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剥がれる
#7
しおりを挟むなづなの腕を引き、とにかく走った。既に満身創痍だってのに、何でまだ身体を張るつもりでいるのか。彼のタフな精神力も、普通にすごくて、そして意味不明だ。
分からない。もはやパニックに近いが、廊下を駆け抜けた。
「職員室に行こう! ナイフ持ったまま連れてけば……やばいけど、とりあえず誰か通報してくれるだろ!」
「……っ」
急いで走ったけれど、やはりなづなの脚は遅い。
片脚が上手く上がらないのか、びっこを引くような走り方だった。どんどん、追いかけてくる丹波と距離が縮まる。このままじゃ職員室に着く前に追いつかれるかもしれない。
そう心配していたら、なづなに肩を押された。
「三尋、先行って。何か脚痛くてあんまり走れないんだ。丹波君は俺に怒ってるから、俺が囮になるよ」
「はぁ!? あいつナイフ持ってんだぞ!」
「ね……でも、このままじゃ捕まっちゃうから」
なづなは方向を変えて、真隣にあった教室に入ろうとした。
「ば、馬鹿。やめろって!」
「大丈夫だから逃げて。三尋に何かあったら嫌なんだよ!」
怒鳴ったつもりだったのに、逆に怒鳴り返された。
なづなは目に涙を溜めて、唇を噛み締めている。
「だって、俺……三尋のことが好きだから」
「え」
それは唐突過ぎた。
だから上手く反応できなくて、思考も動作も停止してしまう。そのせいで、彼が教室の中に入っていくのを止められなかった。
「な、なづな……待て……!」
それでも気をしっかり持って、彼の後を追おうとする。しかし、“彼”が来たのも同じタイミングだった。
「殺ってやる……俺が……」
ナイフを持った丹波が、教室の中へ入ってきた。彼は俺のことは見向きもせず、奥に逃げたなづなを追い詰めるように進んだ。
「おい、いい加減にしろよ! そいつがお前に何したって言うんだ!」
叫んでみても、やはり彼は答えない。本当に、どうかしてる。何が彼をこうさせたのか分からないけど……。
丹波は、怯えている。
「次は俺か? ふざけんな、俺は、俺は……あいつらに命令されただけだ! 巻き込まれただけなんだよ!」
真っ暗な教室で、月明かりだけが彼らを照らしている。こんな時に考えることじゃないが、とても綺麗だった。
────離れた場所で暢気に思ってしまった。彼が、手に持ったナイフを振り上げるまでは。
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