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二月(罰)
#1
もちろん犯罪だってことは分かってる。でも、だからってやめるつもりはない。
欲しいものは大抵揃うデパートの中を闊歩する。帽子、腕時計、鞄に財布……どれも俺の三ヶ月分の小遣いが吹き飛ぶほどの値札が貼られている。女は目の保養とか言ってウィンドウショッピングを楽しむけど、あれは正直一ミリも理解できなかった。買えないのにわざわざ欲しいものを眺める神経が分からない。ドMじゃないのか。
俺は、欲しいものは盗んでても手に入れる。
初めて万引きをしたのは八歳のときだ。泥棒はいけない、捕まったらまずいということは理解していたが、友人がまったく悪びれずにやっていたから「へ~良いんだ」と思ってしまった。
むしろお金勿体ないし、今度から一緒に盗もうよ、誘われた。最初はすごくどきどきした。欲しいジュースをひとつずつ手に取って、喋りながら店の中を回る。で、堂々と店を出る。たったこれだけのことで初めての万引きは成功してしまった。
店員は颯爽と横を通り過ぎて行った。視界にすら入っていなかったのかもしれない。まさかこんな小さな子どもが……と油断していることが、子どもながらに分かった。
「かんぱーい!」
近くの公園で万引きの成功を祝い、盗んだジュースとお菓子で大騒ぎした。悪いことをしたと思ったけど、悪い気はしなかった。
結局バレなければ良い。店にも親にも学校にも。それから何度か万引きを繰り返した。
中学に上がり、その友人とは離れてしまった。それでも、たまに万引きしてしまう。彼はもう真っ当に生きてるのだろうか。ため息をつきながら、どんどん高いものを盗むようになった。リスクが上がると生きてる実感が湧く。欲しいものの価値が上がっていく。
その度に自身という人間が、救いようのないレベルまで落ちる。
もう何年も、やめろという声が聞こえている。その声に逆らうのがたまらなく気持ちいい。人が大勢いる場所であえて盗みをするのは、物欲だけでなく快感を味わう為でもあった。
しかし、そのひとり遊びもとうとう終わりを迎える。
「待って、當間君。さっきのお店でなにか盗んだでしょ」
たまにいく雑貨屋でキーケースを盗み、店から出ようとしたときだった。声を掛けてきたのは自分が通う高校の英語教師、古河。
違うと否定しようとした瞬間、彼はスマホを取り出した。その画面には誰かが映っている。目を凝らして確認すると、まさに自分がキーケースをポケットに仕舞うところだった。
「ちょっと話そうか」
全身の血の気が引いていく嫌な感覚。そしてあの時の彼の笑顔を、俺は一生忘れられそうにない。
連れてこられたのは近くにあるネカフェの個室だった。
古河の正確な歳は知らないが、恐らく三十半ば。ちょうど自分の倍ぐらいだ。妻と子どもがいるのは彼の授業中、余談として聞いている。
何だかんだ、英語は一番好きな科目で、フランス語も合わせて彼の授業を複数選択していた。だから彼と関わる機会も他の生徒より多かった。だがプライベートな話をしたことはただの一度もない。
生徒がふざけた回答をしても声を荒らげたりせず、常に微笑んでいた。なのにどこか冷たく、近付きにくい印象のひとだった。
「さっき盗ったのはこのキーケースか。あの店、今時珍しいよねぇ。防犯タグしてない商品多いから今までも盗りやすかったでしょう。他には盗んだ物ない?」
「それだけで……あの、もう服着てもいいですか?」
声が震えそうになるのを堪え、訴える。古河に服を全て脱ぐよう指示され、鞄と服、靴を奪われてしまった。
大の男を前に、自身は全裸で立っている。それが猛烈に恥ずかしい。
「まだ駄目。あ、前も手で隠しちゃ駄目だよ」
釘を刺され、仕方なしに手をどける。當間の性器は力なくぶら下がり、椅子に座る古河の眼前に晒されていた。
當間は高校二年生で、来年から受験が始まる。今万引きが学校に知られたら……果たして停学で済むだろうか。そもそも、初犯でなく常習犯だとバレたら退学処分を危ぶむどころじゃない。警察に通報され、人生終わりだ。
何でもするから見逃してほしいと必死に頼んだ。すると古河は不気味なほど優しい笑顔で頷き、こう言った。
「黙っててあげる。その代わり、俺の言うことを聴いてもらうよ」
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