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お出迎え

#9

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立派な庭園は手入れが行き届いていて、景観は以前来た時と何も変わってない。いくらしたのか分からない石灯籠も、暗がりの中際立って辺りをぼんやりと照らしている。
玄関前に立ってインターホンを押すと、年配の女性が出迎えてくれた。

「まぁ! 久しぶりね、鈴鳴君。と、もしかしてそちらの方は……和巳君?」
「はい、お久しぶりです」
「やだー! すっかり男前になっちゃって! 皆も驚くわ。さっ、早く上がって。疲れたでしょう」

えっと、この人は確か……夏子さん。
会釈して中へ上がる。しかし並ぶ靴の多さにウッとした。
遠い親戚も来るから顔も名前もあやふやな人がいて、こういう時に困ってしまう。和巳さんは夏子さんのこと覚えてるんだろうか。ずっとニコニコしてるけど。
「和巳君は来ること分かってたけど、鈴鳴君も来てくれるとは思わなかったわ。鈴鳴君ももう二十歳になったのよね?」
「はい」
「せっかくだから一緒に参加してね。まだ学生だから退屈でしょうけど」
笑って誤魔化す。けど、本当にその通りだ。俺が聴いても多分全然分からない。そもそも呼ばれてすらいない集まりだ。だから場違い感が否めない。

でも、それで少しでも和巳さんの気が紛れるならいいか。
会議が終わったらおいとますればいい話だ。そう気楽に考えて三人で廊下を歩いていると、ふと名前を呼ばれた。

「鈴鳴?」
「父さん……」

一瞬、心臓が跳ねた気がした。いや、今もドクドクと脈を打ってる。
そうだ……馬鹿した。親戚の集まりって言ったら和巳さんの両親だけじゃなくて、俺の父親も来るに決まってるのに。すっかり失念していた。

「あ、正剛さん。ちょうど良かった、じゃあ私は先に行ってますね」

夏子さんは台所の手伝いがあると言い残し、先に奥へ行ってしまった。
「正剛叔父さん、お久しぶりです。和巳です。昨日帰国したんですが、事前の連絡が遅れてすいません」
「和巳君か……! いやいや、父のこともあって急だったんだから仕方ない。それより、本当に久しぶりだね。すっかり大人になって」 
「あはは、会う人皆に言われます! ねー、鈴」
二人は楽しそうに、久しぶりの再会に笑っていた。けど、父さんの視線はすぐに俺へと移る。

「ところで、どうしてお前がここにいるんだ? 鈴鳴」
「あ、えっと……」



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