言われて、びっくりしちゃって。
もちろん私も心の底では嬉かったんですが、当時は連日夜勤のブラックな職場のことで頭がいっぱいで、心が病んでいたんですよね~。

「亀吉さん……やっぱり迷惑ですか?」
「いえ、そうじゃなくて」
「雰囲気でわかります。そうですよね……私のことなんか……」

令子はうなだれると、いつしかその目から涙がこぼれ落ちた。
こんなシチュエーションに慣れていない亀吉は、酷くうろたえてしまう。

「え、あ、その……」
「本当にごめんなさい!」

手で涙を拭いながら令子は立ち上がり、俯いたまま玄関に向かってタタタっと駆けていく。
その手をとっさに、亀吉は強く握りしめていた。

「わ、私も好きですっ! 令子さんっ!!」


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亀吉はベッドの上で、はっと目を覚ました。
目の前に、(今の)令子の顔があり、おもわずひっと悲鳴をあげる。

「おい、起きたか」

令子はぶっきらぼうにそう言うと、タバコをぷかーとふかした。

気づくと、ここは病室であった。

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