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思い出の曲はいつも突発的にあらわれる

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「さて、どこまで出来たか見せてもらおうか」
平井先輩の言葉に眩魏、星柳、弦に緊張が走った。二日前渡された楽譜、『オブラディ・オブラダ』を三人は一緒懸命に読んだ。それはそれは熱心に。なので、それなりに自信があった。が
しかし、いざ本番となるといつもおちゃらけている二人も顔が少し堅く固まって見えた。
「楽譜はみてもいいし、みなくてもいい。自分が、『ここからわからない!』ってなったらその人は弾くのを止める。いいね?」
『はい!』
「よし、それじゃあ長野、メトロノームつけてくれ」
「おう!」
そういうと、メトロノームを鳴らした。カチカチと無機質な音を立てながら、しっかりリズムを刻んでいる。その音一つ一つが、眩魏達の緊張をより際立たせた。
「1.2.3.4!」
その時、眩魏は確かに他二人と『なにか』がつながった気がした。そのなにかの正体はわからないが、緊張が消え体の奥深くからこみ上げてくるモノがあった。
(何でだろう…すげぇココチイイ…!)
そう思いながら、眩魏達は全力を出して弾いた。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
メトロノームが止められ、静寂と少しの緊張が
このボロボロの部室の中の空気を支配していた。
「……」
「…先輩?」
弦の声に先輩達はハッとした様子でいた。
「いや、すまない。予想を遥かに超えていたんで動揺していた。」
その瞬間、静寂と緊張が支配していた空気がいつもどうりの明るい空気に戻った。
「本当ですか!?」
星柳は大きな声で平井先輩に聞いた。
「ああ、全員暗譜してるしリズムもバッチリだったよ。ただまだ少し強弱が出来てないな。まぁ、ここは後々教えることにしよう。十分合格点だ。」
『やったー!』
と結構大きな声で星柳と弦と眩魏は顔を合わせていった。
「ここまでなら『練習曲』をすっ飛ばしても大丈夫だね!」
秋空先輩のその一声に眩魏達は動揺した。
「練習曲?」
「当たり前じゃん!まだまだ難しい曲がいっっっぱいあるからね!」
そういいながら手を目一杯広げて、『いっぱいあるんだぞー!』とジェスチャーしていた。
「まぁそんなにムズい曲は最初はしないよ!」
と中森先輩はいった。
「おほん。それじゃあ次の楽譜を配る。はっきり言って結構有名だから知ってるはずだ。」
そういって渡された楽譜には『トルコ行進曲』
と書いてあった。
「とるここうしんきょく?何ですかそれ?」
弦の質問に眩魏と星柳は首をタテに振った。
「まぁ、最近の中学生なら無理もないか。」
「いや、先輩達も最近の中学se…」
「細かいことは気にするな」
と平井先輩に怒られた。
「じゃあ一回弾いて見るから思い出しておいてくれ」
そういうと、それぞれ自分達のギターを持った。
「それじゃあ、1.2.3!」
その曲に眩魏は聞き覚えがあった。
(この曲は…あの時の!)
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