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お出迎え
#4
しおりを挟む正直、和巳さんの気持ちを考えると否が応でも暗くなる。
それでも彼が明るく振舞っているのだから、俺が沈んでいたら駄目だと思った。
色々不安はあるけど、それよりとにかく喋りたい。久しぶりの従兄弟との再会にテンションが上がらないはずはないし、……ただの従兄弟とも思ってないから。
鈴鳴は夢に浸るように、目の前に座る和巳を眺めた。
和巳さん、本当にかっこよくなったなぁ……。
いや、子どもの頃からかっこよかった。今は立派な好青年だ。
仕事ができそうな雰囲気を醸し出し、溢れ出るイケメンオーラを隠せてない。ただ座ってコーヒーを飲んでるだけで様になってる。惚れる。
そのせいもあって、未だちょっと緊張していた。大好きな人とはいえ、六年という間隔を空けて会ってみると。
……自分が知っていた彼ではなく、まるで未来にタイムスリップしてしまった様な錯覚に陥っている。
「鈴? どうした、じっと見つめて。俺の顔に何かついてる?」
「あ、いえ、何もついていらっしゃいません!」
突然のことに動揺しておかしな日本語で返してしまった。
変だな。喉が乾いてしょうがない。
ウーロン茶を一気に飲み干し、深呼吸する。
「そっか。ならいいけど……ちなみに、何でずっと敬語なの?」
「え?」
思わぬ所を突かれて返答に困る。しかし隠してもしょうがないので、窓の外に視線を移して答えた。
「久しぶりに会った和巳さんが、すごい大人の人になってるから……緊張しちゃって」
上手く目を合わせられない。自分は昔のまま、彼に対する気持ちは変わってないけど……彼はどうだろう。不安に思って目を泳がせていると、自分の手の上に彼の手が重なった。
「大丈夫だよ。俺は何にも変わってないから。昔みたいに、何でも相談して?」
「……!」
不覚にもドキドキした。
何の取り柄もない俺に、昔と変わらず微笑んでくれる。何かもうそれだけで充分だ。この笑顔を一日中見ていたい。絶対飽きませんことを誓います。
ずっと待ち焦がれてた人が帰って来た。俺を支えてくれて、誰よりも世話を焼いてくれた人が。
この人の役に立ちたかったけど、昔の自分は本当にダメダメダメ野郎で何もできなかった。でも今は違う。今なら俺も、和巳さんの役に立てる……かもしれない!
テーブルの下で拳を握り締め、希望に溢れた未来図を描いた。
「あ、ごめん鈴。俺ちょっとトイレ行ってくる」
「はい。確か、右側にありましたよ」
「サンキュー」
手を振る彼に微笑み返す。
その十数秒後に、店員の上擦った声が聞こえた。
「お、お客様!? そちらは女性トイレです!」
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